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ITALY NEWS
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2001/11/01 


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イタリアから見た9・11NYテロとイスラム



佐藤康夫 ローマ在住



 





●「西洋はイスラムに優越する」

「西洋はイスラムに優越する」と、あなたも心のどこかでそう思われているのではないだろうか。イタリアの首相と同じように。

9月26日ドイツを訪れたベルルスコーニ首相は記者会見の席上、次のような発言をし、世界を驚かせた。「我々は自分たちの文明の優越を自覚しなくてはならない。その文明は繁栄を実現し、人権と信仰の権利を保証する諸原則と諸価値から成り立っている。これらはイスラム諸国にはないものだ」。「西洋は人々を征服し続けて行くであろう。共産主義世界やアラブ穏健諸国を制覇したように」。

「西洋とイスラム、二つの文明を同レベルに並べることはできない:自由はイスラム文明の遺産ではない」。「西洋が享受する繁栄と恵みを 少なくとも1400年の時点で止まっている者たちにまで拡大しなければならない」。

首相によれば、イスラムのテロとの戦いは「文明と宗教間の戦争」である。またテロリストは西洋文明によるイスラム世界の汚染を阻止しようとし、反グローバルの青年たちは世界の大半が貧困に苦悩する現実をグローバル化を推進する西洋の罪に帰そうとすることで「反グローバル反G8運動とテロ組織の奇妙な類似性」が見られると指摘。更に首相は「ロシアも含め欧州はキリスト教という共通の根源(*)を土台にして再建されなければならない」とし、欧州とイスラム世界との宗教差異をあえて強調、テロとの戦争を十字軍とするキリスト教原理主義まで臭わせた。

(*確認して置かなければならないのは、統合欧州がイタリア首相のいうように宗教を共通基盤として創設されたわけではないことだ。欧州が基盤とするのは世俗的諸価値と文化・経済・政治的民主主義の根源の共有なのだ。ロシアもトルコも軍事的には同盟国と扱われながら統合欧州メンバーとして迎えられないでいるのは、この諸価値を共有しきれていないとの判断があるからだ)

国際的反響
9・11テロの後、米国は反テロキャンペーンが「イスラムやアラブ世界との対立」を目的とせず、「真のイスラムの信仰は平和的なもの」として、テロの暴力に対抗し平和を築くためイスラム諸国を含む広範な反テロ連合形成に努めてきた。その外交努力を水の泡にしかねない耳を疑う発言に、アラブ世界は「一億五百万人のイスラム教徒への侮辱」「イスラムへの宣戦布告」と反発、国際世論も場違い発言を一斉に非難、国内に数多くイスラム移民を抱える欧州各首脳はイタリア首相の立場に距離を置く姿勢を見せた。

デリケートな国際情勢では政治家の言葉は重く、ブッシュ大統領もテロとの戦いを不用意にも「十字軍 」と呼び、作戦を「無限の正義」名付けたがイスラム諸国から反発を受けて、直ちに発言を取り消し作戦名も「持続する自由」と変えられた。それに対してベ首相は、彼の発言の撤回か謝罪を迫るアラブ諸国の在伊代表を首相府に招き、記者会見でそのような発言はしていない、一部の外国人記者たちの曲解だと逃げ手を打った。

因みにイタリア国内では、ベ首相の信頼するアンケート調査によればイタリア人の60%は首相と同意見とされ、左派系紙の調査(対象者千人未満)では30%が首相に理ありとする一方、53%はイスラムに攻撃的な発言と判断している。

●親米・親アラブ外交の伝統

イタリア国民の間には米国に対して複雑な好悪の感情があるが、20世紀初頭から増加するイタリア南部からの移民受け入れ国であり、ファシズム体制解放から戦後復興へとイタリア再建に重要な役割を果たしたのが米国である。冷戦体制の下では米国の同盟国として友好関係を保ち続けて来たのは自明のことだ。

