0
ITALY NEWS
0
2001/03/01 


zoom-up

イタリアにおける移民問題(後編その2)

佐藤康夫 (ローマ在住)  





イタリアにおける外国人

◎老齢化と移民

●イタリアの人口と移民人口
今後、移民の目標・対象国はより一層限定されたものとなり、人口の急増する貧窮 ・途上国から、小子・老齢化の進行する豊かな先進国への移民の流れは止まることは ない。

 国連機関では、 2000-2050年の間の移民の流れについて予想される状況を三通り描 いている。

イタリアの場合:・イタリア人の人口が13百万人減少、これを埋め合わせるために年 251.000人の移民を必要とする。・平均年齢の上昇と65歳以上の人口層の増加が見込 まれ、就労人口を一定数確保するためには年372.000人(合計18.6百万人)の移民を 必要とする。・就労人口と65歳以上の老齢人口の比率を変えないで維持するために は、総計113百万人の移民を必要とする。

別の推計では、移民なしでは、イタリアの人口は2045年までに60%減少する。人口を維持するためには、2039-2046年の間に年590.000人の移民受け入れを予測しなけらばならない。

本来、人口減少は劇的でない限り、その影響は吸収可能であり、 移民受け入れが人口減少に付随する諸問題の唯一の解決策ではないとも言える。他の方策として、社会的協同形態・家族計画・女性の社会的活性化・高齢者就業促進(年金年齢の先送り)などが効果的である。

しかしながら、計画的な移民導入が、社会的困難と貧窮克服に苦闘する移民出身国にとっても、若年労働者の減少が顕著なイタリアのような国にとっても、もっとも有効な政策の一つであることは事実。

1999年度イタリア総人口は、20.000人を越す移民新生児を足しても33.841人(0.2%)減少した。一方、イタリアで誕生した移民新生児数から移民死亡者数を引いた数は、1993年度の5.818人から1999年度の19.236人と四倍となり、移民新生児がイタリア総人口の減少を抑えているのがわかる。

●移民の年齢構成
年齢構成をみると、イタリアでの移民が第二期に移行して来ていることが明らかになる。緩慢だが漸進的な移民人口年齢構成が変化、「正常化」しつつあり、もっぱら若年・成年外国人労働者、求職者を相手にしてきたイタリア社会は、通学する彼らの子弟や、いまのところまだ少数だが介護の必要な老齢移民(両親)などに対しても対応を迫られることになる。

1995年時点では、19-40歳の青年就労年齢層の外国人滞在者は70%だったが、五年後には67.2%に減少。いまだ大半の移民はこの就労人口層に集中しているものの、幼年・若年層(0-18歳)が3.9%(1998)から5.2%(1999)と増えて来ている(ISTATの戸籍調査を基にした数値では16%(1999年)となっている。内務省の成人を対象にした滞在許可データーでは年少者は部分的にしか登録されない不備がある)。

地域的には、ロンバルディア州をトップに、北伊に19-40歳の青年就労層の54.8%が居住している。しかし県別では、経済の中心ではないにもかかわらず、ローマ県がトップで14.2%の就労層を抱え「移民の首都」の地位を確保している。勿論、この数値は、ローマに国際機関が多いことから生じており、工場労働者や建築労働者とは異なる移民層が存在することが知れる。

幼年・若年層も、ミラノをトップ(8.3%)に、ロンバルディア州に一番多く(18.6%)、安定した生産活動に従事できることは、二子以上からなる伝統的な家庭の形成が可能となることを意味している。

成年層(41-60歳)は、ラツィオ州、ローマ県に一番集中し、老年層(61歳-)でも全国の30%以上の移民が同州、同県に居住していることになる。

状況は、移民の共生・同化の困難な道程にあって、将来移民自体の高齢化が大きな問題となることを示している。いまのところ老齢層の多くは、 EUからの移民であり、恵まれた老後生活が約束されている。生活手段確保の条件もあり穏やかな生活を展望できる移民青年や移民の子弟とは異なり、途上国出身の老齢移民のなかには、家族もなく、労働市場からも閉め出され、社会保障も享受できない例も多く、困難な末期を送ることになるものと予想される(1998年40号法:滞在許可証所持の外国人にも社会保障を拡大する方針が示されている)。

◎移民と権利

●不法移民
オイル危機・不況を背景に70年代前半から移民規制が進み、滞在外国人のオーバースティが増加する。80年代から90年代に掛けて西欧諸国で移民の不法入国取り締まりが強化されるが、EUと途上国との経済格差は一層拡大し、西欧への入国が制限されると、既に定着している移民を頼りに不法入国する移民が増加、闇の労働市場が活況を呈することになる。

