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ITALY NEWS
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2000/12/01 


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イタリアにおける移民問題 前編

佐藤康夫 (ローマ在住)  





 「移民はもう沢山!」。ヴァチカン市国に近接する我が家の外壁に最近こんな手書 きポスターが張られた。この界隈、今年は聖年とあって、世界各国からの巡礼や観光 客で何時になく賑わっている。その大勢の「客」を目当てに各種露店を開くのはアジ ア・アフリカや東欧からの移民たち。こんな国際色溢れる街頭に場違いなポスターを 張りビラを配布するのは、地域で近年勢力を伸ばす右翼青年組織。彼らの言うよう に、移民の数は、必要以上に増加しているのだろうか。先ずは、イタリアにおける外 国人の実数から見てみよう。

◇イタリアに居住する外国人

 内務省が外国人に発給する滞在許可書総数を基準にしたISTAT(統計局)などの推計 によると、1999年末現在で約150万人の外国人が正規の手続きを経て居住しているこ とになる。この数はイタリアの総人口の2%を少し越えるが、フランス(約7%)など と比べると、まだその比重はそれほど大きなものとは言えない。

 1999年度の滞在許可証を受け取った外国人の国別トップテンは、アルバニア、モロ ッコ、旧ユーゴスラビア、ルーマニア、中国、セネガル、ポーランド、エジプト、チ ュニジア、マケドニア (1998年度:アルバニア、モロッコ、ルーマニア、旧ユーゴ スラビア、米国、ポーランド、中国、ドイツ、ロシア、イラク)の順となる。  また、国内の居住地域別では、北伊(約80万人)、中伊(約44万人)、南伊(17万 人)、島嶼部(8万人)の順となり、イタリア20州のなかでは北伊のロンバルディ ア、中伊のラツィオ、北伊のヴェネト、エミリア・ロマーニャ、中伊のトスカーナ 州に外国人が集中していることが知れる。

  1999年度発給の滞在許可証総数は268.007であり、 国連機関の推計では、イタリ アは毎年人口100万に対して6.500人、つまり375.000人の移民を必要としていること から見れば、外国移民は「もう沢山」というわけでもなさそうだ。

◇移民輸出国から輸入国へ

 欧州諸国はもとより、米国や南米、オーストラリアへと、イタリアは伝統的に移民 を輸出する国であった。第二次大戦後も、アルプス以北の諸国に労働力を供給し続 け、特に旧西独にはトルコ人と並んで多くの出稼ぎ労働者を送り出していた。しか し、イタリアでの経済復興にともない、70年代には、国内に戻るイタリア人移民数が 外国へ移住する者の数を越えることになる。 70年代末から80年代に入ると、世界的 規模での富の生産と消費の偏りを是正するかのように、主に第三世界から労働力とし ての移民が流入し始め、ここ十年で移民の出身国が多彩になってきている(1999年度 2.000人以上の移民を送り出した国数は32に上る)。

 イタリアに移民が流入する要因は、イタリア国内での労働力需要・地理的特殊性・ カトリックの中心地であるヴァチカンがローマに存在する事実が上げられている。  労働力の需要が高まっているのは、欧州でも群を抜く老齢化・少児化が背景にあ る。同時にイタリア人が特定職種を忌諱するため労働人口が慢性的に不足する分野 (農業や鋳物製造・清掃など3K職や看護士)が発生し、また専門技術者養成の遅れて いるIT技術などの分野でも外国人労働者を必要としているからだ。

 地理的には、地中海に欧州大陸から突出した半島として八千キロの海岸線を持つイ タリアは、地中海対岸の北アフリカ諸国やアドリア海対岸の旧ユーゴ諸国やアルバニ アからの接近が比較的容易であり、他の欧州諸国への足場として利用されることも多 い。

 ●新しい移民の流れ(1999年度)

1999年度滞在許可証を発給された外国人268.007人のうち、92.4%は統合欧州(UE)域 外の市民で占められ、80%以上は0-40歳の年齢層に集中。前年に比しても更に若 い人の層が増加している。UE市民の間では女性56.6%と男性を上回り、UE域外市民で は女性の比率は42.3%である。

出身国別にみると東欧を含む欧州からの市民が半数、アフリカからが四分の一、残 りの四分の一がアジアとアメリカからの市民で占められている。東欧からの市民が前 年比で40.3%増え135.150人を記録し、なかでも戦禍を逃れる難民を含むアルバニア人 (37.180人)が第一位となった。男女の比率は、大陸別に見てアメリカ(66.3%)、欧 州、アジア、アフリカ(30.1%)の順で女性の比率が減少する。