同時に戦後イタリア歴代政府は、その地理・歴史・文化的環境からもバルカン半島と東欧諸国、とりわけ中東アラブ諸国との平和的共存も責務としてきた。21世紀に予測されるキリスト教世界とイスラム世界との衝突を何としても回避することが戦略目標とされ、アラブ世界との対話路線を堅持、リビア、イラク、イランなど米国の指定する「危険国」とも積極的に接触してきている。

その背景にエネルギー資源確保の経済的利害があることは明白だが、同時に膠着した米国の中東外交を転換し、新しい対話と平和交流の道を拓くことを目指しており、一貫してイスラエルとパレスティナの平和交渉を支持し、パレスティナ自治政府を支援している。1982年当時まともな政治的パートナーとは目されていなかったアラファト議長にローマでの国際的舞台を用意したのもイタリアであった。

今年6月閣内に元ファシストや排外分離主義者を抱えるベルルスコーニ右派政権が誕生することで、欧州統合への懐疑主義路線が浮上した。同首相は就任早々ブッシュ米大統領の環境対策(京都議定書離脱)やミサイル防衛構想に異常なまでの理解を示し、欧州列国とは一線を画すあからさまな対米追従姿勢を打ち出したが、首相の極端なまでの親米路線とイスラム批判はイタリア外交史上チ異なものであるといえる。もとも親米といっても片思いに近く米国からは依然二等国扱いを受けており、アフガニスタンへの空爆開始も直接ブッシュ大統領からは連絡がなかった。同時に統合欧州内で不協和音を奏で続ける首相は欧州首脳たちからも敬遠され、テロ対策を協議する欧州首脳会議でも事前の英仏独トップ国会談からは外される有様だ。先の「イスラム発言」で一時は実現が危ぶまれたブッシュ大統領との会談では、首相は対テロ戦争への「軍事的参加」にも対応する用意があるとし親米振りを喧伝した。

●イタリアは米国を支持する

10月2日北大西洋条約機構(NATO 加盟19ヶ国)は9・11テロがウサマ・ビンラディンとその組織アルカイダによって行われたと認定、1949年創設以来初めて同機構憲章第五条(集団自衛権:1国または複数の同盟国への武力攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、軍事行動を含む支援を行う)の発動を決めた。これにより米国のテロ報復行動支援の条件が整い、米国は10月8日アフガニスタン空爆へ踏み切った。

外交上は親アラブといっても、イタリアはれっきとしたNATO加盟国であり、その決定に従って国としての自衛行動への参加を決めることになる。

10月9日イタリア上下院は与党提案に野党が棄権する形で米国のテロ報復作戦支援を議決した。野党からは最左翼の共産党再建派と合わせて三つの動議が出されテロと戦争の前に野党「オリーブの木」連合は事実上分裂、野党中道左派連合は出直しを迫られる結果となった。

与党案:米国の対テロ軍事行動への明確な支持・中東和平を強力に推進・イスラエル=パレスティーナ危機解決を目指す国連決議の尊重とイタリアの責務・世界の貧困解消へのイニシアティブ

野党(左翼民主党・マルゲリータ・SDI社会党)動議:国連アピールに合致した形での9・11テロ組織と共謀者たちを追求することを目的とした国際警察の必要かつ有効な作戦に貢献するため米国を支持する

野党(PDCIイタリア共産党・緑の党)動議:テロへの反撃は広範囲に及ぶ戦闘行為に変質しており爆撃の即時停止・パレスティーナ国の認知・対イラク封鎖解除を要求

野党(共産党再建派)動議:この戦争に断固反対 戦争は問題を解決せず増幅する空爆即時停止を要求

●爆弾と金

与野党ともに卑劣なテロ行為を糾弾することでは一致しているが、テロリスト討伐方法では大きく意見が分かれる。野党中心勢力が反テロ攻勢に当たって武力行使を認めたことが注目されるが、過去の経験から空爆だけでテロリストを殲滅できるとは誰も考えていない。ブッシュ大統領自身、「対テロ金融戦争が勝利のための決定的要因」と述べ、国連も犯罪組織の金融活動と金融操作を優遇する国への厳しい措置を採択しているように、対テロ作戦は爆弾でも兵隊でもなく、情報活動と金によって勝利することが、国際世論の分析からも明らかになって来ている。今回のテロの首謀者とされるビン・ラディンとその組織アルカイダの根っこはアフガニスタンの山奥にあるのではなく、海外の秘密預金口座にある。首謀者の個人的財産はともかく、アフガニスタンのタリバン支配地で生産される麻薬(世界の麻薬生産量の70%を占めるといわれる)収益を抑えなければならない。

