0
ITALY NEWS
0
2009/5/31 




ヴィットリオ・ヴォルピ

第11回 絶望的な「メディア民主主義」

日本に2週間滞在し、少し前にイタリアに戻ったところです。東京に戻るのは私にとっていつでも大変嬉しいことです。今回は成田への到着が私の70歳の誕生日と重なりました。そのため私の友人コーサカシロウ氏は山中湖で以前から素晴しい美術館を運営している方ですが、私の誕生日を7本のローソクを灯して祝ってくれました。私はとても感動し、親しい友人たちと過ごした今年の誕生日は忘れがたいイベントとなりました。日本よ、どうもありがとう!  今回の東京滞在中、銀行家、企業経営者そしてオピニオン・リーダーの方々と会う機会を得て、日本で何がおこっているかを理解する上でとても役立ちました。そして世界は文字通りグローバル化していることを改めて実感しました。以前は「アメリカが風をひくと、6ケ月後にヨーロッパが気管支炎を起こす」といったものですが、今日ではもうそのような状況ではありません。アメリカが「肺炎」に罹ったとたん世界各国が同時に同じヴィールスにかかってしまうのですから。

◆◆◆

ベルリンの壁が崩壊してから、世界はまったくグローバルになってしまいました。日本も「サブ・プライム熱」と米国大不況のトラウマに罹ってしまいました。世界経済を減速させた数々の否定的要因のミックスのために、世界中いたるところで失業者が増加し、銀行が危機に陥り、消費が激減されました。したがって、日本も他の国と同様に多大な犠牲を払いました。国際市場における自動車、オートバイ、電子機器の需要激減により日本経済が「ダウン」してしまったためです。特に深刻な打撃を受けたのが自動車と電子機器です。日本のこれらの産業がリストラを実現し世界市場の活力が回復し、改めて競争力を持つには少なくとも2年か3年はかかるでしょう。

日本の大都市を見ている限り、この経済危機はあまり表には表れていませんが、地方に行くとその被害を感じました。地方には操業を中断している工場があるからです。苦境を示したがらない日本人のプライドのためか、何もかもが以前と同じようにみえましたが実際には世界各国と同じに問題は多大です。そして強すぎる円もマイナス要因です。とはいえ、私は日本はいずれにしても大変強くそして豊かな国だと、改めて認識し、穏やかな心境で日本を後にしました。日本だけが所有している基幹産業である工業用機械や特殊素材は将来への保証となります。日本市場は大きく豊かで、外国企業が少ししか進出していないという「保護された」市場ですので、産業にとっては成長しやすい土壌が整っています。 

日本人は、他の多くの工業先進国とは異なり、賢くも基幹産業を解体しませんでした。これはポジティブなことです。イタリアの産業をみると、10年前には人件費の安い国へ生産工場を移すという「生産の海外化」に走りました。しかし、世界は変化し、したがってどこもかも生産コストは上昇し、遅かれ早かれどこも右へならいになっていきます。そのため、現在では多くの企業、特に「物づくり」がとても大切な、ブランド製品をつくる企業がイタリア国内に戻ってきています。

◆◆◆

ところで、日本に行って、極めてがっかりさせられるのは政治状況であり、悪化する一方にみえます。日本の政治はいまだにあまりにも従来の手法に固執していて、意思決定が遅く、−意思決定が少なく、かつ遅い−ため日本の経済政策の意思決定は困難に陥っています。旧通産省MITIや官僚が国を支配していた古きよき時代は今では遠い昔の話となりました。しかし、全体としては、インターネットの時代とはいえ、日本はまだまだ大変と世界から孤立しているため、西洋社会の悪い面が入ってくるのも時間がかかっています。

イタリアは、「神様のおかげで」、ヨーロッパの他の国々と比べると、比較的マシという状況です。イタリアの経済モデルは、日本とは正反対に、小規模の家族企業を基盤としているため、経済危機にも耐える力を持っています。イタリアでは「赤ん坊より企業の方が沢山生まれる」といわれるように、1日当たり1000以上の企業が誕生しています。早く消えてしまう企業も少なくありません。しかし多くの企業が生き残ります。英国と比べイタリアの企業数は3倍にものぼります。まったく他には比類のない現象です。小さな家族企業:これこそがイタリアの本当の強さなのです。このことを決して忘れないでください。

◆◆◆

「イタリア」の政治は、日本の政治と同様に、正真正銘、最悪の状況にあります。過去とも異なる姿です。戦後の国会民主主義は死んでしまいました。「メディア民主主義」がこれまで以上にはびこり、テレビや新聞、あるいは「アンケート調査」などの世論調査で、意見を伝えあい意思決定がされていくのです。今では国会では議論がされません。大事な意思決定や選択は夜のテレビ番組で決定されるのです。主に3つの政治討論番組があります。「Porta a Portaポルタ・ア・ポルタ」は中道寄り、「バッラローBallaro’」は革新派、「アンノゼロAnnozero」は急進派と各番組とも政治色ははっきりしています。討論の形態はオープンで民主的であるので誰でも勝手に意見をいえるのはその通りです。