1990年代初頭、欧州全体で2.6百万人と推定された不法移民だが、今日では、その流動性から実態を把握することは困難。閉鎖的な国境は幻想となり、移民に対する過度に厳しい規制は、逆に移民のなかに不法領域を拡大する結果になるというのが教訓。

移民政策の転換は、経済成長の鈍化とも併行しており、不法入国移民を都合のよい「柔軟性ある労働力」として利用していた段階から、移民を社会秩序を攪乱する「犯罪者扱い」する立場へとご都合主義的対応も見られる。 一般に、経済の需要・公共の安寧と秩序・移民労働者の保護と評価・不法移民を扱う犯罪組織との対抗など、諸問題を網羅する均衡ある移民政策を施行することは難しく、イタリアの1998年40号法は、その試みのひとつである。

●移民の計画的受け入れと移民正常化措置
イタリアでは70年代半ばから、他の西欧諸国への入国が困難になった移民が流入するようになる。同時に産業形態の変化で柔軟な労働力が必要とされ、移民を特定する規定が欠けていたこともあり、移民政策よりも労働市場が先行した形で移民を受け入れて行く。 一旦、不法に入国し、諸権利の保証のない生活を送りながら「正常化」措置を待つ移民が増えて行くことになる。

政府は、79-98年の間に五回の移民の身分正常化の措置を余儀なくされている。五回目の1998年3月27日までに入国していたものに対しての正常化措置では25万人の移民が殺到(これまでの総計では、86万人以上)、139.601人が正規滞在者となっている。

正常化とは、必要移民数を国が提起し、その数の不法入国・滞在移民に滞在許可を与えることで闇労働市場から脱却させ、社会的共生の条件を築く政策。身分正常化申請の条件は、就労中か就労の保証・住居があること・前科の無いことなど。指定期限までに入国していたことの証明として、労組や団体組織など警察に認知された組織への加入証と組織責任者の証明・受領した郵便物・居住していることを示す住居提供者の証明・滞在更新の者は年収か経済手段の証明なども書類として有効とされた。

注目されるのは、北伊ロンバルディア州、南伊カンパーニャ州、プーリア州などで、正常化によって滞在許可を得た元不法移民数が数%正規滞在者数を越えたことである。また、北西部だけで正常化者数の35%以上を占めるところから、改めて北伊での正規と闇の雇用労働の機会が多いことが窺える。

●1998年40号法の基本理念
ーイタリア人と対等な形での、移民の基本的人権の認知と行使を支持奨励する
ー移民の就労、住居、社会サービス、学校教育機関への接近・獲得・利用を支持奨励 する
ー人種・肌の色・帰属国・帰属民族・帰属宗教などに基づくあらゆる形態の差別を予 防・除去する
ー外国人の文化的・宗教的・言語的アイデンティティーを保護する
ー移民出身国への移民の積極的な再入国を可能にする

移民の融合は以下の手段の多様性を通じて実現されるものとする。
ー出身国の語学と文化の学習会
ー移民がイタリア社会に積極的に参加するために有効なあらゆる情報の普及、とりわけ移民の諸権利と諸義務、公共行政や民間団体が提供する個人と共同体の発展と融合
の様々な機会に関する情報、さらに移民出身国への移民の積極的な再入国に有用な情報などの普及
●滞在カード(滞在許可証に代わる新しい証書)
5年以上居住し、無制限に更新可能な滞在許可証を所持し、本人と家族扶養に充分な収入を証明できる外国人に発給される。カードによる滞在許可は無期限で、同居する家族にも与えられる。

国外強制退去の禁止。迫害が予想される国に向けて出国を強制することを禁止。同時に16歳までの年少者、滞在カード所持者、その四等親までの親族、三ヶ月以上の妊婦、出産後半年以内の女性などに対しても国外退去措置を禁じている。

地方選挙での投票権(議会で承認された場合)を滞在カード所持者に与える。滞在カードは、英国などのleave of stayなどと同等の機能を持つ。

●市民権
1999年度イタリア市民権(国籍)を取得した外国人は11.291人。取得条件は、イタリア市民との婚姻か12年以上のイタリア滞在。婚姻を基にする場合、半年間の滞在で充分であり、当然、取得者の85%がこの方法で市民権を得ている。婚姻による市民権取得者は、近年イタリアに移民を送るようになった東欧(ルーマニア、ポーランド、ロシア)・中近東・中南米(ブラジル、ペルー、コロンビア)諸国に目立ち、旧来の移民出身国(アフリカ・アジア・北米・EU)では長期滞在を条件に市民権を取得する例が多い。