 新しい移民の滞在許可申請理由は、労働(57.7%)、家族合流(20.9%)、一時的亡命 ・庇護(7.9%)、勉学研究(4.1%)、観光(2.9%)、宗教的理由(1.8%)、居住地としての 選択(1.7%)、養子・里子(1.7%)となる。労働の目的の中、138.473人が被雇用者、 16.202人が自営業者であり、男性の三分の二、女性の三分の一が労働を目的にしてい る。女性の別の三分の一は家族との合流が目的である。

 居住先を地域別にみると、北伊が半数を吸収し、中伊が27%、南伊が16.6、島嶼が 6.6%となっている。都市別では、ローマ、ミラノ、トリノ、ナポリ、バーリ、ボロー ニャ、フィレンツェ、ジェノヴァと、アルバニア難民などの上陸地であるバーリを除 き順に大都市が並ぶ。

 ●イタリアへの不法な入国経路

1.モロッコースペインーフランスーイタリア西部国境から:北アフリカ人がバスや 貨物トラックで。

2.スロベニアーイタリア東部国境から:中欧・東欧、トルコ、イラク、インド、中 国人がバス、キャラバン、商業車などで。1999年度だけでも3.000人をスロベニアに 送還。

3.スロベニアとクロアチアの海岸線ーイタリア・フリウリ地方海岸:インド(バン グラディッシュ)人が船で。

4.スイスとオーストリアーイタリア北部国境:北・西アフリカ、バルカン半島、イ ンド、極東、南米の移民が旅客・貨物列車で。

5.チュニジアーシチリア南西部(ランペドゥーザ島・パンテッレリーア島):チュ ニジア、モロッコ、アルジェリア、西アフリカ(ナイジェリア、ガーナ、セネガル、 シエラ・レオーネ)から船で。

6.地中海ーシチリア南東部(シラクーザ、ラグーザ県海岸)ーカラブリア(イオニ ア海海岸):通常マルタ島経由で、エジプト、リビア、レバノン、トルコ、イラク (クルド族)から小型船で、インドからは大型船で。

7.アルバニアとモンテネグロープーリア州:船外モーター付き高速ゴムボートや船 で。1999年1月ー10月の間にオートラント海峡で確認された外国人は90.000人、その うち三分の一が難民として保護される。

8.北アフリカー他のイタリア海岸:北アフリカの商業港から通常の輸送船で海岸に 接近し、小型漁船に乗り換える。格安の手段であることから、資金のないものが麻薬 運び人となったり、女性は売春を条件に乗船することが多い。

9.公的な空の国境(ローマとミラノ空港)と海の国境(定期連絡船が発着する 港):偽パスポートなどを利用。アルバニア、トルコ、イラク、旧ユーゴからは海か ら、他の国からは空港を利用。

 ●移民にまつわる犯罪組織

 ともに犯罪組織ではあるが、統合欧州メンバー国への移民の不法入国・滞在・雇用 の便宜を金銭と引き替えに図る組織と、女性を主な対象とする人間そのものの「流 通」「売買」を扱う犯罪組織とを区別して取り扱うのが通例となって来ている。後者 は、暴力や脅迫によって被害者を他者の権力下に置き、とりわけ売春を強要したり、 年少者への性的暴力、孤児の売買などのを組織する。 女性・年少者を対象にする売 春組織は、イタリアにおいて30.000人の売春婦を使い、50兆リラのセックス産業を運 営していると推計されている。売春婦一人当たりの売り上げは最低日百万リラと算定 される。

 ●対抗措置:1998年第40号法によって不法入国者の国外退去事務が迅速となり (1999年に国外に退去させられた移民は24.955人)、また地中海対岸諸国を含む22ヶ 国との追放者再受け入れに関する合意もあり、地中海を渡っての不法入国は減少し た。取り締まりが「ざる」のようだと言われてきたイタリアだが、統計上は不法入国 者への対処は進展している。一方、旧ユーゴ国境からの流れは変わらない。プーリア 州海岸へは、コソボでの戦闘の前後ともに多数の難民がの上陸している。

  ◇地中海諸国の再興

 地中海を囲む地域は、ダイナミックな動きをみせる移民の十字路。一方の側には人 口が減少し労働力を必要とする豊かな南欧諸国があり、もう一方の側には人口が急増 し就業率の低いイスラム諸国があり、両者は地中海を挟んで向き合っている。文化や 宗教、社会・経済的性格を大きく異にするものの地中海諸国間の対話は進行してお り、南欧各国には、統合欧州への移民の入り口として、増加する一方の移民流入に積 極的に対応することが求められている。