しかし、これらの番組の結果として、人々は今までにもまして政治に無関心となりうんざりとし、そのかわりに「くだらぬ」テレビ番組を好むようになります。「有名人の島」やサンレモ・フェスティバルなどなど、知性の欠けらもない大衆受けするテレビ番組が大手をふっています。若者の生き様、特に男女関係などを好奇心丸出しで眺め、愚かで知性ゼロの彼等の会話を聞いてウサをはらしているのです。私の気持ちを理解してください。私が70歳だからいうのではないのです、私は若者のように気持ちは若い。でも政治家が国会でまともな議論もせずに、政治家の思うがままに、このような方法で意思決定されているのを見るのは嫌気がしてなりません。国会民主主義や直接民主主義をゴミ箱に投げ捨てる「メディア民主主義」という歴史的段階を我々は生きているのです。世界はこの方向に進んでいるのです。

◆◆◆

一例をあげましょう。昨今のトップニュースは、シルヴィオ・ベルルスコーニ首相が、18歳の女の子の誕生パーティに参加したことが発端となり、離婚を望むヴェロニカ・ラリオ夫人から「捨てられ」そうである、という話題なのです。これこそがイタリア社会の根本問題です。首相と首相夫人のプライべートな事柄が、全員の討論の主題となってしまったのです。新聞、テレビ、あらゆるメディアが、ある夫婦の離婚問題というプライベートで「何でもない事柄」を、あたかもが国家的事件であるかのように報道し議論をしているのです。世論調査では首相がこの事件で大衆の指示を得ているのか失っているかを把握するために夢中になっています。そして世論調査は首相やそのスタッフに対し、発言方法や宣言の仕方などを調査結果に基づきアドバイスをしているのです。なぜならもうじき、欧州議会選挙があるためです。したがって、首相は大衆の人気を失うことは何としても避けなければならないからです。

そしてこの間にも、世界中で経済不況が深刻な被害を及ぼし、幾多の戦争が続き、何十億の人々が今夕食事にありつけるかどうかわからず、何百万人のAIDS患者が苦しみ亡くなっているのです。しかし、イタリアでは「首相の離婚に賛成」「離婚に反対」、あるいは「首相と夫人のどちらに言い分があるのか」「ないのか」、あるいは「どちらが得するのか」「損するのか」が主要テーマとなっているのです。

なんという絶望的な状況でしょうか。しかし、メディアの世界はそんなことはどうでもいいのです。ただ前進するのみ、回転木馬は回るのみなのです。日本の親愛なる友人の皆さんへ。低レベルの政治家集団はそのままにしておいて、官僚が経済を牛耳るのもほっておいてください。結局はそのほうがまだマシかもしれません。決してベターな方策とはいいませんが。

(翻訳:JIBO 編集部)



◆執筆者プロフィール
ヴィットリオ・ヴォルピ Vittorio Volpi
Chairman Parallels Consulting

ミラノカトリック大学経済・商学部卒業。その後、世界的に事業展開する大手銀行数社に勤務し、日本滞在歴は30年に及ぶ。日本滞在中は日刊全国紙「コリエレ・デッラ・セーラ」に日本の政治、社会、経済についての多くの記事を寄稿した。
世界有数の規模をもつ金融グループUBSに勤務し、UBSイタリアをChairmanとして統括した後、2008年4月Parallels Consulting SAをルガーノに創立しChairmanとなる。一方でイタリア有数の日本研究家という顔も持つ。
主な著書に「日本よ敵か見方か − イタリア人の見たニッポン」(日本経済評論社)「日本がいま、やるべきこと」(新潮社)、「賢者の営業力」(PHP研究所)などがある。

ヴォルピ氏の最新刊のご紹介
賢者の「営業力」
日本進出の成功例、宣教師ヴァリニャーノの教え

(イタリア語原題 「Marketing Mission」)
ヴィットリオ・ヴォルピ著 
大上順一 訳
発行:PHP研究所
定価:1400円 プラス消費税
至難のミッションである日本へのキリスト教の布教は、いかにして成し遂げられたのか。
16世紀の偉業と現代企業の成功例・失敗例から学ぶ、国際マーケットを制するための絶対法則。

内容
1.日本、中国、インドが欧米を上回る日   2.アレッサンドロ・ヴァリニューノ   3.修道士たちはいかにして成功したか   4.ビジネスパートナーとしての日本人   5.アジア市場を研究し、理解する   6.アジアで働く   7.「グロカリゼーション」の実現   8.アジアでの成功は世界での成功を保証する


トップへ  

www.japanitaly.com