JAPAN-ITALY Business On-line
0 BUSINESS ON-LINEITALY NEWS

SPECIAL

2000/4/1

BACK NUMBER


ZOOM-UP 


イタリアの学校教育


ローマ在住ジャーナリスト
茜ヶ久保 徹郎


今年の2月、イタリアの教育制度を改革する法律が成立した。この改革でこれまで小学校5年、中学3年、高校5年で、小中の8年間が義務教育であったものが、小中学校が統一されて7年間の一環教育となり、5年制高等学校の2年までの9年間が義務教育となった。旧制度では中学卒業時、13歳でその後の進路を決めなければならなかったが、新制度では高校で2年間の一般教養課程を終えた後で、将来の進路を決めれば良いことになり、またこれまで19歳であった高校卒業年齢が18歳に下げられることになった。

●これまでの制度

この新制度は2001年9月から適用されるが、ここでは現在の制度がどのようなものなのかについて書いてみる。

イタリアは第二次大戦の末期に、当時非合法化されていた共産党から自由党までの全ての反ファッシスト勢力で構成されたイタリア解放戦線によって、ナポリからミラノまで殆どの都市が自力開放された。そして国民投票により自主的に王制を廃止し、すべての党が参加する制憲議会によって新しい憲法を制定された。しかし教育に関してはその改革までは手が回らず、憲法に基本的な権利条項を入れたのみで、その後は手直し程度の改革で済ませてきた。

その為にイタリアの教育は、戦前のエリート養成のシステムが基本となっており、大学に進むものは中学卒業後、5年制のリチェオ・クラシコと呼ばれる古典高校かシェンティフィコと呼ばれる理科高校に進むことになっており、それ以外のものは商業や工業専門学校で学び、国家試験である卒業試験を通れば、計理士や工業専門士といった資格を持つことになる。これとは別に、芸術の国イタリアは、美術アカデミーへ進むための美術高校、音楽家を目指すものの為の音楽高校コンセルバトーリオがある。

●卒業試験 

イタリアの高校や大学には学校間の差は殆どなく、有名高校や有名大学は存在しない。それは中学を卒業すれば高校へ、高校を卒業すれば大学へ無試験で入学することが出来るシステムになっているからである。こう書くと簡単そうだが、高校の卒業試験は国による資格試験で非常に難しく、殆どのイタリア人が高校の卒業試験を「人生の最大の難関の一つ」と考え、年を取ってからでも夢に見ることがあると言う人もいるほどである。 戦前から続いているこの試験は、毎年6月から7月にかけて全国一斉に、同じ出題で行われる。現在は筆記試験が三つで残りは面接試験であるが、筆記は○×ではなく数時間掛けての論文、面接は全試験官の前でそれぞれの学科に関する出題がなされ、その場で解いて行かなければならない。そして100点満点の60点で及第、内45点が筆記、35点が面接、それに内申書の20点が加わる。試験は校内で行われるが、公正を記して8人の試験官のうちの4人と委員長は文部省が任命する外部の先生で構成される。

色々と問題も有るシステムだが資格試験であるために、日本の入試のように「他よりも一点でも点を多く取らなければならない」という競争社会ではなく、その為に学校間で格差が出来ず、生徒の間で競争する必要も無いのでいじめの問題も起きない。

●学校の殆どが公立

イタリアの学校は、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校の殆どが公立で、保育園、幼稚園の先生が市の職員である他は全て国家公務員である。そして小学校、中学校は25人学級、クラスに障害者の子供が一人いれば20人になる。障害者といえば、イタリアでは70年代に障害者の為の特殊学校が廃止され、全ての子供が一般校に通う統合教育が完全に実施されている。

●学生憲章の制定

前記のようにイタリアの学生はある一定の学力に到達すれば良いので、割合のんびりと学生生活を送ることが出来る。先生もまた他の学校との競争などは気にする必要が無い。それにも増して大切なことは、教育の場で先生と学生の自由が保障されていることである。