イタリアに入国したい移民にとって、イタリア人との婚姻が、市民権獲得の便法とされているのも事実。

◎社会・文化的共生

●定着移民、その社会的融合と代表者
移民の居住社会への融合問題はイタリア人側の視点からだけではなく、移民自身の視点によっても検討される必要がある。いまのところ移民は法的に認知された第一人者としてではなく、彼らの利害は労働組合やno-profit組織などによって代弁されている。地方自治体選挙をはじめ参政権はなく、移民が自己を取り巻く諸問題の解決に直接貢献できないことから、社会的に従属的な立場を余儀なくされており、社会生活を一層困難なものとしている。

移民自身による組織も各種存在するが、移民対象に活動するイタリア側の団体組織(登録組織58)ほどには事業計画立案と管理運営に長けていないところから充分な活動を展開できず、また移民の代表を選出するような環境も整っていない。

政府は社会連帯相を議長に「外国人移民とその家族の諸問題のための評議会」を設置している。三年を任期に、半年に一回以上、地域代表なども含めて会合する。地方行政機関や民間団体などの報告を受け、移民融合にまつわる諸問題を討議し、現行法規の施行状況を確認、提案や示唆を検討、移民融合のための肯定的な活動経験の普及に努める。

「外国人移民とその家族の諸問題のための評議会」の構成員:
- 経済労働全国評議会傘下の全国組織に属する団体・法人代表
-地方自治体代表(6)
-民間の団体・法人代表(18)
-イタリアで活動する代表的団体のEU域外の外国人代表(14)
-全国労働評議会傘下の組合代表(4)
-経済分野の雇用側組織指名代表(7)
-関連各省庁指名代表(7)
-地方自治組織指名代表(4)

●宗教問題
移民総数を149万人とすると、その36.5%はイスラム教徒、次いで多いのがカトリッ ク教徒で27.4%を占め, カトリック以外のキリスト教徒は22.1%となる。合計で 735.000人と最多数を占めるキリスト教徒は、十人に六人がカトリック、二人がプロ テスタント、二人がギリシャ正教。

イスラム教徒の急増は、1999年の正常化で滞在を許された移民の大半がイスラム教 国出身者であったことによる。イスラム教徒の移民は、地中海沿岸のアフリカ諸国、 インド大陸、東欧から、キリスト教徒の移民の多くは、南米、EU, 他の先進国、東欧 からやってくる。北アフリカからの移民は98%がイスラム教徒である。ユダヤ教徒は 移民中1%以下で、東洋起源の宗教信徒は6.5%となる。

イスラム教徒がキリスト教徒移民より多い州は、ヴァルダオスタ(47.2%)、ピエモ ンテ(47%)、エミリア・ロマーニャ(48.4%)、プーリア(50%)、バジリカータ(55.4%)、 カラブリア(58%)、シチリア(45.0%)。他の州では、逆にキリスト教徒が多数を占め る:ロンバルディア(47.5%)、リグリア(56.3%)、ヴェネト(49%)、フリウリ・ヴェネ ツィア・ジュリア(74.2%)、トスカーナ(50.7%)、ウンブリア(48.8%)、ラツィオ (63.3%)、アブルッツォ(54.8%)、モリーセ(47.7%)、カンパーニャ(50.6%)、サルデー ニャ(48.2%)。

ー憲法と宗教の多様性

イタリア憲法では、信仰の自由がすべての市民に保証されている。法秩序と公序良 俗に反しない限り、組織化も布教も自由である。

1985年首相府に、カトリックを除く諸宗教団体との協定を行う各省代表からなる委 員会が設置されている。同委員会の諮問機関として学識経験者からなる委員会が構成 され、宗教の自由の観点から宗教団体との協定調印への基本的方針がを検討されてい る。

