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ITALY NEWS
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2005/05/15 


zoom-up

JIBO取材レポート

2005年日・EU市民交流年記念コンフェレンス
「日本の今、経済と技術革新」
Giappone oggi, Economia e innovazione tecnologica


2005年5月5日 於:ミラノ・ボッコーニ大学

 



5月5日、ミラノのボッコーニ大学において「Giappone oggi, Economia e innovazione tecnologica/ 日本の今、経済と技術革新」というテーマでコンベンションが開かれた。
これは"2005年日・EU市民交流年"の一環としてボッコーニ大学と在イタリア日本大使館が企画したもので、奥田碩経団連会長(トヨタ自動車会長)が参加、オープニングを飾る形で日本の企業経営について語った。また、パナソニック、資生堂、東レ、ホンダから各社のハイテクノロジーリサーチに関する発表があった。

コンベンションの開かれたルイジ・ボッコーニ商科大学Universita' commerciale Luigi Bocconiは、1902年創設の私立大学で、商経済学においてはイタリア一の誉れ高い。大学内には東アジア経済社会研究所ISESAO(Istituto di Studi economico-sociali per l'Asia Orientale)が設置され、およそ30年前から日本経済の研究を行っている。同大学は一橋大学と姉妹校の提携も結んでいる。

"ハイテク日本"のイメージはイタリアにも充分浸透していると思うが、遠い日本の企業経営の実態はなかなか伝わってこない。コンベンションには日本企業関係者だけでなく、イタリア人も大勢足を運び、満員の大講堂で熱心に奥田会長や各社リサーチ責任者の話に耳を傾けていた。

今回のZoom UPではこのコンベンションの概要をご紹介したい。

1.現在の日本のマネージメント Managemento giapponese Oggi
午前9時半過ぎ、アンドレア・ベルトラッティ教授(ボッコーニ大学)の挨拶の後、奥田碩経団連会長から"Managemento giapponese Oggi(現在の日本のマネージメント)"というタイトルで約30分の話があった。
その中で、これからも堅持していかなければならない日本の企業経営の特色として奥田氏が指摘したのが、「長期的視野に立った経営」と「人間中心の経営」の2つ。バブル崩壊後、日本経営者団体連盟内で真剣な議論を行って出した結論であり、多くの企業で今後も貫かれていくであろうと述べた。以下、簡単にまとめてみた。

「長期的視野に立った経営」
世界経済の変動が激しく、技術進歩も急速に進む中、日本も常に最新技術をキャッチアップし、少しでも競争相手の先を行くことができないと長期成長は無理である。従って、経営においては迅速な意思決定と実行が重要であるが、一方で、新技術、ノウハウを新商品やサービスにするには相応の時間が必要であることも認識しなければならない。確かに研究期間の短縮努力は各社行っており、トヨタでも新車開発にかつては4年かけていたのが現在ではその半分になっている。しかし、新技術開発から利益を得るまでかなりの時間がかかり、しかもすべての研究が商品化に結びつくとは限らない。むしろ、先端分野での成功の確率は低くなり、10件のうち一つか二つ商品化されれば良いというのが実状だ。従って、企業は長期的観点と戦略をもって研究投資をすることが求められる。

例えば、トヨタの次世代戦略カーであるプリウスはプロジェクトから実現まで5年を要した。基礎技術開発まで遡ると20年以上になる。ようやく実現化しつつある燃料電池車はすでに13年が経っている。四半期先の決算を見て投資を減らすようなことをしていると、長期的成長は無理。これは技術開発に限らず、財務や取引先関係など経営のあらゆる分野において言えることで、長期的視野に立つことは迅速な意思決定と共に重要である。

「人間中心の経営」
最もイメージしやすいのは従業員との関係。従業員の雇用を守り、適正な成果配分をすることがより一層の生産性向上に結びつくわけで、長期的人材育成にも重要だ。
実際、企業の成長に寄与する人材は簡単には見つからない。採用するにしろヘッドハンティングするにしろ高賃金、採用コストがいる。逆に言えば、企業の中で競争力アップできる人材を見つけることが成長につながる。雇用を守り、適切な人材投資をすることが大切だ。

もう一つの大切な側面は、現場重視ということ。技術・理論側と現場の意見が対立した時、日本では現場の意見を尊重する。人間の知恵を加えて生産性をアップさせる。日本企業では技術者が現場へ足を運ぶよう強く奨励している。

人間尊重というのは企業の経営理念に行きつく。技術も企業もすべて、人の幸福に貢献するものでないと存在意義はない。客、従業員、取引先、地域社会、株主、つまるところは一人一人の人間である。特定の人間に利益を集め、他に皺寄せをすると、社会的尊厳は受けられず、いずれ会社としての存続は無理になる。すべての関係者にバランス良く目配りすることが企業としての絶対条件だ。

奥田氏は最後にこう付け加えた。
「"何を当たり前のことを言っているのだ"と言われるかもしれないが、次々と新しいものが生まれる中で変わらないものがある、というのが日本の伝統的な考え方だ。世界のスピードが増す中、この考えを噛み締める必要がある。」