 なかでもイタリアは、伝統的な移民輸出国であり、国民は実に多様な民族グループ から形成されており、同時にアジア・アフリカ・バルカン諸国との十字路に位置する ところから注目を集めている。イタリアは、その特殊な政治地理的位置において新し い移民政策を国内外で展開、ローマが欧州移民問題のひとつの基準点とみなされるよ うになってきている。

 プローディ統合欧州委員会委員長も「欧州への新しい道は地中海を通過する」と し、 地中海地域での過去の停滞から平和と協同・同地域の世界的視野での展開を呼 びかけている。欧州の東の境界が規定されようとする中で、等閑視されてきた地中海 地域が新たな歴史的な中軸として脚光を浴びてきたと言える。

 同委員長は、移民政策はもはや緊急政策として扱われてはならず、「(地中海地域 を)今後30年の間に創出されるべき9億人市民を統合する地域」とする長期的構想を 提示。欧州が土台とする基本的価値(個人の諸権利・地域性の尊重と文化的多様性な ど)を考慮することで、「移民の流れは、同時に、地中海を長らく分断してきた宗教 ・社会的亀裂や不和を乗り越えるためのまたとない絶好の機会でもある」と指摘して いる。

  イタリアは、一貫して安全保障を外交の柱とし、地理・歴史・文化的環境からも バルカン半島と東欧諸国、中東アラブ諸国との平和的共存を追求し、21世紀に予想さ れるキリスト教世界とイスラム世界の衝突を回避することを責務としてきた。   その対話路線を堅持する意味でも、欧州地中海地域とアフリカ大陸との関係発展 にイタリアが果たす役割が大いに期待されている。 密貿易と不法流入移民を抑えな がら、地中海地域の社会・経済分野における相互依存関係と移民現象の潜在力を、関 係各国との協同で有効に管理することが焦眉の課題となる。

◇移民受け入れの「ラボラトリー」としてのイタリア

 各種世論調査によると調査対象者の80%は、移民問題は移民出身国の経済を援助し なければ解決せず、イタリアに移民を招くことでの解決には懐疑的である。移民の存 在がイタリアを豊かにすることに貢献すると判断するものは44%であり、残りは反対 意見である。犯罪に関しても、74.9%が移民の存在と犯罪増加との相関関係を認める (北伊では85%)。就労に関しては、62%が移民がイタリア人の職場を奪うという説に 賛成せず、逆に、移民はイタリア人の忌諱する仕事に従事する用意があると判断して いる。移民政策に関しては、88%が容認し過ぎるとし、移民の流入制限を求めている。一方、59%が一定年限を過ぎた正規滞在外国人には地方選挙権が与えられるべきと考えている。

 不法移民に対しては、60%がたとえ犯罪を犯していなくても追放すべしとし、72%は 滞在許可のない移民も仕事さへ見つかれば正常化して滞在を認めるとしている。

 世論調査からは、イタリア人のなかでも、学歴・階層・年齢などによって意見が分 かれることが知れる。社会的に恵まれているものに、移民へのより開放的な姿勢が見 られる。一般に、イタリア人の間では、移民に対する「恐怖度」が高い一方で、移民 への諸権利の付与に対しては「開放度」が高いという、他の国では見られないアブノ ーマルな結果となっている。

 さらに今日「恐怖」の対象とされるのは、「移民」のなかでも、UE(統合欧州)域 外の外国人であり、さらに米国や日本を除く第三世界に属する貧しい国の市民であり、人種的には黒人・アラブ人であり、宗教的にはイスラム教徒である人々のことだ。 最近の移民に敵対的な行為や発言が彼らに集中していることからも明らかだ。

80年代末から90年代にかけて多発した個別の移民襲撃事件などは減少したが、移 民と共生を迫られる市民達の間では、共存と排除とのあいだで動揺する態度がみられ る。

 ローディ市のモスク建設用地提供に反対する北部同盟主導の市民デモが行われた り、北伊の小村の司祭が「イスラム教徒はカトリック教会に近づかない方が無難」と いったり、さらには、高位の聖職者であるボローニャ市のビッフィ枢機卿が「カトリ ック国のイタリアには、その宗教文化に相応しい移民が望ましい」と、暗にイスラム 移民を牽制する発言 まで飛び出している。

 移民が計画的に入国し、段階的に居住地域住民のなかに入って行くことが出来れ ば、イタリア市民との軋轢の多くは解消されると考えられている。逆に一定地域での 急速な移民の増加は、両者の間の差異を徒に強調することになり、外国人のゲットー 化(トリノ市・ローマ市など)を誘発する。

 少児化・老齢化の傾向や長い海岸線を持つ国土など共通点を持つ日本にとっても、 イタリアでの様々な模索は大いに参考になるはずであり、その過程と成果に無関心で はいられない。(続く。後編は、2001年2月1日更新号掲載予定)




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