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ITALY NEWS

イタリア中小企業訪問
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2004/09/1 
 

イタリア中小企業訪問


Ambrosiana Vetrate d'Arte

伝統的ステンドグラスの芸術を伝える





色ガラスを鉛でつなぎ合わせてできるステンドグラス。ヨーロッパでは5世紀頃からつくられ始め、中世以降発展した。特にその多くが教会で見られるのは、聖書の場面をステンドグラスで表現することにより文字を知らない人たちにも布教する意図があったためだ。ドイツ、フランス、イギリス、そしてイタリアと、ヨーロッパ各国でそれぞれのスタイルが形成され、今に伝えられている。今回は、古くからの伝統を受け継いだステンドグラスを製作するディエゴ・ペナッキオ・アルデマーニDiego Penacchio Ardemagni氏を訪ね、お話をうかがった。

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ディエゴさんの工房アンブロジアーナ・ヴェトラーテ・ダルテAmbrosiana Vetrate d'Arteはミラノの地下鉄トゥッラーティ駅そばにある。建物の中庭に面した入口を入るとすぐに、広い工房内に大きな作業台があり、製作中のステンドグラスが置かれていた。工房ではディエゴさん一人が働いているが、必要に応じて仲間を呼び、手伝ってもらっている。

ステンドグラスの基本的な製作過程を簡単に説明しよう。まずは図案をデッサンする作業から始まる。オリジナルのデザインがある場合、その上に白い紙をのせ、デザインをなぞりながら同時に、鉛でつながれる各部分に線描していく。たとえるなら、日本地図を県別に線描していく感じ。一県が一つの色ガラスに対応するわけだ。そして、必要な色ガラスを選び、それぞれ線描した形に切断する。この色ガラスはほとんどがフランス、ドイツ、アメリカから輸入したもの。フランスのガラスは"ソッフィアート"と呼ばれ、薄くてデリケート。一方、"カッテドラーレ"と呼ばれるドイツのガラスは少し厚めと、それぞれ特徴がある。次に、色ガラスに微妙な陰影を加えるため、切り取ったガラスの上に蝋を塗り、陰影を付けたいところに色粉末をのせ、600度のオーブンで焼く。これにより粉末がガラスに固着し、金具でこすってもとれなくなる。この方法は5世紀の頃から今まで変わらないと言う。そして最後に、鉛で各ガラスをつなぐ。鉛と樹脂を使って接着し、強固な一枚の板ができあがる。
ディエゴさん曰く、製造過程で最も大切なのは最初の段階。どういった色ガラスを使うかを考えながら、元のデザインを部分部分に線描していく作業だと言う。最も芸術性が必要とされる部分だ。後はガラスを切り、つなぎ合わせるという物理的な作業となる。大きさなどにもよるが、ひとつの作品をつくるのにだいたい20日を要す。すべての作品が工房で作られ、できあがったものが注文主に送られる。

彼が主に手掛けるのは、教会のステンドグラスの製作や修復、室内装飾、絵画としてのステンドグラスだ。彼は、ロンバルディア派と呼ばれる古い技術を使うことのできる数少ない一人でもある。ロンバルディア派とは、"トゥバージュTobage"と呼ばれる技法を用いたもので、1900年代初頭にミラノの工房コルヴァヤ・エ・バッツィCorvaja e Bazziを中心に流行した。ガラスの上に特種な樹脂を使って細い線でデザインを描き、そこにエナメルを広げ、オーブンで焼く。焼成・冷却作業が数回繰り返させる場合もある。実は、この技法、デザインを描くのに使われる樹脂の作り方が"秘密"になっているらしく、世の中にあまり知られていない。ディエゴさんは、コルヴァヤ・エ・バッツィ工房で働いていたリヴェッタ氏の下で働いた経験があり、その時にこのロンバルディア派の技術を習得した。「リヴェッタ氏はミラノのドゥオーモのステンドグラス製作に携わった最後のイタリア人。ドゥオーモ奥左側のアダムのバラ窓のステンドグラスは彼が製作したものです。」そして、そのアダムのバラ窓製作の際にリヴェッタ氏が描いたデッサンが、ディエゴさんの工房に飾られている。
彼がロンバルディア派の技法を使って製作した作品はミラノ、ウルビーノなどイタリア国内の教会だけでなく、コートジボアールやシンガポール、そして日本など世界に広がっている。また、ミラノの記念墓地にある巨匠グロンドーナのステンドグラスの修復、シャガールのステンドグラスの修復や再製作なども手掛けている。「修復作業には、製作された時代、素材、使われた技術を知る必要があります。私は30年間この仕事をやっていますので、そういった分析ができるわけです。」

ステンドグラス歴30年のディエゴさん。もともとはグラフィックデザインの勉強をしていたが、ステンドグラスの巨匠グラッシやリヴェッタの下で勉強し、自分の工房を開くに至った。「30年前はまだ今ほど競争の激しい市場ではなかったから選んだのです」とおっしゃるディエゴさんだが、もちろんそれだけが理由ではなかった。「ステンドグラスは立派な芸術であり得ること、ガラスという技術的に難しい素材を扱う面白みがあること、そして教会といった大きな建造物の建設段階から関わるため色々な社会的知識が必要とされる醍醐味があるのです。」

しかし、今では市場競争が激しくなってきている。特にリバティ様式で有名なランプシェードは、中国や東ヨーロッパなどでつくられた安価な製品がたくさん流通しているという。そのため、ディエゴさんは今ではもうランプシェードは作っていない。そんな状況を憂えながらも、きっぱりと言う。「私は、昔ながらの技術を大切にし、あくまでもクラシックなもの、質の高いものをつくっていきます。そういったものが最も長い時間を耐えることができるものでもあるのです。」
「現在、イタリアでは伝統技法をよく知らない人でも職人として働いていて、ステンドグラスがとても大衆的なものになってしまっています。しかし、逆に海外の方はとても繊細な感覚を持っています。フランスや日本、シンガポール等に顧客がいますが、彼らは作品の質の高さを理解してくれます。そんなお客様は本当に大事です。私の工房で作品に囲まれて時間を過ごすのが何よりも楽しい、と言ってくださる方もいて、そんな時はとても嬉しいですね。」
現在は、10月にミラノの日本料理レストランで開かれる展示会のための作品を制作中。北斎の絵などもステンドグラスへと置き換えていく予定だ。

「フランスのステンドグラスの特徴はこれ、フランドル派はこう・・・」と、素人の私に丁寧に説明してくださったディエゴさん。そのすべてを紹介することができないのが残念だ。ステンドグラスの歴史、技術を知り尽くし、そして出来上がった作品をこよなく愛する。そんな"マエストロ(師匠)"にまだまだ頑張ってほしい、そう思わずにはいられないインタビューだった。   (K.Maruyama)

写真説明(上から)
foto1:工房内のディエゴさん
foto2:イタリアの画家プリフィカートの絵をステンドグラスに置き換えたもの
foto3:シャガールの絵のステンドグラス
foto4:大聖年記念展覧会のために製作した作品




Ambrosiana Vetrate d'Arte
Via Boiardo, 18 20127 Milano
tel:(+39)02-26142993
e-mail:info@ambrosianavetrate.com

(ホームページ)http://www.ambrosianavetrate.com


 

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