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ITALY NEWS
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2004/10/01 


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大内伸哉著『イタリアの労働と法 −伝統と改革のハーモニー』


小西康之(明治大学専任講師)

 



 イタリアでは1990年代以降、労働法制に大きな変化が生じている。そこでは、EUからの「改革」の動きと、イタリア固有の「伝統」との調和・相克が展開されている。イタリアの労働や社会はそのダイナミズムに特徴があると考えられるが、それを鮮明かつ明確に示す文献として、大内伸哉著『イタリア労働と法 −伝統と改革のハーモニー』がある。
 本書は、現在のイタリアの労働法制の全体像を描き出すことを目的としている。そういった意味においては、イタリア労働法の概説書と性格付けることができよう。 一国の労働法制の全体を正確に理解し、それを簡潔にまとめあげるという作業は、それ自体非常な困難を伴うものであるが、筆者は、本書においてそれを完成させている。
 ただ、本書は概説書としての意義を有するにとどまらない。本書は、イタリアの労働法の教科書の翻訳のようなものではなく、日本人の読者を意識して、比較法的視点をもって、各法制度の歴史的沿革にも配慮しつつ書かれている。

 ここで簡単に著者の紹介をしておくと、本書の著者である大内伸哉氏は、イタリア労働法だけでなく、ドイツ労働法、フランス労働法などにも精通した労働法研究者(現在、神戸大学大学院法学研究科教授)である。年齢的にはまだ「重鎮」には達していないが、しかし、その比較法研究の幅広さと奥深さをベースとして、若くしてすでに、労働法学界を代表する研究者である。彼が大学院在籍中博士論文として執筆した、イタリア労働法、ドイツ労働法を素材とし、労働条件の変更に関する解釈論を展開した『労働条件変更法理の再構成』(1999年、有斐閣)は、衝撃と賞嘆をもって、学界に迎えられた。

 ここで簡単に、本書の構成をみておこう。
 第1章は、総論について書かれている。ここでは、イタリアでは労働条件の規制はどのように行われているか、労働条件の決定メカニズムはどのようなものかについて言及されている。このほか、本章では、「労働者」概念についても説明されており、そこでは、現在に至るまでイタリアの雇用現象の一つとして問題とされている、準従属労働(イタリアを知る人にとっては、Co.Co.Co.(継続的連携協働関係)と表現する方がピンとこられるであろうか)に従事する者の法的取扱いについても触れられている。

 第2章は、労働市場法制について書かれている。そこでは、イタリアの労働市場の現況と労働市場法制の特徴が明確にされている。個別には、職業紹介、労働者供給(労働者派遣を含む)、職業訓練(見習い労働、訓練労働契約、実習など)、所得保障(失業手当、所得保障金庫(イタリアではCIGと表現されている)、労働移動手続、ヤミ労働対策、採用強制などについての説明がなされている。

 第3章は、個別的労働関係について書かれている。ここでは、労働契約の締結過程に関する規制、特別な類型の労働関係(パートタイム労働者、有期雇用労働者、ジョブ・シェリング、テレワーク、匿名組合契約における労務出資など)、労働者と使用者の権利義務(労働者の権利義務、賃金、労働者の付随義務と使用者の懲戒権、労働時間、労働安全衛生、従業者発明、ハラスメントなどに対する労働者の人格的利益の保護、和解・権利放棄などの労働者の権利の消滅)、女性・年少者に対する特別規定、労働関係の変遷、労働関係の終了について説明されている。「労働関係の終了」では、個別的解雇について、近年の解雇規制に関する議論や政策の展開などを含んで、詳しく言及されている。

 第4章では、集団的労使関係について書かれている。本章では、イタリアの労使関係の沿革と現況、労働協約、争議行為(ストライキ権、不可欠公共サービス部門におけるストライキの規制、ロックアウト)、企業内組合活動について説明されている。

 第5章は、紛争処理(個別的労働紛争処理手続、集団的労働紛争処理手続)について書かれている。  

 本書の最後には、労働法関連の重要な専門用語の日、伊、仏、英、独語対照表が付されている。まさにこういったところでも、比較法研究によって培われた著者の該博な知識の一端を垣間見ることができる。

 余談になるが、評者は昨年度、マルコ・ビアジ国際比較研究センターに留学していた。そこでは、イタリア人の労働法研究者だけでなく、他国の労働法研究者とも交流することができたが、そのようななかで、評者が本書を参照しながら、論文を執筆していると、スペインの労働法研究者が本書を見せてくれと言ってきた。そしてその彼女はこの「対照表」の存在に気づき、ぜひこの部分をコピーさせて欲しい、と懇請してきた。その後、他の同僚との間でもこの「対照表」が話題になったことがあったが、このような対訳表は、ヨーロッパの労働法研究者にとっても大変貴重な資料であるとの、評価を何度も耳にした。

 以上のように、本書は、イタリア労働法について体系的にそして明確にわかりやすく書かれている。本書は、2003年2月に発行されたものであり、2003年3月に成立したいわゆるビアジ法、そして、ビアジ法の実施のために発せられた2003年委任立法276号による改革の具体的内容については記載されていない。しかし、今回のビアジ改革に至る過程やイタリアにおける労働法上の問題点についてはさまざまな個所で言及されている。ビアジ改革の意味するところを把握するためには、(ビアジ改革の細かな制度内容のみに関心を奪われるのではなく)、イタリア労働法とはいったいどのようなものか、そして、そこにはどのような「制度疲労」がみられるのか、を正確に理解することが不可欠である。本書はこのような要望にも十二分に応えるものであり、労働法研究者に限らず、広くイタリア社会に関心を有する方々にも、興味を持って読んでいただけるものと思う。


執筆者プロフィール
小西康之/ Hiroyuki Konishi

東京大学法学部卒業後、1997年3月東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了 1999年4月明治大学法学部助手 2001年4月から現在まで明治大学法学部専任講師 2003年4月から1年間、モデナ・レッジョ・エミーリア大学附設マルコ・ビアジ国際比較研究センター客員研究員


イタリアの労働と法 −伝統と改革のハーモニー

著者 大内伸哉  発行 日本労働研究機構 2003年2月発行 
A5判 277頁 2,800円(本体) 

お知らせ この本を入手されたい方は,著者の大内伸哉氏に直接申し込んで下さい。 イタリア在住の方でも申込みはできます。連絡先は,souchi@kobe-u.ac.jp まで。


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