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ITALY NEWS
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2003/02/01 


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増える《COPPIA DI FATTO》事実婚カップル


大橋由紀

 日英伊通訳



シングルの増加、晩婚化、少子化、そして離婚率の増加…伝統的な家族観が強いことで知られるイタリアでも、ライフスタイルの変化にともない、これらの現象が顕著になって久しい。とくに筆者が住むミラノでは、女性の就業率が高いせいか、30歳以上のシングルや子どものいないカップルはごく一般的である。さらにミラノに住むようになって気付いたことは、一緒に住み、場合によっては家も購入しているが、結婚はしていない、「共同生活を送る未婚カップル」が少なくないということ。いわゆる事実婚カップル《coppia di fatto》だ。統計によれば、イタリアには現在約34万4千組の「公表」事実婚カップルがいる。ここ10年弱の間にその数はほぼ倍増しており、法的夫婦も含めたカップル全体の2.3%にあたる。事実婚カップルが50%を占める北欧諸国に比べればまだまだ少ないものの、社会の結婚観の変化の一端を表す現象として、また、今後法的認知をすべきか否かなどについて、議論される機会が増えている。
さて、この事実婚カップルの増加、どのような事情が背景にあるのだろうか。

事実婚カップルの増加状況    (単位:千)
- 1990 1998
子どもがいる事実婚カップル 85 139
子どもがいない事実婚カップル 99 205
事実婚カップル計 184 344
                 出所:国立統計局

事実婚カップルの異なる事情

事実婚カップルと一口に言っても共同生活を送る背景には以下のような異なるシチュエーションがある。
将来結婚することを前提に共同生活している
36%
結婚はまったく考えていない
19%
将来結婚することも選択肢の一つとして共同生活をしている
18%
結婚という制度そのものに意味を見出さないので結婚をしない
8.4%
無回答
18.6%

(1998年国立統計局調査。なお無回答カップルの中には、 イタリアでは結婚を認められていない同性愛カップルも含 まれるものと推測される)。

つまり大きく分けて、結婚にいたるまでの準備・試験期間として共同生活を送るカップル(主に若いカップル、またはカップルのどちらかが離婚経験者または離婚成立待機者の場合が多い)、長期的な展望を持たないカップル、そして結婚制度に背を向けるカップルの三つのタイプがある。
割合からいえば、結婚への入り口として共同生活を送るカップルが半数を占めるが、共同生活期間は87%のカップルが一年以上に及んでおり、なかでも8年以上の長期間派が27.6%を占め、かつその割合はここ数年増加する一方だ。このように共同生活期間が長期化しているという事実は、イタリアでも他のヨーロッパ諸国のように「結婚」へのオルターナティブとして共同生活を送る「新しい家族」が増えていることが伺える。

事実婚カップル:結婚への準備・試験派

イタリアで結婚前に同棲するカップルは全体の14%弱であるが、都市とそれ以外の地域、および北部と南部では大きな格差があり、例えばミラノだけで見ると30%に上るという数字もある。都市圏ではキャリアを持ち経済的に自立している女性が多く、女性が経済面で結婚に依存する必要性は少ない。また、いくつになっても結婚するまでは親元に住み、炊事、洗濯、掃除等、生活の一切合切を親に面倒を見てもらう「パラサイトシングル」がごく一般的であるイタリアでは、とくに男女ともに働いている場合、結婚は生活面での負担が増すこととイコールでもある。だとすれば、結婚という結論を導き出す前に、まずは実際に生活を共にしてみて、パートナーとして真に一生を分かち合える相手であるかどうかゆっくりと確かめるというのは、彼らにとって賢明な選択であるといえる。
たとえば筆者の友人であるジョバンニとティッツイアーナはミラノ在住のそれぞれ36歳と31歳の未婚カップル。4年前に同棲を始め、2年前にはティッツイアーナの実家がある同じマンションに二人で家も買った。二人の共同生活は非常にうまくいっているが、当面結婚する予定はない。「結婚を拒否しているわけではないけれど、結婚をしても今の生活と何が変わるわけではない。だから、今とくに急いで結婚をする必要性を感じていないの」「結婚するとなると、結婚式やら何やら、形式的なことが面倒。とくにぼくはプーリア(南部)出身だから、家族や親せきは教会で式をあげることが当然だと思っている。でも、本当に結婚することになれば、ぼくたちは民事結婚(市役所で結婚を誓い、夫婦の登録をする)をして、本当に親しい人たちだけで祝いたいんだ」。二人は、「将来子どもでもつくるつもりになれば結婚を考えるかも」と言う。しかし、しばらくはそんな計画もなく、彼らの《事実婚》カップルとしての生活はまだまだ長引きそうだ。

