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ITALY NEWS
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2005/09/30 


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「イタリア労働法制の特徴」(2)
- 在イタリア日本商工会議所セミナーより -


神戸大学教授、ボッコーニ大学客員教授 大内伸哉氏

 



前回に続き、イタリアの労働法制に関する大内氏のお話をご紹介する。今回はセミナーの後半部分。イタリアの労働法制の概要を個別に見ていく。

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(1)労働市場法制
マルコ・ビアジは改革を始める前に労働市場に関する白書を出し、その中でイタリアの労働市場の問題は、@長期失業の多さ、A女性の就業率の低さ、B南北問題(南部での高い失業率、闇労働の多さ)の3つであると指摘した。これらの点が他のヨーロッパ諸国と比べたイタリアの遅れている点であり、改善する必要があると彼は考えていた。

・労働需給のマッチング
就業率を高めるためには、労働需給のマッチングの効率化が必要である。
イタリアでは長い間、一般の労働者を採用する際、会社側は公共職業紹介所(ufficio di collocamento)に行くことが義務付けられており、また労働者側も公共職業紹介所のリストに名前を登録しなければならなかった。会社と労働者が直接契約を結ぶことは禁止されていた。しかも、会社は必要職種と採用希望人数しか指定することができず(richiesta numerica)、その希望人数に合わせて公共職業紹介所がリストの中から順番に紹介していた。90年代初頭になって労働者を特定して求人することが可能となり(richiesta nominativa)、さらに96年にようやく直接採用が認められるようになった。しかしこの段階でも労働者がリストに名前を登録する義務は残り、2002年になってようやくリストも廃止、公的介入のない普通の直接採用へと移行した(ただし、通知の義務は残っている)。このように90年代半ばまで信じられないほど硬直的で強力な公的介入システムが法律上存在していた。

また、労働者派遣の解禁もイタリアは遅かった。日本でも労働者派遣は労働者供給とみなされ厳しく禁止されていたが、1985年に解禁となり、現在では大幅に自由化がなされている。一方、イタリアでは97年になってはじめて解禁された。それまでは労働者供給の禁止という大原則が存在していた。また、97年には職業紹介の公的独占も撤廃され、民間の職業紹介事業への参入が認められるようになった。
しかし、当然ながらこうした規制緩和に対しては、労働組合の反発があった。英米など労働需給のマッチングを重視するアングロサクソン型と違い、大陸法型の国では労働者派遣に対する規制が非常に厳しい。労働者供給が規制されてきた理由は、雇用関係の成立に営利を目的として第三者が介入することは、歴史的にいろいろ問題があったからだ。日本でも、労働基準法の6条に「何人も……業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」と規定されているし、職安法でも労働者供給は原則禁止とされている。かつては"貧しい家の子供が働くために売られる"という悲惨な出来事はどこの国にもあったわけで、こういったことは絶対に規制しなければならないというわけだ。また、労働者派遣は派遣会社と派遣先と労働者の三者関係になるため、責任の所在など法律関係が曖昧になる危険性がある。これらの理由から、アングロサクソン型の影響を受けていない国では、労働者派遣は厳格に規制されてきた。しかし、過去の封建的な労働慣行は現代では妥当しないことや失業者増大という状況から、むしろ労働者派遣を適法化し、労働需給のマッチングを民間の会社にやらせたほうがメリットが大きいという価値判断が徐々に広がってきた。その結果、日本、そしてイタリアでも労働者派遣が解禁されたし、有料職業紹介も大幅に自由化された。この流れは変わらず、今後も労働市場法制の規制緩和は進んでいくだろう。

ちなみに、97年当時、イタリアは中道左派政権の時代で、有名な労働学者トレウが労働大臣だった。労働組合が長い間反対してきた労働者派遣がまさに中道左派政権の時代に実現したというのは皮肉だが、その理由として、労組側も実は派遣は許容せざるを得ないと考えていたためだろうと推測できる。中道左派政権の時代は、労働者にとって不利ではあるがやらざるを得ないことを実施しやすい時代だったわけだ。