1998年6月、中高生の権利と義務を規定する「学生憲章」が公布された。この憲章によると、学校は「知識と批判精神を養う場で、意見の交換と研究そして社会経験を行うコミュニティであり、民主主義の価値を知り人間性を成長させる場である」と規定され、「イタリア憲法と国連の『児童の権利条約』に基づき、教育を受ける権利を実現させる場である」としている。そして学校は「表現、思想、両親、宗教の自由に立脚し、年齢や身分にかかわらず、お互いに尊重しあい、イデオロギー的、社会的、文化的障壁を否認する」とうたわれ、学生の権利として下記を上げている。

1) 適切な文化的、職業的育成を受ける権利。
2) プライバシーが守られる権利。
3) 学校の規則及びその決定を知る権利。
4) 学校の運営に積極的に責任を持って参加する権利。学校管理者、教師は校則に基づいて、教育目的とその達成計画、学校運営、評価の方法、教科書及び教材の選択に関して、学生と建設的な話し合いを行う。学生は迅速でガラス張りの評価を受ける権利があり、それによって自身の良い点と欠点を知り、勉強の効率の向上を図る。
5) 学生に多大な影響を与える可能性の有る決定に際しては、学生は意見聴取を要求することが出来る。中学校においては、親も同様の要求が出来る。
6) 学生は補完授業を自分の勉強の進行状況に合わせて、自由に選ぶことが出来る。
7) 外国人学生はその文化と宗教を尊重される権利を持ち、学校は外国人学生の受け入れとその言葉、文化の保護、異文化間の交流を奨励する。
8) 学校は校則で学生がクラス、全校の集会を開く権利を保障する。
9) 学校は構内における学生の結社の自由を保障する。

●先生に教育の自由を保証

これに対して先生の自由はどのように守られているのであろうか。
イタリアの学校教育法の第一条には「憲法及び当法律により、教職者は文化的表現と教育の自由が保証される」「この自由は生徒の人格の成長を助成することを目的とし、それぞれの文化的立場をオープンに対比させることによって行使される」と規定されている。そして「その行使にあたっては、学生の市民としての良心、個人的良心が尊重されなければならない」と書かれ、学生の考えや民族、宗教などを尊重することが義務付けられている。

しかし一人一人の先生が学校全体としてはある程度の統一が取れなくては困るので、校長が主宰し全教員によって構成される『教員会議』がコーディネートを行っている。ちなみにイタリアでは、校長になるためには文部省が行う資格試験を通らなければならない。ということは、試験を通れば校長になれるということで、国が先生を査定して昇進させるというシステムではないので、上に気を使うことなく自由に教えることが出来る。また本人が望まない限り移動されることも無く、この面からも身分が保証されている。

●学校評議会

イタリアの小中高等学校は、全国一斉に行われる校内選挙で選ばれた親、先生、一般職員そして高校では学生の代表も参加する『学校評議会』によって自主的に運営されている。評議会の役割は教育内容以外の全てにわたるが、長くなるので詳しいことは他の機会に譲ることにする。

●イタリアの学生たち

イタリアの学校は日本と違い、体育館やグランド、実験室といった設備が貧しく、毎年必ず抗議運動が起きる。しかしその場合も、実業高校で起きた運動に古典高校の学生が駆けつけて共にデモを行うなど、仲間意識が強く学校差は見られず、他校の学生の権利を守ることが自分たちの自由を守ることになることを心得ているようである。 学生たちは法律と仲間たちに守られながら、校舎は汚くとものびのびと勉強している。  

TOP
ZOOM UPイタリア中小企業訪問イタリア地域経済通信BACK NUMBER

ご質問・ご意見は/e-mail:jdesk@japanitaly.com
www.japanitaly.com
(C)JAPANITALY.COM S.r.l-Milano All right reserved.