しかし、どれほど効果的で正しいと判断されていても、国際金融の聖域の秘密を暴くことは、テロ共謀国を爆撃するよりも遙かに大きな抵抗に合う。各国の政府や金融エリートからは、カブール空爆の同意は取りやすいが、アルカイダなどのテロ組織が関与する不法な武器や麻薬の動きの実態を明るみに出すための協力は得にくいのだ。この反テロ金融戦争に関して与党提案は一言も言及していない。

●テロと市民
9・11テロに関する一般市民の意見を知ることは容易ではないが、部分的な世論調査などによると多大な犠牲者を出した米国民と米国への共感と連帯、テロ糾弾では一致している。もっとも、テロ撲滅方法となると判断が分かれるのは野党各党の論調が異なるのと同じだ。

以下はラ・レップブリカの世論調査(10月12日):
平和主義者の提案(国連主導の政治・外交・金融措置による解決・交渉)は有効な対応かとの質問に50%が否定的38%が肯定的な回答。テロ攻撃後の戦争反対デモ行進参加者に同意するかの問いには、53%が否定的38%が肯定的回答。反テロ武力介入を支持した左派リーダーが平和行進に参加するのは正当かの問いには、52%が肯定的35%が否定的であり、また63%の人が平和を呼びかける法王と正当防衛としての米国のアフガニスタンでの武力行使を認めたイタリア司教会ルイーニ枢機卿との間にコントラストがあるとしている。

カブール空爆開始後10月14日に行われた「ペルージャ=アッシージ平和行進」が市民感情の一端を示している。この平和行進は長い伝統を持つものだが、今回は反グローバル化運動の合流もありイタリアにおける平和行動では史上最も多い20万人を越える各界各層の市民が参加した(湾岸戦争時の平和集会は8万人程度)。目立つスローガンは「反テロ、反戦争」「反ブッシュ、反ビンラディン」。戦争は問題解決にならず、「外科手術的正確さ」の爆弾でもテロリストと無辜の市民を区別はできず、爆撃は即時停止するべきとの意見が主流を占めた。

カトリック僧侶やボーイスカウトなど様々な組織の色とりどりの参加者に混じって、テロへの報復に当たって武力行使を認めた左派政党リーダーたち(前首相と次期首班候補を含む)も「聖フランチェスコ」の聖地アッシジまで行進。政権を担当するまでに至った野党左派が、右派政府が支援する米国主導の反テロ戦争下で反米に陥らず平和主義を貫くことの危うさと難しさが浮き彫りとなった。

行進直前に主催者が発表した文書には以下のような主張が並ぶ。

- 9・11テロ犠牲者家族への連帯。世界と個々人の生活を揺さぶる苦悩と不安、自己喪失感を共有する。

- テロ行為は正当化しえない。全員一致して 断固糾弾し対応する。

- テロ行為は省察を呼ぶ。その影響は広範で長引く。諸国政府へのアピール:憎悪と血と恐怖の大波にさらわれてはならない。暴力、戦争、世界的規模でのテロリズムの渦に呑み込まれるのを避けなければならない。

- 米国ばかりか世界中がますます安全ではなくなってきている。今こそ我々を脅かす国際的無秩序に終止符を打ち、生命尊重と暴力・戦争・テロリズム排除を基礎に世界的新秩序を築く時だ。