・雇用政策
長い間、イタリアでは、就業の促進に力を入れる積極的雇用政策とは対極的な「消極的」雇用政策がとられてきた。その代表が、後述の所得保障金庫CIGという制度である。
しかし、EUレベルでは、積極的雇用政策に力が入れられている。積極的雇用政策には4つのキーワード「就業能力の向上(occupabilita')」、「職場への適応能力の向上(adattabilita')」、「起業家精神・能力の向上(imprenditorialita')」、「男女の機会均等(pari opportunita')」がある。特に就業能力の向上のためには職業訓練(formazione professionale)が重要とされる。しかし、イタリアではこの点があまりうまく機能してこなかったと言われており、今でもさほど改善されていないように見える。

・弾力的な労働形態へ
イタリアには日本語で言う「正社員」という概念がない。私はイタリア語では「dipendenti regolari(正規の従業員)」という言葉をあてているが、正社員に近い意味合いで一般に使われているのは「lavoratori a tempo indeterminato e a tempo pieno」、すなわち「期間の定めのないフルタイム労働者」ということになる。これは大陸法型の国では労働者の典型像とされる。
もちろん、日本にパートタイマーやアルバイトといった非正社員がいるように、イタリアでも期間の定めのないフルタイム労働者とは異なるタイプの労働者がいる。ところがイタリアでは従来、有期契約(期間の定めのある契約)については厳しい規制が行われてきた。これは大陸法型の国では共通して見られる現象だ。日本では有期契約の締結は非常に簡単で、労働基準法第14条で単に契約期間について規定しているのみ。一方大陸法型の国では、有期契約を締結するには正当な理由がなくてはならないといった規制がある。これは、有期契約が解雇規制の潜脱となることを防止するためである。
労働組合も、会社が正社員を有期契約に置き換える可能性があるとして、有期契約の規制緩和に反対してきた。しかし、有期契約には雇用促進というメリットもある。失業者増大という市場の状況に鑑み、イタリアでは80年代から少しずつ規制を緩和させてきている。さらにEC指令の介入もあり、今ではEC各国の法制はかなり似たものとなっている。

次に、フルタイムではないパートタイム(tempo parziale)の労働者について。これは、女性の労働参加率の低さを解決する手段として、イタリアの労働政策担当者にとっては重要な関心事の一つであろう。
パートタイムについても長い間、会社が労働者を搾取するための契約であるとみなされており、法律により規制されてきたが、有期契約同様、EC指令に対応する形で徐々に規制緩和が進んできている。そして、後述するが、2003年のビアジ法ではさらに緩和が促進された。

(2)賃金システムと労働協約制度
・賃金システム

ヨーロッパでは、同じ仕事をしていれば同じ給料をもらえる(同一労働同一賃金)という考え方が認められている国が多いが、日本ではこの原則を一般的な形ではっきり認めた法規定はないし、これを認めるのは適当でないと考える学者が多い。というのは、ヨーロッパと日本では賃金の決定システムが違うためだ。日本は伝統的には年功型賃金制度。継続年数が増え、年齢が上がるにつれて給料(基本給)が基本的に上がっていく。これに対しイタリアの賃金システムは違う。労働協約の中に職業分類というのがあり、そこに賃金等級と各等級に該当する職種が書かれている。そして、賃金表で等級別の賃金を定めている。つまり、職務に応じて賃金が決まる。派遣にしろパートにしろ有期契約にしろ同じ仕事をしていれば一般の労働者と同じ賃金がもらえるというわけだ。日本でこの職務給制度が典型的に適用されているのは派遣労働者だと言われているが、普通の正社員についてはそうではない。
このようにイタリアでは協約で定められた賃金(協約最低賃金)がベースにあり、それに他の賃金項目が加算されていく。かつてのスカラ・モビレの名残である物価調整手当や勤続年数に応じて付け加える手当scatti di anzianita'というものもある(従って、勤続年数に応じてイタリアでも給料は上がっていくが、日本の年功型賃金とはフィロソフィーが違う)。

