0
ITALY NEWS
0
2001/10/01 


zoom-up



企業と若い才能の遭遇の場 FABRICA

 


鈴木啓子(SUZUKI KEIKO)

ミラノ在住プロダクトデザイナー


 





1994年、Trevisoの郊外に設立されたFABRICAは、ファッション・アパレルメー カーの Benetton社が主宰するアートスクールであり、社のコミュニケーションリサーチセン ター である。そこでは、世界各国から奨学生として招聘された25歳以下の40人あまり の若 者が、新たな教育指針の元に、さまざまな分野でのクリエーションを試みている。

Benetton社というと、単に服を売るだけでなく、広告や雑誌を通して、人権・環境・ エイズ など社会に対するメッセージを世の中に投げかけ続けている、時代のリーダ−であ る。 オーナーのLuciano Benettonは1960年、ローマオリンピックで、さまざまな人種 の競演を見て、人種も国籍も性別も超越した、人間同士のあり方を追求する、という 現在 のBenetton社のコンセプトを思いついたという。 多民族時代を先取りしたこの企業 理念 は創業時より、一環して守られ、常に時代の変化を敏感にとらえ、先鋭的な企業とし て幅 広い活動を展開してきた。 このような時代の先端を担うBenetton社が、さらにその 先端 を目指す施設として創られたのがこのアートスクールである。

Benetton社の本社や工場などの施設の大半がある北イタリアのTreviso。 その郊 外、 51,000uの敷地に施設は建てられた。 そこには元々17世紀に建てられた Palladian スタイルのVilla Pastega Maneraがあり、それを保存・改修しながら計画は行われ た。  話は少しそれるが、このTrevisoという地域はVeneziaの少し北に位置し、かつて東方 貿 易で富を得たVeneziaの貴族達が建てたVillaが点在している。 このVillaというの は、 貴族の夏の避暑の館として建てらたものでもあるが、同時にそれらは、15世紀末以 来の 通商路の変更やトルコとの争いにより、それまでのように貿易一辺倒では立ち行かな くな ってきた貴族達が、内陸部に土地を求め農業経営に乗り出し,そのための荘園の館と し 建てられたものでもある。 1540年から40年間程このVillaの建設ブームが続い た。大建築家Andrea Palladioはちょうどその時代に登場し、数々のVillaをVeneto地方に 残したわけである。

さて、FABRICAの方に話を戻そう。 Luciano Benettonが施設の設計者として白羽の 矢 を立てたのが、日本の安藤忠雄である。 一代で世界的企業を育て上げ、又、自身が ヌー ドになってポスターの主人公ともなった先鋭的な企業家Lucianoと、元々はボクサー で 独学で建築を学び、強烈な個性で数々の先鋭的な建物を発表し続け、今や世界的に名 声 を確立した安藤忠雄との組み合わせは非常に興味深いものである。

安藤はTrevisoの地域性や17世紀の旧いVillaの歴史性を充分尊重し、又、周囲の 田園風景を考慮したうえで、新しい建物の大部分を地下に沈めるという計画を行っ た。  その結果、そこに創出されたのは「歴史」と「現代」の共存とそこから生まれる新た な 風景である。 伝統的な漆喰肌のVillaと新設されたコンクリート打ち放しの組み合 わせ が、まさに「歴史」と「現代」の遭遇を象徴しているようだ。

アートスクールの部門は、グラフィック・デザイン・写真・映画・音楽・出版編集・ ファッション・ニューメディアから成る。 そこで行われているのはいわゆる伝統的 な 教育指導ではなく、具体的なプロジェクトを行いながら習得する、つまり “行いな がら 習得する” というものである。 その具体的なプロジェクトというのはベネトン関 連 のものが中心だが、その他には、ノンプロフィット団体であるFAO(国連食糧農業機関) や文化機関Sos Racisme、各国のMuseiなどと協力して行われるものもある。 

映画部門では、カンヌ映画際2000で特別賞を受賞した“Lavagne−黒板”、同じ カン ヌ映画祭の2001で脚本賞を受賞した“Terra di nessuno−誰のものでもない土 地”  等の製作がある。 又、デザインの部門では、新しいタイポロジーを持つ紙の衣服の ためのshopデザインや新しいシステムをもつNomad(遊牧民)のためのインテリア  ーこれはすでにFABRICAの製品として商品化され、新案特許も得たものだー などの 革新的なプロジェクトが行われた。 出版編集の部門も重要である。 雑誌Colorsや 70カ国に8ヶ国語で配られているBenettonマガジン等の編集の作業はFABRICAで 行われているのだ。 

先生と生徒という関係もなし、試験もなし。 押さえつけた教育はいっさいしない。 彼らが求めているのは新しい表現、新たな視聴覚のコミュニケーションの形態であ る。  当初は推薦入学制度が行われていたが、97年から希望者の作品を元に選抜するシス テムが行われた。 世界各国から集められた25歳以下の40人の研究生は一年間程 奨学生として招聘され、FABRICA近郊のアパートで共同生活を行う。  様々な国籍や人種からなる若い研究生達がそれぞれ持ち込む、異分化の混入・交流・ 調和もFABRICAの目指すところである。

  最後にLucianoとともにFABRICAの構想を考え、教育の指揮をしてきたOlviero  Toscaniについて話さなくてはならない。 彼はBenetton社でアートディレクター、 カメラマンとして社のクリエイションの部分を全面的に託され、Lucianoが全面的に 信頼を寄せていた人物である。 常に新しいアイデアを提出し続け、研究生達とも 先生と生徒という枠を超え、お互いに刺激・吸収し合いし続けてきたToscani。  彼がFABRICAに与えた貢献は絶大である。 しかし、時は経った。  カリスマToscaniは1年半前にFABRICAを去っていったという。

企業が若い才能を引き出し、彼らのクリエイションの実現の機会を与えることによ り、 組織が活性化され常に新鮮な空気が送り込まれる。 彼らはお互いにぶつかり合い、 刺激し合いながら、新たな創造をしていくのだ。  企業と若いクリエイターの遭遇の場、創造工房FABRICAは、今後もたゆみなくその 生産をし続け、常に我々に新たなメッセージをなげかけてくれることであろう。

*****

著者プロフィール: 1955年 静岡生まれ。1984年 ICSカレッジオブアーツ卒業(東 京)。以後、東京とミラノのデザイン事務所勤務を経て 現在、フリーランスのデザ イナーとしてミラノで活動し、IEDニッケンイタリアデザイン科の教育指導を担当

鈴木啓子さんの連絡先
Keiko Suzuki
E-mail: k.suzuki@infinito.it
Via Fabio Filzi 7
20124 Milano
tel,fax: (+39)02/6707 5273






トップへ  

www.japanitaly.com