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ITALY NEWS
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2000/10/01 


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イタリアの自動車保険事情

三井海上ミラノオフィス  田中ちひろ  





1.概要

イタリア保険業界全体の総収入保険料は1999年120兆リラを突破し、米国、日本、イギリス、フランス、ドイツに継ぎ、世界第6位の規模となった。生保と損保の 割合は、昔から損保の比重がずっと高かったのが、人口の高齢化に伴う年金制度の改 正(改悪)、投資型生保商品の充実などで 近年生保が年々30%以上の成長率を続 け、 とうとう1998年に生保と損保の割合が逆転、生保収入保険料は全体の約58 %、損保が42%という内訳になった。

損保の中でもっとも私たちの日常に関係があるのが自動車保険であろう。その中でも 自動車第三者賠償責任保険(自賠責保険)は法的に定められた強制保険であり、車を 購入する際には避けては通れない保険である。(イタリアの場合は日本と違って車庫 証明なしで自動車は購入できるが、保険は避けられない。)この強制自賠責保険での収入保険料は全損保収保の約50%、つまり25兆リラとそ の割合は非常に大きいが、イタリアの場合、事故による保険金支払いがそれを更に上 回り、したがってこの分野は例年赤字続き、1999年も36億リラのマイナスとなって いる。

2.保険料金の自由化

イタリアの自賠責保険のタリフ(保険料)は1994年にEU条例を受けて自由化された。それ以前 はイタリアの公的機関がそのタリフを決定していて、全保険会社はそのタリフを自動 的に採用していた。EU統合、そしてその領域内での自由競争、つまり、タリフの自由化が自由競争を促し、価 格の低下につながるというのが、従来のマーケットの一般的常識であるが、イタリアでは、この「シナリオ」は見 事(?)に通用しなかった。

実際、イタリアでも、「自由化」以降、当然のことながら、どこの保険会社も独自のタリフ算出基準を設け、 タリフの細分化、パーソナル化を進めた。従来の算出基準であった車の排気量(イタ リアではCavalli fiscali馬力という)、車種、ドライバーの居住地などに加え、年 齢、性別、職業、通勤に車を使うのか、週末だけなのか、運転するのは一 人か、或いは家族もなのかなどが算出基準となる。(ちなみにこの分野でははるかに すすんでいるイギリスではAir Bagがあるか、市内交通の定期券を持っているか、喫 煙者かどうか、さらにはドライバーの星座までが算出基準になるという)

ところで、残念ながらイタリアの自動車保険は、ヨーロッパの中でもとにかくその保険料が高い ことで有名である。またドライバーの居住地(住民票があるところ)、つまり都市によっての保険料が著 しく変わるというのはイタリアの大きな特徴である。たとえば同じ車を同じ年齢の人が乗る場合でも、北イタリアのスイス、フランス国境ぞいの都市、アオスタの保険 料に比べて、南部のナポリの保険料はその約2倍、ミラノなら1.5倍といった具合である。 確かにナポリ、シチリア等での事故発生率には信じられないものがあり、実際保険会 社の中にはそういった地域での引受けをしないところもたくさんある。

そういえば、私がミラノの自動車教習所に通っていたころも「たとえ自分に優先権が あっても相手がナポリナンバーだったら、道を譲るように」としつこいくらい先生に いわれたのを思い出す。

3.高保険料の背景

一生懸命顧客を選別しても採算はわるくなるばかり。 決して運転が下手とはいえないイタリア人だが、いったい その原因はいったいどこにあるのか、ANIA(イタリア保険会社協会)の説明を聞 いてみた。

1)人身事故の増加
事故自体の数は多少減少傾向にあるが、近年人身事故が大幅に増えている。 「土曜の夜の大惨事」(土曜の夜の深夜にディスコなどで 泥酔した若者がその帰 りに交通事故をおこし、自分または巻き込まれた人が死んでしまうということが、社 会問題 にもなっている)など、とにかく自動車事故5件のうち1件がイタリアでは 人身事故である。(ちなみにフランスでは8%、ドイツで11%) 実際シートベルト着用率はイタリアではわずか10%(EU平均80%)。 人身事故になると当然支払われる保険賠償額も大幅に高くなる。件数で20%弱の事 故が、賠償金額では全体の 50%以上を占める。

2)裁判調停費用の増加
小さな事故で怪我人のない場合には両方のドライバーがCostatazione amichevoleとよばれる保険会社から与えられた示談書に事故状況や その他のデータを記入すれば、自分の保険会社があとはすべてやってくれるが、大き な事故や怪我人のいる場合(すぐに警察を呼ばなければならない)は話がややこしく なる。両方の言い分が違ったりで、裁判に持ち込まれることも少なくない。 そういったケースが年々増え、またイタリアの裁判の長さがさらにその費用の増加を 煽っている。

3)保険金詐欺の増加
1999年のデータを見ると、ナポリでは100件の賠償請求 (事故通告)のうち 15件が実際に起こっていないのに起こったと見せかけた事故、あるいは実際の損害額を大幅に水増ししての請求である。 多くの場合修理工場はもちろん事故鑑定人等もグルになっていて、一度払ったら、十 分な証拠、裏付けがとれないため回収できないといわれている。

したがってタリフの自由化で安くなるはずだった保険料が、こういった背景のもと実 際にふたを開いてみれば、自由化以降毎年7-10%の割合で高くなり、1999年にい たっては平均16.5%のUPとなった。

4.ああ、「イタリア式」保険事情
保険料が高くなればなるほど保険に加入できない人たちが出てきてこれは大きな社会 問題となる。一方、保険会社側は、前述したように、支払いを渋る傾向が強まっている。事実、事実事故発生から支払が完 了するまでの日数もEU平均の18日に比べイタリアでは51日という遅さである。

しかしここでまたおもしろいデータがある。保険会社に不満を持っている被保険者は33%、しかし実際に保険会社を変えるひと はそのなかでも10%に満たないというのである。電話による販売、インターネットなど直販も増えてきているが、イタリアではいまの ところまだ他のEU諸国のように浸透しない。いまだ自賠責保険の95%が代理店に よって締結されている。
「やっぱり知っている人でないと」
「あの人なら私には特別にしてくれる」
やはりコネの世界なのである。
友達の友達でもいい。ちょっとの引っ掛かりから一度入ったら しつこく通ったり、 コーヒーに誘ったりして人間関係を作る。イタリア人はその点実にまめである。 (もっともこれがイタリアのビジネスの基本のような気がするが。)

こうした中、2000年5月26日にある法律ができた。 前年度無事故のドライバーに関しては2000年は保険料をブロックすること。(値 上げをしてはいけない)守らなかった保険会社は罰金。 市場のメカニズムによって定められる保険料の上昇に政府が介入した。 保険会社にすれば、そのブロックのため今年度さらに損失27億リラが予想されると いう。ドライバーからすればありがたいが、これがサービスの低下につながらなければよい が.....

自由化とコントロール、社会のためにはなにがいいのか、 イタリアの自賠責保険に関しては 避けて通れないジレンマである。




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