・労働協約制度
労働協約制度は日本とイタリアでは全く異なっている。日本では企業別協約が基本だが、イタリアは産業別全国労働協約CCNL(contratto collettivo nazionale del lavoro)が基本で、団体交渉のメインは産業別となる。もちろん地域や企業レベルでの協約もあるが、それらは産業別協約を補完するものだ。
イタリアでは、日本の労働組合法のような労働協約に規範的効力や一般的拘束力を直接的に定める法律がなく、労働協約は民法典の適用を受ける通常の契約の一種に過ぎない(普通法上の協約contratto collettivo di diritto comune)と考えられているが、後述のように実際上は、産業別労働協約の定める労働条件は大変重要な役割を果たしている。

団体交渉においても、法の規定がなく、また労使間でも明確なルールが決められていなかったために、例えば産業別で一定の賃金を決めておきながら、企業レベルで勝手に違う協約を結ぶということがよく起こっていた。そんな状況を正すため、法的介入は依然としてないものの、1993年に政府、労働組合トップ、Confindustriaをはじめとする企業家トップの三者間協定(accordo triangolare)が結ばれ、協約改訂交渉は4年毎、賃金については2年毎といった団体交渉に関する一定のルールが決められた。しかし、注意しないといけないが、これは法律ではない。実際に団体交渉の分野に法律が入るとなると、労働組合が反対しよう。戦後の立法不介入主義が残っており、労使の問題は労使で運営していくのだという意識が強いのだろうと思われる。

「労働組合トップ」とはイタリアの三大労組CGIL、CISL、UILのこと。団体交渉もこの三大労組傘下の各産業別の組合が一緒になり、使用者側団体と交渉して労働協約を結ぶというのが普通の姿である。
では、他の労働組合や非組合員はどうなるのか。他の労働組合についても、結局は三大労組と使用者が結んだ協約に附合(adesione)し、その内容を取り入れる。非組合員も個別の労働契約を結ぶ時に協約の規定を取り入れる。従って、三大労組が結ぶ労働協約は事実上すべての労働者に及ぶシステムになっている。このように労働協約は産業レベルでの労働条件の基準であり、「ミニ労働基準法」と呼ぶ人もいるほどだ。法的には単なる契約に過ぎないが、実務的には大きな効力を持つ。

・三大労組の代表性の危機
次に企業レベルでの交渉について。その主体となるのは統一組合代表RSU(Rappresentanze sindacali unitarie)) で、これは三大労組系の傘下にある企業レベルの労働者代表である。RSUの法的性格を説明するのが極めて難しいのだが、ドイツやフランスの企業内労働者組織と比べるとその違いがはっきりしてくる。ドイツでは労働組合は企業外にあり、企業レベルでは事業所委員会というものが別の組織としてある。フランスも同様で、企業内においては企業委員会と呼ばれる従業員代表的機関が労働組合と別に存在する。これに対しイタリアのRSUは、ドイツやフランスのように労働組合とはっきり分かれた形では存在しない。RSUというのはあくまでも従業員全体の代表であるが、三大労組の傘下の組織という性格も持っている。これはRSUの代表者の選出方法に表れており、委員の3分の1は三大労組が指名し、残りの3分の2について従業員が選出することになっている。
他方、法律上は事業所組合代表RSA(Rappresentante sindacale aziendale)というものが存在する。1970年の労働者憲章法で認められたもので、全国レベルで最も代表的な組合にその結成を認めるという規定となっていた。
実務的に労使関係レベルではRSUが存在し、法律のレベルではRSAがある。RSUが法律上RSAに該当することはあり得るが、両者が全く同じというわけではない。RSAを導入したきっかけは、1968年から69年にかけて生じた大争議「熱い秋(autunno caldo)」だった。現場レベルの労働者たちが次々と自発的に自主的に争議を行い、労使関係は大混乱に陥ったのである。イタリアの労働組合の企業レベルでの基盤の弱さが明らかとなり、その結果、法制度上で企業内の代表者システムをつくることになった。法律の中では具体的に三大労組の名前が挙がっていたわけではないが、判例として、全国レベルで最も代表的な労組というのはCGIL、CISL、UIL(プラス他のいくつか)ということになってきた。