- 安全な世界建設のためにはあらゆる分野・レベルでの国際協力を推進しなければならない。もはや誰も孤立して存在できるとは考えられない。平和と安全は目に見えない世界の共有財産であり、全員にとっての平和と安全を築かなければならず、さもなくば誰にも平和と安全はありえない。市民社会の多くの組織が責務を負うのに呼応して各国が新たな異なる努力をすべきであり、単独ではこの事業は達成し得ない。

- 世界中からわき上がる安全、平和、正義の要求に応えるため(世界の民の唯一の共同の家)国連と国際諸機関の強化が求められる。各国民政府、市民社会組織はあらゆる紛争と人権侵害に終止符を打つべく一丸となって努力しなければならない。新しい壁ではなく新しい橋を築こう。エゴイズム・冷笑主義・無関心・あらゆる排外民族主義、人々を絶望させる経済・社会的排除と闘わなければならない。男女が政治の真の第一義を再発見し共に世界共通の善に奉仕する必要がある。

- 冷静で責任ある平和への努力をアピールをする。未来は我々の手中にあるとの認識から、あらゆる形態の暴力とテロリズムに反対し、諸国民の和解と平和のために行進する。

●法王庁

国民の大半がカトリックの洗礼を受けるイタリアでは、ローマ法王の発言は国民の政治的選択に少なからぬ影響を与える。ヨハネ・パウロ二世の外交は他宗教宗派との和解と共存で貫かれており、今回のテロの後も、テロを糾弾しながらもイスラムとの対話を説き続けている。

とは言え、法王庁は政治的には現実路線を踏襲しており、法王のアルメニア訪問を期に、法王庁広報官が米国の正当防衛権を認める発言をし、事実上反テロ武力攻撃にお墨付きを与えた。

聖職者の中にも高位の司教から貧民街の神父まで様々な現実に対応しており、公式的な法王庁の立場とは別に、イタリアのカトリック勢力内には少なくとも四つの異なる「平和的」潮流が見られる:反グローバル化の動きにも敏感なグループ、歴史的なカトリック平和運動家、体制内平和主義者、与党政府支持者。

司教会紙誌では、「ブッシュとビンラディンの間で中立の立場を取ろうとする傾向」を諫めるが、教会下部組織を構成する各種協会やボランタリー組織の多くは、テロ犠牲者への連帯感は強いものの、米国政府への信頼は薄く、戦争をテロ問題解決手段とすることに反対しているのも事実。反テロ制裁が国際的機関の監視の下で国際法規に則って行われるべきとし、パレスティナ問題の平和解決、テロの土壌となる南北不均衡解消、経済グローバル化の抜本的改善などを優先課題として上げている。

●9・11テロとグローバル化

冷戦体制崩壊後の新しいジェオポリティックな秩序のなかで、国際的安定と欧米民主主義を脅かすものとして、二つの主要な危険な傾向が夙に指摘されていた。ひとつはイスラムのテロリズムであり、もうひとつはマフィアの国際・金融化である。前者については世界を震撼させた9・11テロによって世界の市民の眼前に恐るべき残酷な形でその現実が露呈されることになった。 後者は、外的な暴力的表現を最大限に利用するテロリズムとは対照的に、表立つことを忌諱し沈黙の中に浸透増殖する。テロを火山に喩えれば、マフィアは木食い虫と言える。外面の穴に気づいた時点では、時既に遅く内部は食い尽くされ役に立たなくなっている。両者に共通なのが構造的条件であり、高度な組織化、同盟化、国際レベルでの活動確保が「成功」のキーワードである(21世紀、高収益犯罪部門“麻薬・武器・人身売買、売春・臓器密売など”では職人的形態の犯罪に活動の余地はない)。

90年代、米国一人勝ちの状況の下、市場のグローバリゼーションが加速され、テロとマフィアのグローバル化も進行した。クリントン政権下グローバリゼーション問題の顧問でもあったBenjamin R. Barber が『グローバリゼーションの悲劇的相貌』(エスプレッソ誌)のなかで指摘するように、この「市場が繁栄を謳歌してきた規則も規制もない国際的にアナーキーな世界(これまでのグローバリゼーションの世界)こそが、正にテロリズムの温床でもある」。

