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ITALY NEWS
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2011/10/31 


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「プリーモ伊和辞典」  
 初めてのイタリア語学習辞典が誕生


静岡文化芸術大学教授  高田和文


白水社から、初めてのイタリア語学習辞典「プリーモ伊和辞典」が発行されました。中心となって本辞典の編集を担当された高田和文先生(前ローマ日本文化会館館長、現静岡文化芸術大学教授)に、辞典づくりのコンセプトや背景について、寄稿していただきました。    

JIBO編集部 大島悦子

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日本におけるイタリア語学習者の数は1990年代に飛躍的に増加しました。けれども、イタリア語学習の基礎となる辞書について見ると、英語、フランス語、ドイツ語など他のヨーロッパの言語、あるいは中国語、韓国語などアジアの主要言語と比べて、数・質ともに見劣りする状況はそれほど変わりませんでした。とりわけイタリア語教育の現場に携わる人々からは、初学者向けの学習辞典の必要性がかねてから指摘されていました。

ちなみに、これまでに出版された日本人学習者のためのおもな「伊和辞典」を以下に挙げておきます。
 1)イタリア語小辞典(大学書林、1962年)
 2)新伊和辞典(白水社、1964年、増訂版1981年)
 3)小学館伊和中辞典(小学館、第1版1983年、第2版1999年)
 4)ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典(小学館、2001年)

このうち、1)と2)は初版刊行年から分かるとおりかなり古い辞書です。当時は十分実用に耐えうるものであったと思われますが、この数十年間のイタリア語とそれを取り巻く社会状況の変化を考えると、現代の言葉を学ぶための辞書としてはやはり不十分ではないでしょうか。
3)は日本初の本格的な伊和辞典で、中辞典としてはたいへん充実した内容のものです。長い歴史を持つ英和辞典や仏和辞典にひけを取らない辞書として、刊行当初からイタリア語学習者・教育者の間で高く評価されてきました。1999年の第2版では新語や専門語をさらに加えて見出し語を7万5千とし、初級から実用までの幅広い必要性に応えるものになっています。
4)は同じ出版社から出ているものですが、見出し語を4万5千語に絞り、版型を小型にした携帯に便利な辞書です。和伊の部を設けて実用性を高め、価格も手ごろなことから、最初の辞書として「伊和中辞典」よりもこちらを選ぶ人が多いようです。ただ、小型化するために「中辞典」にある用例がほとんど削除されており、初学者にとっては必ずしも最適の辞書とは言えないように思います。

イタリア語の辞書についてやや特異な現象として、「伊和辞典」とほぼ同数の「和伊辞典」が出版されていることがしばしば指摘されます。出版年順に挙げると、イタリア書房「和伊辞典」(1982年)、大学書林「和伊辞典」(1987年)、白水社「和伊辞典」(1988年)、小学館「和伊中辞典」(1994年)があります。また英語を含めた3カ国語の辞書として、三省堂「デイリー日伊英・伊日英辞典」(2003年)も挙げられます。

さて、こうした過去の伊和辞典・和伊辞典の特徴を踏まえて、日本人のイタリア語学習者、とりわけ初めてイタリア語を学ぶ人を念頭に置いて編纂され、今年4月に白水社から刊行されたのが、「プリーモ伊和辞典」です。英語、フランス語などについては、実用を目的とした辞典とは別に、語学学習の初期の段階で用いる学習辞典がいくつも出版されていますが、イタリア語についてはこれが初めての学習辞典と言っていいでしょう。編集を担当したのは、主としてイタリア語教育に携わる人々で、現場での経験を生かし、初学者にとって使いやすい辞書とするための様々な配慮・工夫がなされています。

まず、編集に当たっては、次のような基本方針を立てました。
1)イタリア語学習の初期の段階で生じる様々な疑問や問題点を解消するため、見出し語、発音表記、訳語、用例、補足説明などあらゆる面で工夫をする。
2)イタリア語を理解するだけでなく、イタリア語を使う能力を養えるような辞典にする。このため、単語の意味だけでなくその使い方を学べるような用例を豊富に盛り込む。また、文を組み立てるために必要な知識として、語と語の結びつきや代表的な構文を示す。
3)初歩から中級、実用レベルの人まで、目的と必要性に応じて使い分けができるような辞典にする。初歩の段階で学ぶ語についてはていねいな記述をする一方、中級レベル以上の人にとって必要な最新の用語や技術用語も幅広く取り入れる。