奥田氏のスピーチの後、ミラノの経営者団体アッソロンバルダAssolombarda会長のミケーレ・ペリーニ氏から、イタリアにおいても四半期先ではなく長い目で見ることが必要であることは認識していること、また、人を大切にするという点において、例えば企業内部で出てくる意見を大切にし、内部の人を成長させるという考え方はイタリア企業にも適用できると述べた。

2.日本のテクノロジーの未来 Il futuro della tecnologia giapponese
コーヒーブレークをはさんで、「日本のテクノロジーの未来」というテーマに移った。
最初に、ジャンピエロ・シローニ教授(ミラノ国立大学副学長)より、日本の研究開発費はGNPの3.2%を占め、EU平均(GNP比2%)やイタリアと比べ断然高い比率であること、日本ではメーカー各社が大きな研究機構を持っており、それを製品やサービスに直接活用することができるのに対し、イタリアでは大規模研究は大学や公的なリサーチセンターが行っており、その知識が充分に活用されていないこと、一方、近年日本で進んでいる大学と産業界の連携−例えばTLO−からイタリアは学ぶべきことがあると指摘。また、人口高齢化の進むイタリア・日本両国において新技術の開発は非常に重要であること、両国とも自然資源に乏しい国だが、日本を見る限りこのことが企業発展において決して障害ではない、等の意見を述べた。

続いて、日本企業4社のリサーチ責任者から、各社のハイテクノロジー分野での研究開発の動向についてプレゼンテーションがあった。内容は次の通り。

パナソニック(松下電器産業):ビジュアル商品における新技術開発の動向。3Dカラーマネージメント(プラズマディスプレイ)、Real -time variable bit rate contro(DVD)、optical image stabilizer principle(デジタルカメラ)といった、画像をより精密に美しくする取り組みを発表。
資生堂:バイオテクノロジーの高機能・高度化化粧品への応用。1983年のヒアルロン酸の開発から始まり、現在のサイコエキスまで、シミ、しわなど皮膚の老化減少に効果をもたらすバイオ成分の研究・活用を具体的に説明。
東レ:ナノテクノロジーとバイオテクノロジーでの研究開発動向。ナノテクノロジーは素材産業にとって21世紀の重要な分野。同社は、ナノファイバーという非常に細い繊維の研究開発を進めており、それを応用したナンバーワン・オンリーワン製品を目指した取り組みの紹介。
ホンダ:1996年から取り組んできたウマノイド・ロボットASIMOの紹介。実際にASIMOが舞台に登場し、階段の昇り降りなどを披露(上手に身体を動かすASIMOは、会場から拍手喝さいを浴びていた)。人間の生活の質向上に役立つロボット開発という同社の夢に向かった取り組みを紹介。

3.ISESAO所長より
最後にISESAO所長カルロ・フィリッピーニ氏から締めくくりの挨拶があった。日本の技術開発リサーチに関して簡潔に話されたので、ここにまとめてみたい。

過去において日本の技術革新リサーチは、コスト低減など生産プロセスの改善を対象としていた。他で生まれたものをいかに適用し、改善するかというリサーチだった。しかし、現在では先端製品をインノべーションするオリジナルな技術開発に向けられるようになった。そして、その技術は生活の質向上、消費者のより健全な生活に結びつくものとなっている。実際、4社のリサーチ責任者の発表は、最終消費製品の開発動向だった。この傾向は、輸出ではなくむしろ内需を支えとする経済政策と一体となっている。インフォメーションと家庭、バイオと健康、ナノテクノロジーと新素材、環境とエネルギー。4つの分野でのリサーチは需要と強く結びついている。
シュンペーターはかつて、技術革新とマネージメントは一体で進むべきであると語ったが、東洋文化では自然科学と社会規範を分けることは良くないと考えられる。技術と文化の強い結び付きは現在開催中の愛知万博のテーマでもある。人が技術を導くのであって、その逆ではない。

4.最後に
約3時間半にわたるコンベンションは、日本企業の経営理念や"ハイテク日本"を支えるリサーチ活動の実態を伝えるのに一役買ったと思う。特に、奥田氏が指摘した日本の企業経営の特色2点は、イタリア人にとってもわかりやすく、また共感を得る内容だったのではなかろうか。
奥田氏はスピーチの冒頭、昨年はローマ、トレヴィーゾ、ヴェネツィアに滞在し、イタリアでの景観保全の取り組み、スローフード、アグリツーリズムなどについて学んだと語り、日本政府は現在"Visit Japan"キャンペーンを行っているが、外国からの旅行者誘致という点で日本はイタリアに比べて遅れていると話した。トレヴィーゾではベネトン会長と会い、イタリアの中小企業ネットワークの活力に触れ、日本の産業政策の参考になると感じたという。
中小企業が元気なイタリアと大企業が経済を引っ張る日本。表向きは大きく異なる両国だが、"人を大事にする経営"など根幹の部分で通じ合うものがあると思う。お互いの良さを理解し、それぞれの利点を取り入れていけば、イタリア、日本両国の産業界にプラスになっていくはずだ。

写真提供:ボッコーニ大学
文責:JIBO 編集室 丸山 圭子 


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