しかし、後に労働組合の「代表性の危機」という現象が生じた。つまり、三大労組は全国レベルで最も代表的な組合かもしれないが、果たして企業内においても代表性を持つと言えるのかという問題が出てきた。具体的には、1980年代、Cobas(Comitato di Base)と呼ばれる争議団のように、三大労組がコントロールできない現場の労働者の集団が台頭してきた。さらには、パートタイマーや有期労働者など、労働組合が典型的に組織対象としてきた期間の定めのないフルタイムの労働者とは違う人達が増えてきた。そのため、三大労組は全労働者を代表するのか、90年代に入ってから法律家の間でも活発に論議された。
特にそのきっかけとなったのが前述のCobasだ。無理なストライキをしないよう三大労組が自主規制を行う中、Cobasは公共部門を中心に三大労組の統制から離れてストライキをするようになってきたのである。1990年に戦後の立法不介入の歴史を打ち破るスト規制法ができたのも、その背景にはCobasの登場、そして三大労組を中心とする自主規制の限界があった。そして、1995年の国民投票で、RSAの結成権限について、全国レベルで最も代表的な労組に認めるという規定が廃止された。

労働組合の代表性の危機の問題は今でもあるが、むしろ最近ではCGILの独立行動という三大労組内の問題になっている。CGIL、CISL、UILは基本的には共同歩調をとってきているが、時々CGILとCISL、UILとの間に路線の対立が生じる。CISLとUILが経営側との協議に前向きな場合でも、CGILは徹底的に対抗するということがあるからである。しかし、最左派政党Rifondazione Comunistaが労働者達の不満の受け皿になっているように、CGILが弱くなればより深刻な社会不安が起こるかもしれない。そういった意味で、CGILはイタリアにとって必要な組織なのではないかと私は思っている。

(3)個別的労働関係をめぐる法制度
・労働時間

労働時間に関しては長い間1920年代の法律が残っていた。97年に少し改正があり、2003年になって新しい法律ができた。ただ、2003年法は、これまでの法状況に大きな変化をもたらすものではない。労働時間に関しては法律の規制よりも、当該産業の労働協約の規定が従来から重要である。法律上も、細かな規定は労働協約にゆずる旨規定されている場合が多い。

・解雇〜労働者憲章法18条をめぐって〜
イタリアの解雇法制は1966年に制定された個別的解雇に関する法律が基本となっているが、最近では、労働者憲章法18条が争点となってきた。
66年の法律では、正当理由のない解雇は不当であるが、使用者側が損害賠償を払えば雇用関係を解消することができるというシステム(tutela obbligatoria)だった。それに対し1970年の労働者憲章法18条では、従業員15人以上の事業所においては解雇が不当とされた場合は必ず原職復帰するよう義務付けた(tutela reale)。ただし、労働者が望めば雇用関係の解消ができるが、その場合、使用者は15ヶ月分の賃金を払わなければならない。また、従業員15人未満の零細事業所においては従来の法律のシステムをそのまま適用するというものであった。
この「労働者が不当な解雇をされたら原職復帰できる」という18条の規定は、イタリアの労働組合が獲得した重要な成果であると考えられてきたのだが、ビアジはこれを変えようとした。彼は、この規定はヨーロッパスタンダードからずれており、解雇が不当な場合であっても、使用者が損害賠償を払えば雇用関係を解消できるという手法を導入しようとしたわけだ。

ただ、労働者憲章法18条へのビアジのメスの入れ方は、実はさほど大胆なものではなかった。彼が出した18条の改革改正案の中で読めるのは、解雇規制が硬直的だと雇用が進まないとする考えだ。不当な解雇でもお金で解決できるようにすれば、会社側は採用がしやすくなり、失業問題の解決につながると考えたわけだ。そこで、ビアジはこのシステムを雇用の促進とリンクさせようとした。すなわち、従業員15人未満の事業所が新たに労働者を採用して15人以上になっても18条は適用しないという提案をした。これにより、零細企業が解雇規制をいやがって採用に二の足を踏むことがなくなる。あるいは、有期雇用を無期雇用に変えた場合にも18条を適用しない等の提案も行った。さらに、闇労働の解決ともリンクさせようとした。すなわち、闇労働から正規労働化するために雇った労働者に対しては18条を適用しないという提案を行った。ビアジは、失業問題や闇労働の問題を解決するためなら18条の適用を免除しようとしたのである。これは決して解雇を自由化するというものではない。解雇には常に正当な理由が必要であり(66年の法律の大原則は変わっていない)、解雇理由が不当な場合の救済方法を変えようという話だった。

