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ITALY NEWS
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2002/02/01 


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イタリア・ファッション業界の動向 ― 9月11日以降

ミラノ在住ジャーナリスト 高橋 恵





2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、イタリア国民も、他の西洋諸国同様に、経済的、心理的ダメージを受けた。伊ファッション業界も、アパレル輸出先としてドイツに次いで、輸出高で第二位である米国との取引中止や延期、米国やアジアからの観光客減少による店舗の売上げ減少などにより、実質的に経済的ダメージを受けた。またイタリア国内の消費も冷え込み、アウターウエアは、前年比20パーセント減、旅行者のショッピングによる売上げ比率が高いバッグなどの洋品はさらに苦戦している。

photo テロ直後に、ミラノで開催された2002年春夏レディスのコレクションでは、各メゾンが犠牲者にメッセージを捧げたり、募金活動を行ったりして、哀悼の意を示した。コレクションのテーマも、バロックやパンクなどアグレッシブなトレンドの続いた前シーズンまでとは打って変わって、多くのメゾンが、ロマンティックでリラックスしたトレンドを打ち出し、ぬくもりを感じさせる手づくりのアイテムや、刺繍や染めなどに手仕事を感じさせるものが数多く発表された。

ただし、「テロの後に、すでに準備ができていた今回の自分のコレクションを、全て見直して創り直した。」と語ったというトム・フォード氏はさて置き、ご存知のように、服の素材となるヤーンやテキスタイルは、テロの時点ですでに出来上がって納品されているもので「テロ勃発を受けて、ロマンティックやリラックスが打ち出された。」という認識は、全てが正確とはいえない。

事件前からも徐々にではあるが、消費者の間には、カスタマイズ商品を求めるなどの「個性化追求」、「自分にとっての価値感の再認識」などの傾向はあり、それを肯定する形で、今回のトレンドはすでに形成されていたと認識している。

photo それを「肩の力を抜いて、あるがままのリラックスした自分を表現する、テロ後のファッション」という形で報道がなされて、一般の人々もそれを喜んで受け入れたということができるだろう。

1月末にフィレンツェで開催された2003年春夏ニット用ヤーンの展示会「ピッティ・フィラーティ」の出展各社のブースでは、価格が多少高くても着心地の良いハイクオリティなものが求められたという。カラートレンドも、ニュートラルカラーや植物のデリケートなグリーンが提案され、トレンドエリアで上映されるビデオには、癒しの楽観的なムードがあふれていた。トレンドを作っていく側としても、この世相だからこそ、あえてそういうテーマを提示しているようにも見える。

photo 近年、大ホールディング・グループにより相次いだ高級ブランドのM&Aや、デザイナー交代劇などの華やかな業界ニュースが、一般の人々の間でも話題にされ、各国のメーンストリートが有名ブランドの店で占められていった。それによって各国の大都市の風景は似たようなものとなり、全身をブランドで固めた「ファッション・ヴィクティム」はこの数年でグンと増えた。そんな、華やかだが、どこか不安定な状況に疑問を感じていた人々は、今後個性化への道をたどることになりそうだ。精神的にも文化的にも確かな自分を持った時、そんな人々が求めるのは、「圧倒されるほど腕のいい職人が作った製品」、「高くても本当に自分が愛着を持って長く使えるもの」、「また反対に、安くて洗うとよれよれになるけれどその風合いが好みに合っているもの」、など各人の確かな価値観が反映されたものだろう。

あるイタリア人のトレンド・コンサルタントの言葉。「これから、人は身体に服を着せるのではなく、脳に服を着せるようになるだろう。」


写真:(上から)ミラノコレクション、ミラノの大聖堂、ミラノヴィットリオ・エマヌエーレII通り




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