更にブッシュ政権は、国際機関(ユネスコや国連)を無視、国際協定を「不完全」として破棄、国際会議への参加を「国益に反する」として拒否、国際法廷からも「主権を侵犯」するとして引き上げた。世界に対して自らの優越を押し通す政策を続けるなかで、逆に世界から孤立し世界の無秩序化を助長して来た。犯罪組織もテロリズムも、世界のこの無秩序・不平等につけ入るのだ。

イスラムのテロリストが煽る「聖戦」はグローバリゼーションのネガティブな側面を反映していると言える。テロリズムは、欧米の新しい植民地主義とも呼ばれるグローバリゼーションに屈辱を覚える火山のマグマのような地球上の何億という民の代弁者として、他のグローバル化の現象と同じく国境を持たない。このテロリズムという不法な国際主義に対処するには、「ポジティブなグローバリゼーション」つまり公正な国際主義が有効な武器となる。

●イタリア知識人の声

ウンベルト・エーコ「聖戦 情熱と理性」(10月5日)
「だれかが西洋文明の優越という場違いな発言をしたようだが二次的な問題だ。政治家や教育者、宗教リーダーが心しなければならないのは、様々な記事が論議の材料となり青年達の頭を埋め尽くし、その時の情動から過熱な結論を引き出しかねないことだ。若者も老人同様頭が固い。

「何世紀にもわたって血が流されてきた宗教戦争は、すべて単純化された対立構造に情熱的に参加することで生じてきた。我々と他者、善と悪、白と黒というように。西洋文明が豊かであるとすれば、それは害ある単純化を批判精神によって溶解してきたからと言える。勿論ヒットラーのような例外もある。

「我々のあともまたビルが崩壊しないよう、我々の文化の最良の側面について若者と議論しなければならない。良く混同されるのは、自分の根がどこにあるかを確認し他の根を持つ人を理解することと、それらの良し悪しを判定することの相違だ。

「首相が言いたかったのは、カブールよりは自分が住むアルコレに住みたいし、バクダットの病院よりはミラノの病院で治療を受けたいということなのだ。たとえバグダットの病院が世界中で一番設備が整っていたとしても、ミラノの方が馴染めるし快復も早いだろうからだ。だれもが自分が育った文化と自己同一視するのだ。中には根を移すものも少数だがいる。でもアラビアのローレンスも最後は自分の家に戻った。

「西洋文明は経済的進出のためからもしばしば他の文明に好奇心を示してきた。同時に多くの場合、他の文明を見下して清算した。

「文化人類学は、他者に対する、とりわけ野蛮で歴史のない社会、原始的種族と規定された他者に対する西洋の呵責を癒す試みとして始められた。文化人類学は、他の文化を文化として認めることで植民地主義の罪状を取り繕うとする。西洋とは異なる論理が存在することを示し、抑圧も見下しもせずまともに対応するべきものであることを示すのが役割であった」

「文化人類学の書を読むと相対主義の立場を支持しているように思われるかもしれないが、私には、他者が彼らの家にいる限り彼らの生き方を尊重することを教えているように見える」

「文化人類学の真の教訓は、どの文化が上か下かを論じるのではなく、パラメーターを決めることなのだ。ある文化がどのようなものかを言うことと、どのようなパラメーターに基づいてその文化を判定するかは別のことだ。文化の客観的で中立的描写は様々な要件に左右されることも事実」

「判断のパラネーターは、我々の起源や好みや習慣、情熱、価値体系などに依存する。寿命が長くなることはひとつの価値とすれば、西洋医学は他の医術より優れていることになる。技術開発、商業的拡張、交通の迅速化も価値だろうか。大半の人にとっては技術文明の優越と判断する材料となるが、汚染されない環境と共存するため飛行機も車も家電製品も諦める人たちもいる。文化の優越を決めるには、その文化の描写だけでは不十分で、放棄できないと思われる諸価値の体系を定義する必要がある。その時点で初めて我々の文化は、我々にとって、最良のものということができる」「イスラム世界の尊重を呼び起こす論議が頻繁だ。確かに過去に西洋は多くをアラブ人に負っている。しかし同じ論理でいけば、レオナルド・ダ・ヴィンチを生んだヴィンチ村は、同じ頃インディアンがオランダ人の到来を待機していたマンハッタンより優越していることになる」