しかし、この提案は法律にはならなかった。私はなぜこの提案がイタリアであんなにも反対されたか理解できない。おかしな法律案ではないし、多くのイタリア人に聞いても同様の意見だった。ただ、労働組合が18条を反ヨーロッパスタンダードの象徴とし、労働者にとって最も大事な規定に手を付けようとするのは許せない!という、やや拡大した反ビアジキャンペーンへとつながってしまったのではないかと言われている。

ちなみに、日本での解雇に関する問題の焦点は、金銭賠償の規定を導入すべきかどうかという点。日本では不当な解雇の場合、労働者が希望して辞職したら何ももらえないのが原則。ただ実際は、裁判所で勝訴判決をもらい、復帰できる権利を楯に和解金交渉となり、結局はお金をもらって辞めることが多いと言われている。それならば最初から金銭賠償を認めたらいいのではないか、という議論になっている。そのような中、実は日本の厚生労働省はドイツの制度(解雇が不当なら無効になるが、使用者または労働者からの申請に基づいて、裁判所の判断で雇用関係を切ることができる。ただし、その時には使用者は賠償金を労働者に払う)を取り入れようとしているようであるが、イタリアのように、労働者が自らの選択で一定の金銭賠償を受けたうえで雇用関係を解消するということができるようにするというような法モデルもありうるのではないかと思っている。 現実を見ると、解雇を規制したところで企業は不要と考えた人材はどんなことがあっても辞めさせるという面がある。最近イタリアでモッビング(いじめ)に関する法案が出されたようだが、モッビングが起こる一つの理由として解雇規制が厳しいということが考えられる。解雇をより自由にすれば、モッビングなどは減るのではないだろうか。

・CIG(所得保障金庫)
イタリアでは余剰人員の整理をする場合に、文字通りの解雇(licenziamento)をすることはあまりなく、まずは所得保障金庫CIG(Cassa Integrazione Guadagni)を使う。法律的にはCIGは失業保険ではなく、労働関係は継続させたうえで休業状態にし、国家のCIG基金から給料の8割を補填するというシステムだ。日本の雇用調整給付金に近いものと言える。
CIGは労使にとって都合のよい制度である。労働者は働かなくても金がもらえ、会社は労働者をくびにしなくてすみ、余計な紛争を回避するすることができる。期限付きとは言え、労使にとっては良い制度だ。この制度を直接改革しようという動きはないし、ビアジ改革でも全く手をつけられていない。ただ、積極的雇用政策の「就業能力の向上」という観点から見ると、職業訓練等とリンクしていない現在のCIGには問題点があるであろう。今後は失業保険制度や職業訓練制度などとうまく結び付けていくことが必要になっていくだろう。
CIGで一定の期間が過ぎ、それでも労働者を再雇用できないとなると、モビリタ(mobilita')という制度に移る。要するに解雇だが、モビリタになるとindennnita' di mobilita'という移動手当て(一種の失業手当)がもらえ、再雇用の際に優遇される。

(4)集団的労使関係をめぐる法制度
イタリアの労使関係は日本のそれとかなり違っている。イタリアの労使は「conflittuale(敵対的)」であるのに対し,日本の労使は「cooperativo(協調的)」、「partecipativo(参加型)」と言われている。日本では労使協議が発達していて、組合と会社が情報をシェアしながら、一致団結して問題を解決するというイメージがある。このpartecipativoの労使関係がイタリアにはないため、これについて大きな関心がもたれている。
先日開かれたイタリアの労働法学会のテーマも「労使関係における労働者の参加partecipazione」だった。しかし、イタリアではこれは実現が難しい課題である。あるイタリア人教授は、イタリアには、日本のような「合意の文化cultura del consenso」がないという。日本のように、労使が同じ目標を目指して合意することを良しとするというような文化がイタリアやヨーロッパには全くない、というのだ。
私も、イタリア人がpartecipativoの労使関係を作るのは容易なことではないと思う。というのは、イタリアでは今でも労使の階級的な利益対立といった考え方があるからだ。「階級」などという言葉は日本ではあまり聞かれなくなったが、イタリアではマネージャーはマネージャであり、一般労働者は一般労働者だという身分的な格差がある。給与の格差も大きい。労と使の間の身分的な格差がはっきりしている。
日本では一般労働者も社長になれるかもしれない。そう言うとヨーロッパの人は驚くのだが、そういった日本のような状況になってはじめてpartecipativoな労使関係が出来る土壌が生まれてくるのではないかと思う。