協約で認知された宗教会派・団体が受ける特権:集団施設(軍隊・医療機関・刑務 所)における宗教的扶助行為/教育分野での規範を定める権利(宗教的事象の研究・ 神学研究機関の就学証書の認知・各種各等級の学校設置の権利)/会派の聖職者によ る婚姻の民事的認知/会派の税務面での法人対応措置/納税からの資金援助(所得税申 告時に納税者は、政府と協約を交わした宗教会派援助のために割り当てられた0.8%の 税金を希望する特定宗教会派に振り分け選択する権利があり、政府に認知された会派 は、この税金を受け取ることが出来る。無記入の納税分は、他の納税者によって選択 された諸会派の比率によって割り振られる)/信徒の献納金の税控除/信仰の用に供さ れる建造物の保護/会派聖職者による自由な聖職の行使/会派の祝祭日の認知/ 会派の歴史・文化的遺産に関する諸財の保護と評価。

既に国と協約を交わした宗教団体は、イタリア・ユダヤ共同体連合と非カトリック の五会派。エホバの証人派とイタリア仏教徒連盟も原則的諸問題に対する会派の立場 を表明し政府との折衝を終えている。

ーイスラム教
現在、ローマのモスク建設の中心となったイスラム文化イタリア・センターの主導 で、政府との折衝へ向けて、他のイスラム教組織との協議が進められている。イスラ ム教の場合、先進国で普及しているキリスト教会派とは大きく異なり、異民族・異宗 教間婚姻における個人の信仰の自由の完全な保証・女性の地位・子弟に対する両親の 平等な責務など、解決すべき問題が多々残されている(「一夫多妻制は正当か」との 世論調査(対象1000人中、半数がイスラム教徒)では、「イスラム教では合法だから 正当」(26.9%)とする「伝統派」をトップに四割以上の移民が一夫多妻制度を肯定す る回答をしている)。

毎年増加するイタリア移民に関する宗教問題とは、とりわけイスラム教徒との社会 的・文化的・宗教的共存の問題であると言える。マスコミで報道される、エピソード (離婚したイスラム教徒の夫との間での子弟の帰属争い・一夫多妻制を拒絶したイタ リア人妻の離婚・学校でのチャドールの着衣論争・ジーンズ着衣を許さないイスラム 家庭からの少女の家出)などもほとんどがイスラム教徒の戒律とイタリア社会の慣習 との齟齬に帰因する。自己の信仰に従いながら他者の信仰・信条を侵すことなく、共 存する道を求める困難な対話が続けられねばならない。 ●住宅問題
移民がイタリア社会に入り込むに当たって、雇用先を確保し、社会文化的差異を克 服することと同様に解決の非常に困難な問題は、適切な住居を見つけることである。 移民の第一期受け入れ(緊急収容先)と第二期受け入れと二種の施設が必要とされる が、どの州でも公共・民間を合わせても需要をまかなうことは出来ていない。

移民の四分の一が五年以上、三分の一以上が十年以上の滞在を続けており、 移民 が益々定住傾向を強めている。もちろん住宅は一年滞在する者にとっても適切なもの が望ましいが目標達成は遙か彼方の感がある。

イタリア人の貧困層(移民の多くもそこに含まれる)は極めて困難な住宅事情に喘 いでいる。低価格な庶民住宅や借家の不足、住居を必要とする移民の足下を見た搾取 形態など、事態は悪化していると言える。移民人口全体を対象にこの問題での統計数 字を得るのは不可能であるが、地域毎の調査から推測すると、移民の四分の一から五 分の一が適切な住宅を持てないか、劣悪な居住条件に置かれているようだ。

イタリアで貧困層を対象にした住宅政策が遅れているのは、国民の75%以上が持ち 家に住んでおり、多くはセカンドハウスを所有し、未使用の家は全国に550万軒もあ るという、いわば住宅建築の飽和状態が背景にある。と言って、残りの25%の国民を 放置することは許されず、適切な価格の借家不足が労働力の流動性拡大の足かせとな る状況が生まれている。移民労働者によりよい住宅条件を確保し、同時に労働市場で の流動性を保証するために、公共レベルでも、移民労働者を多く吸収する建築企業家 レベルでも、具体的な解決の計られることが望まれている。

もちろん、移民のなかにも不動産を借用・購入する経済力のある組織(犯罪組織を 含む)や市民もあり、大都市の一角に外国人共同体が形成される例も見られる。ローマでは、テルミニ駅裏のエスクィリーノ地区に貿易商やレストラン、家内工場を経営する中国人街が拡大し、イタリア人の入らない商店などでは密貿易品や公衆衛生法やEU規定違反の物品が売買され警察の継続的な監視の下にある。

 *   *   *   *   *   *   付記:「移民と労働」「移民と犯罪」については、機会を改めて記すことにします。




トップへ  

www.japanitaly.com