具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
まず、単語の意味・訳語だけでなく、その語を使った用例を豊富に載せてあります。用例はやさしい文から徐々に複雑な文へと段階的に並べられているので、これを読むことによって、自然にイタリア語の力が身につくようになっています。例えば、dove(どこに) の項には、Dove vai?(君はどこに行くの?)、Dove abita?(あなたはどこに住んでいますか?)といった簡単な文から、Da dove vieni?(君はどこから来たの?)、Per dove passate?(君たちはどこを通っていくの?)など、やや複雑な文へ、さらには Va' dove ti pare.(どこでも好きなところへ行くがいい)といった、かなり高度な文まで、順を追って並べてあります。しかも、用例はできるだけ完結した文の形で挙げてあるので、これをうまく活用すれば、「辞書を読む」ことで自分のイタリア語力に合った文を自然に身につけることができます。

また、イタリア語は他のヨーロッパの多くの言葉と同様に、語形変化が非常に多いことで知られています。名詞・形容詞の単数形・複数形、主語による動詞の複雑な変化に、日本人学習者の多くが最初は戸惑うものです。文中で語の形が変化するため、ある程度の文法の知識がなくては、辞書を引くことすらできません。「プリーモ伊和辞典」ではそうした初学者のぶつかる困難を解消するために、変化形も含めてできるだけ多くの語をそのまま見出し語として載せてあります。よく使われる基本的な動詞の変化形は、規則・不規則にかかわらずそのまま載せるようにしました。また、bene(よく)の語尾を切断した形のbenや, 縮小辞・拡大辞の付いた benino(ちょっとよく)、benone(だいぶよく)、強調形のbenissimo(たいへんよく)など、普段よく使われるにもかかわらずイタリア語の辞書には出ていない形も見出し語になっています。dammi(私にくれ)やdimmi(私に言ってくれ)など、2つ以上の語が結合した形、cos'e(何ですか)、 dov'e(どこですか)など、2つの語を短縮した形もそのまま載せてあります。これまで、名詞・形容詞の性・数や動詞の変化など、基本的な文法の知識がなければ引けなかった語も、とりあえず文や会話の中で出てくる形で引けるようになっているのです。

さらに、イタリア語の文を組み立てるのに不可欠な連語関係(例えば動詞・形容詞と前置詞の使い方)やよく使われる決まった構文を示して、その語を使った文が自分で作れるようになっています。例えば、pensare(思う、考える)の項には、pensare a ...(...のことを考える)、pensare di + 不定詞(...しようと思う)、pensare che + 接続法(...だと思う)といった、前置詞や構文による意味や使い方の違いがわかりやすく説明されています。

他にも、名詞・形容詞の複数形、男性形・女性形の特殊な語尾について従来の辞書よりも詳しく説明していること、すべての動詞について直説法1人称単数の変化形を記していることなど、あらゆる面で初学者への配慮がなされています。

この辞書を編纂した私たちの願いは、日本人学習者に単にイタリア語の単語を調べてその意味を丸暗記するのでなく、イタリア語の単語の成り立ちや文の中での働きを理解しながら、自分でイタリア語の文を作る能力を身につけてもらうことです。外国語学習においても「習うより慣れろ」というのは確かにその通りだと思います。ただ、「自分が納得して慣れる」のと「わからないままとにかく慣れる」のでは、結果は大きく違ってくるはずです。この辞書が、イタリア語学習の初期の段階で直面する様々な疑問や問題点の解消に役立ち、より多くの人がイタリア語の面白さや奥深さを知るための道具になれば、たいへんうれしく思います。



『プリーモ伊和辞典』 和伊付《シングルCD付》


発行:白水社
秋山 余思 監修/高田 和文、白崎 容子、岡田 由美子、 秋山 美津子、マリーサ・ディ・ルッソ、カルラ・フォルミサ−ノ 編
税込価格: 4935円 (本体価格4700円)  
体裁: B6変型 上製 1472頁
詳細 http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=00085

 

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