「物事は変わるのだ。歴史的にアラブ人がキリスト教徒よりも寛容をしめした事実はある しかし今日イスラム世界にはキリスト者が耐えられない原理主義者と神権主義者の専制体制が見られ、ビンラディンはニューヨークに対して容赦しなかった。歴史を引き合いに出すのは両刃の剣に触れること」

「パラメーターの問題は過去の歴史ではなく同時代のキーのうちに提起される。西洋文化(自由で多元主義)の賞賛されるべき点のひとつは、同一の人が異なる相互に矛盾するパラメーターを運用できるということにある。肯定的な価値の長寿を研究するラボが否定的価値の環境汚染を生むこともありうる。西洋文化は、自身の矛盾をさらけ出す能力を磨いてきた。解決はできなくとも矛盾の存在を知り提起する」「民主的原理であり、固持すべきパラメーターは多様性への寛容」

ウンベルト・エーコ「グローバル戦争のシナリオ」(10月15日)
キリスト教とイスラム教世界の正面衝突から生ずる事態を空想科学的に想定。結論から言えば「グローバル化時代のグローバルな戦争は不可能であり、あるとすれば全ての者が敗者となる」 

●イタリアにおけるイスラム

「先生、飛行機は偶然ニューヨークのビルに衝突したと父が言っています」。この生徒の父親はエジプト人。ローマの小学校での話だ。このエピソードはテロ対策上情報メディアの果たす役割の大きいことを物語っている。同時に、イスラムの共同体や各家庭でのテロに反対する教育活動の不足が指摘される。

正規移民としてイタリアに居住するイスラム教徒(データー)
総数:543.849人 トルコとロシアを含む欧州諸国中12番目 対イタリア総人口比1.2% 世界のイスラム教徒総数1.190.114  世界総人口の20%
居住地域:北伊58.2% 中伊22.2% 南伊12.8% 島嶼6.8%
州別:ロンバルディア州 100.248 人(22.6%) ラツィオ州 51.867人(11.8%) エミリ ア・ロマーニャ州48.648人(11.0%)
移民の出身地:アフリカ諸国63.9% 欧州23% アジア諸国13.1%

タリアには六つの連合組織が存在するが、最も政治的に積極的なのがミラノを本拠とするUcoi(Unione delle Comunita' e delle Organizazzioni Islamiche in Italia)

9・11テロの後、Ucoiの呼びかけでイタリアにおけるイスラム主要組織代表が会し、イスラムは無辜の民に対する暴力を許さないとし、テロを明確に無条件に糾弾するコミュニケを発表している。

一方、トリノのイマムは、ウサマ・ビンラディンは今回のテロを自分の仕業とは言っておらず、テロの首謀者だという証拠が示されるまでは彼は無実だと発言。これに反発した北部同盟はトリノやブレシャでモスクの閉鎖を要求するなど一時緊張が高まった。同時に北部同盟欧州議会議員がイスラム移民に対して国境閉鎖を求めたが、同党の社会福祉相はこれを「我々はタリバンではない」と批判。 内務省の調べでは、全国五都市トリノ・ミラノ・ボローニャ・ローマ・ナポリでイスラムの過激分子の活動が確認されている。

●イタリアの安全防衛対策

9・11テロ以来、イタリアの安全防衛体制の弱体がさらけ出された。カラブリアの沿岸には500人もの不法移民を乗せた船が海軍や財務警察のレーダーに捕捉されず突 如出現するのが珍しくない状態にあり、7500kmもの長い海岸線を持つイタリアのどこかに武装集団が上陸してもおかしくはない。

国際的危機におけるイタリアの安全対策は四段階(Alfa,Bravo, Charlie,Delta)に分かれ、9月11日の午後にはAlfaが発動。米国などの大使館、ヴァチカン市 国などテロ攻撃対象の可能性のある施設の警察による警備体制が敷かれた。空軍は戦闘機が24時間出動態勢についた。