・ストライキ
法的な面から、ストライキの話を付け加えておく。 日本とイタリアの一番大きな違いは、イタリアではストライキは個人の権利であるという点。もちろん労働組合がストライキを宣言するのだが、権利は個人のものだ。労働組合が宣言をしたストライキについては、労働者は誰でも、非組合員であっても参加できる。したがって、労働組合がストを宣言した後、いったいどれくらいの人数が実際に参加するのか想像ができないわけだ。
日本では、学説上、ストライキは団体交渉を有利に進めるために行うものとする理解が有力である。しかし、イタリアではストライキは団体交渉などとは関係ない個人の人格的な権利なのである。したがって、ストの権利について国民の理解度、共感も高いのではないかと思われる。

(5)ビアジ法(2003年9月10日委任立法276号)
最後に、2003年に出されたビアジ法(2003年9月10日委任立法276号)の中から主要なものを挙げたい。委任立法(decreto legislativo)というのは、法律がまず枠組みと指針をつくり、それに基づいて行政が法律を作るというもの。最近では、日本のように、通達(circolare)を次々と出して、法律に関する行政解釈を示す例が増えている。通達は行政文書なので法的効力は判例などに劣後するが、実務的には重要だ。

・職業紹介サービスの自由化
ビアジ法の最初に出てくるのが、職業紹介サービスの自由化。ビアジ改革の核には、労働市場の活性化と労働市場の中での労働者の保護という発想があった。そして、労働市場の中で労働者が自分にあった仕事を見つけ、就業率を高めるためには、職業紹介サービスをより効率的にしなければならないと考えた。
この法律の中では透明性と効率性がさかんに指摘されている。ここで重視されているのは、公的機関と民間とが競合してサービスを提供するということ。もちろん、最低限必要なサービスは公的機関が行うが、多くの部分については公と民が競合するという発想を基本とする。

・労働者派遣制度の改革
労働者派遣は、以前はlavoro interinale あるいはlavoro temporaneo(臨時労働)という言い方をしていた。しかし、これらの呼び方をなくし、somministrazione di lavoro(労働供給)という名前に変えた。かつて禁止されていた「労働供給の禁止」規定は排除し、全く新しい概念として「労働供給」を労働者派遣制度の中に組み入れた。
interinale、temporaneo(臨時)という言い方をなくしたのは、この新制度においては「期間を定めない派遣」も認めたからだ。これにより、一定の部門については、恒常的に派遣労働者を利用することが認められることとなった。
ただ、企業が自らの業務をずっと派遣でまかなうことを認めてしまうと、雇用の不安定化を招くのではないかと言われている。ビアジ改革は「政権が変われば変わる」とも言われており、2006年にもし中道左派が勝てば、この法律はなくなってしまうかもしれない。

・訓練労働契約制度の廃止と編入契約制度の導入
ビアジ改革ではそれ以前にあった訓練労働契約(contratto di formazione di lavoro)制度を廃止した。訓練労働契約とは、若年労働者を採用する時、労働者に職を与えながら訓練もさせるというもので、この契約で雇った人は労働者の数に含めない(労働者数が一定以上となると、さまざまな労働法上の保護が及んでくることになる)、あるいは社会保険を軽減するなど会社側にメリットがあった。しかし、一定の若年者の採用について国家が企業を補助するのはEUの競争政策に反するという理由で、少し前から助成策をしてはいけないということになっていた。
そういった流れがある中で、ビアジ改革ではこの契約制度を廃止し、訓練目的の契約は見習い労働だけにした。そして、新たに編入契約(contratto di inserimento)制度を設けた。これは一定の若年者、中高年者、障害者、一定地域の女性など、仕事を見つける際に困難のある労働者について認められる契約で、賃金引き下げ、社会保険料の減免といった会社にとってのインセンティブのある契約となっている。この編入契約制度には"訓練"という要素は入っていない。