事実婚カップル:結婚へ背を向ける派

マウリッツイオ(33歳)、ローザ(32歳)はトスカーナ州のピサに住む非婚カップル。共同生活歴7年で子どもも二人いる。マウリッツイオとローザにとって、家族と結婚は必ずしも同一線上にはない。家族を築くことは素晴らしいことだと思うが、「自分たち家族が真の家族かそうでないかを決めるのはお役所ではないはず」と、結婚には違和感を持っている。そこで、たとえ法的夫婦が持つ様々な権利が保証されなくても、結婚という道を選ばなかった。
「結婚は、まるで離婚の待合室のよう。ダモクレスの剣を突きつけられているようで。」「たとえ何が起きても、自分たちで自分たちの問題を解決する。法律や紙切れに私たちがしたいこと、してはいけないことを決められたくない。」「私たちの子どもには、家族は愛の基に築かれること、そして愛は紙の上での契約に基づくものではない、と教えたい。そのうえで、結婚するのも、私たちのような選択をするのも、子どもの自由。」
それでも、98年にピサの市役所で《unione civile》の登録はした。《unione civile》(市民連帯)とは、現在イタリア全国で20あまりの市が、事実婚カップルおよび家族に対して、その存在を認知するために設けた、法的家族に代替するカテゴリーだ。現在のところ《unione civile》の登録をしたからといって、相続権や遺族年金など、通常の家族に認められる社会保障の権利が与えられるわけではない。それでも、「これで私たちが家族として存在した、という証ができた。」(注1)
統計によれば、事実婚カップルから生まれた子どもの数は全体の10〜12%にものぼるという。

法的認知、するべき?しないべき?

共同生活を送る理由はいかなれ、北欧を筆頭に多くの欧米諸国では非婚姻カップルに対し何らかの法的認知をしている。お隣のフランスでも、99年に導入されたPACS(連帯市民契約)により、事実婚カップルに法的夫婦同様の社会保障が保証されるようになった。イタリアでもここ数年、事実婚カップルの法案化がたびたび議論のテーブルにあがってはいるのだが、保守派の反対でいずれも頓挫している。しかしながら、カトリック系の週刊誌Famiglia Cristianaが行った調査によれば、72.2%のイタリア人が事実婚カップルに夫婦同様の権利を与えることに賛同しているという。以下、新聞やインターネットサイトなどで法案化賛成・反対派の意見を拾ってみた。

(反対派)
・ 同性愛カップルの存在を社会が法的に容認することになる。
・ 事実婚というのは、結婚によって生じる責任から逃れるための便利な形態にすぎないのではないだろうか。権利と義務・責任はコインの表裏一体。結婚による責任を負えない人に結婚と同等の権利を与えるのは納得できない。無責任な家族単位を社会が容認することになる。

(賛成派)
・ 何年も生活を共にした事実婚カップルと法的夫婦の間には、愛と信頼のもとに共同生活を送っているという点において、実質的になんら違いはない。だとすれば、事実婚カップルも、夫婦同様、より弱い立場におかれている者、または彼らの子どもたちは法律で守られるべき。
・ イタリアでは伝統的な家族の形態がまだまだ主流派だが、同時に、もはやそれが唯一ではないという事実に目を向けるべき。そうでなければ、社会に苦しむ人を増やすことになる。
・ これだけ別居・離婚が増え、結婚が形骸化している今日、結婚せずに共同生活を送る道を選択するカップルの気持ちもわからないではない。
・ 結婚絶対派は、本当に紙切れと指輪だけで永遠の愛が保証されると思っているのだろうか。事実婚カップルすべてがあたかも結婚の責任逃れをしているように言うのは間違っている。

事実婚カップルの増加が問うもの

イタリアの2000年の別居成立数は夫婦1000組あたり224組、離婚は同じく115組で(イタリアでは別居の法的成立が離婚申請の必要条件であり、80年に別居が成立した夫婦の70%が2000年までに離婚している)、この5年間でそれぞれ38%、39%増加した。さらに同年の別居・離婚申請数は夫婦1000組あたりそれぞれ310、148組で、ますます増える一方である。(注2)
「永遠を誓った」はずの結婚の多くが破綻を迎えるのが現実である昨今、また、結婚が「して当たり前」のものから「個人の自由な選択」へと価値観が変化しつつある今日、結婚の意味、意義を問い、その結果、教会や国家に永遠を誓うことを絶対とせずに、自らの手で日々新たな家族の形を模索し、構築する人びとが増えるのはけっして不思議でも、不健全なことでもないように思える。ライフスタイルの多様化が進むにともない、これからも、必ずしも結婚という形にとらわれない、さまざまな「家族」のありかたが増えることだろう。大切なのは、結婚を選択するにしても、事実婚を選択するにしても、 パートナーと幸せな家族を築くために日々努める、という真摯な態度であり、不幸にもそれがかなわなかったときには、結婚や事実婚の破綻による混乱、困窮が最低限におさまるような実行力のある取り決めがなされているということではないだろうか。

(注1) マウリッツイオとローザのケースは2002年11月29日コッリエーレ・デッラ・セーラ紙20面《Noi, prima coppia registrata in Italia ancora senza diritti》より抜粋。
(注2) イタリアで別居が成立するまでの平均日数は協議別居が153日、訴訟別居が1085日、一方離婚の場合は協議離婚が153日、訴訟離婚が631日(国立統計局調べ)。


筆者プロフィール
66年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。外資系銀行勤務を経て、1996年より(株)ヒュ−マンルネッサンス研究所勤務、主にライフスタイルや健康をテーマとする研究に従事。00年4月よりミラノ在住、日英伊の通訳、翻訳、編集等に携わる。

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