第二レベルのBravoは、米軍のアフガニスタン空爆開始が迫った9月23日に発動。 陸海空軍将校が配置に付き、航空機は警戒態勢をとり艦船は三時間で出帆する用意を調える。Bravo発動から13日目の夜カラブリアの海岸には不法移民54人(内アフガニスタン人31人)を乗せたヨットが何事もなかったように着岸しトいる。

10月7日アフガニスタン空爆開始に際して北伊のアヴィアーノ空軍基地にだけレベルCharlieが発動されている。レベルCharlieが民生分野で発動されると、防衛対象付 近ではデモ集会は禁止され、身分証明書や車輌検査が行われる。軍施設への出入りが制限され、レーダー監視体制などが強化され潜水艦(八艘)が出動し艦船が出動待機態勢に入る。Deltaは常時臨戦態勢となる。

ベルルスコーニ首相は、米国に対して「兵站支援提供だけではなく、軍事行動に参加する用意がある」と言明している。提供予定の部隊:空軍(Tornado 8機/Boeing 7071機/C-130 1機)海軍(空母Garibaldi/巡洋艦 2/ 補給船1)陸軍(装甲部隊/MangustaA-129 4機/対核生物化学防衛部隊/降下部隊)

兵站支援としては、具体的には、Aviano, Sigonellaの空軍基地の使用提供、湾岸戦争に参加したトルナード戦闘爆撃の戦闘参加、幾つかの港湾の利用など。ナポリ近郊カポディキーノ空港とマッダレーナ島の潜水艦基地を主に、米軍海空軍へのミサイ ルや弾薬などの供給のかなりの部分がイタリア経由で行われている。アニャーニの米海軍病院は負傷兵受け入れ準備を整えた。 直接の戦闘行為への参加は、米軍のグリーンベレーに相当する特殊部隊が準備を整えている。

●アメリカ・デーの「踏み絵」

11月10日与党Forza Italiaの主導により米国支援デモ集会が予定されている。ペルージャヤ=アッシジ平和行進に野党左派リーダーたちが参加したことに対抗する企図もあり事実上の政府主催となる。首相自らが、テロとテロ対策に関して多様な意見に別れる国民に、テロか米国かの「踏み絵」のような二者択一の選択を迫る態度に、野党ばかりか与党内や多くの市民の間からも集会の意図・意義に疑問が出されている。 

アラブ世界との地理的最前線に置かれているイタリア人の戦争参加への逡巡は、アラブ人との近接・交流・理解とそこからくる具体的不安が根拠になっている。同時に、戦争反対を叫ぶことが出来るのは世界的政治構造のなかで果たすイタリアの責任分担が軽く、他国の責任を告発する安易な立場が許されることからも来ているのも事実だ。

また母性愛から戦争で息子を失うことの耐え難さを予測する母親の抵抗も大きい。そこでは祖国とは家族のことであり、祖国への愛国心などは影を潜めてしまう。イタリア人の国家観・国家意識の曖昧さは、国際舞台での弱点でもあるが、同時に人間的観点からは生命第一主義であり肯定的要素とも見なされる。

殺すことと殺されることの間の「第三の道」は生き続けることだが、何時になく、狂暴な暴力が現実となったとき平和主義の立場は複雑だ。報復戦争を避けるために国連主導の武力行使を考えても、旧ユーゴなどでの国連軍の脆弱振りを見る限り、やはり幻想でしかあり得ないからだ。

●アフガニスタン再興への模索

ローマには、ザヒル・シャー アフガニスタン元国王(87歳1973年からイタリアに亡命中)がおり、彼を中軸にタリバン以後の政権構想が煮詰められている。

米国ばかりか、ロシア・中国・パキスタン・インドなど周辺国の利害関係はともかく、北部同盟やタリバン造反組などの諸勢力との交渉の道は決して平坦ではなさそうだ。 





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