・パートタイム労働制度の改革
パートタイム労働の最も大きな改正点は、パートタイム労働者の労働時間の配置を変える権限、労働時間を増やす権限について、労使の個別の合意でもできるようにした点だ。それまでは個別の合意による変更ができなかったのだが、あまりにも硬直的であり、今後はパートタイム労働を増やす必要があるという狙いから、規制緩和が進められた。

・分割労働制度
これは一つの労働を二人で分割して行おうというジョブ・シェアリングの制度。以前からあったものを法制化した。

・準従属労働をめぐる改革〜Co.Co.Coからプロジェクト労働へ〜
最後に2つ、重要な制度を挙げる。
準従属労働と言うより、Co.Co.Co.(collaborazione continuativa e coordinata)と言った方が、イタリアで働かれる皆さんにはなじみが深いかもしれない。Co.Co.Co(準従属労働あるいは継続的連携協働)は、要するに、労働者のカテゴリーとしては自営業者だが、特定の企業と継続的に連携して活動する労働形態のことで、労働者は経済的には企業に従属した形となる。そして、このCo.Co.Coが以前はかなり乱用されていた。自営業者は労働法の規制を受けないことを利用し、実態としては従属労働者と変わらないのに、契約の形式だけCo.Co.Co.にして労働法の規制を免れる、一種の仮装自営業者の利用が広がっていたのである。

ビアジは、広く乱用されていたこのCo.Co.Coにメスを入れた。すなわち、プロジェクト労働(lavoro a progetto)という制度を新しく設け、Co.Co.Co.を使いたい企業は、その労働者がプロジェクト労働の枠組みに入らないといけないようにした。プロジェクト労働というのは、一定のプロジェクト実現のために期間を定めて働くというもので、プロジェクト労働の要件に入れば、はじめて自営業者として扱ってもよいとしたのである。要件を満たさない場合には、普通の従属労働者として扱われることになり、偽の自営業者を撲滅しようとした。ただ、プロジェクト労働でも、災害保障や出産の際の契約期間延長等、最低限の保障を認めている。それら最低限の保障を認めた上で、一般の労働法の規制は排除するという仕組みだ。

実はビアジは大きな野心を持っていた。私も日本で言っている主張だが、自営業者であれ従属的な労働者であれ、あらゆる労働者は最低限の保障を受けることができるようにすべきというものだ。労働法の伝統的な考え方によると、保護の対象となるのは従属労働者だけであり、自営業者には全く保護が与えられない。しかし、両者にこうした大きな保護の格差があるから偽の自営業者という問題が出てくるわけだ。そこで、ビアジは「Statuto dei lavori」という概念を打ち出し、労働している人すべての憲章を設けるべきと主張していた。そして、災害保障や出産の際の保障など最低限の保障を全労働者に与えようとしたのだ。

・労働契約の性質に関する認証制度
労働法の規定を受ける従属労働者かどうか、労働者概念をめぐる紛争はイタリアでそれまでも数多く起こってきたのだが、労働契約がプロジェクト労働にあたるかどうかということに関して後に問題が出てくる可能性があった。
そこで、紛争トラブルを避けるため、事前に「この契約はプロジェクト労働である」と認証するための手続を定めた。つまり、事前に、労使が合意して、労働法の適用を受けないプロジェクト労働であるということの認証を県労働局などに申請することができることとなった。これは、Co.Co.Coが従属労働者に該当するかどうか(それゆえ、労働法の保護を受けることができるかどうか)をめぐり多数の訴訟が提起されたことの反省にたち、事後の紛争を防止することを狙いとした重要な制度である。

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大内氏は、イタリア労働法制の特徴、規制緩和への流れ、特に2003年2月に発行された著書「イタリアの労働と法−伝統と改革のハーモニー−」ではまだ触れられていないビアジ改革の核となる思想や主な改革点などを、日本等との比較をまじえてわかりやすくご説明くださった。イタリア労働法制の歴史的背景までを踏まえたお話は、広くイタリアを理解する上でも役立つ、大変有意義なものであった。 大内氏のお話の後、簡単な質疑応答があり、セミナーは参加者からの拍手でもって終了した。

文責:JIBO編集部 丸山圭子

 


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