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ITALY NEWS
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2009/2/28 




ヴィットリオ・ヴォルピ

第10回 郷にいれば郷に従え! 「イタリア式 忍耐力」

少し前、イタリアの新聞に中国の死刑執行の記事が出ていました。死刑執行を受けた男は銀行員で驚くことに8名もの愛人の面倒を見るためには自分の給料では不足するため、銀行の金を横領していたということです。この記事は新聞の目立たない場所の小さな囲み記事で「執行」というタイトルつけられていました。扱いが小さかったのは不都合な記事だから? あるいは興味の薄い記事だから? その理由は定かでありません。唯一つ確信を持って言えるのは、この銀行員がイタリアに住んでいたのであれば、有罪にはなったでしょうが、罪はずっと軽かったということです。おそらく2年から3年の有罪で、過去に犯罪暦が無ければ1年で出所できたほどの罪でしょう。それだけではありません。富みを得るためにはあらゆる手段をつくすクラシックタイプの「やりて男」で、かつ「ラテン・ラバー」なので、大半の人はこの男のスタミナと女性への情熱を少し妬みながら、ニヤットしたのに違いありません。

ここで私が言いたいのは、文化が違うと社会の期待値も異なるということです。今号では、もっと深刻なテーマについて、外国では理解の難しいイタリアの特色について深く掘り下げてみたいと思います。すなわち「イタリア人の忍耐強さ」について。なぜか理由はよくわからないのですが、イタリアでは混乱し、かつ錯綜した深刻な現実があるにもかかわらず、我々は日々生活し、行動し、犠牲を払い、そしてさらに、幸せですらいることができるのです。具体的な内容に触れてみましょう。

◆◆◆

まず第一の深刻な問題は「司法」の問題。これは民主社会の根本ですがイタリアではほとんど機能していません。これは私個人の意見ですって? いいえそうではありません。データにもとづく事実なのです。たとえば、現在、裁判待ちの訴訟件数が1800万件もあります。(人口6000万の国民なのに)。裁判にかかる時間は刑法の場合平均1582日で、民法については平均8年です。これは身の毛もよだつ話です。誰かに迷惑をかけられたとしても、私は、その判決を聞く前に死んでしまう確立の方が高いのです。そのため、一般大衆は司法に信頼感を持っていません。さらに、莫大な数の移民(合法・および非合法移民)がイタリア国内に流れ込んでいることでさらに状況は複雑化しています。今日もラジオでいっていました。東欧諸国で有罪判決を受けた犯罪者の40%は、イタリアに逃げ込んできて非合法的に生きることを好むというのです。なぜなら、ここでは犯罪者も自国よりずっと自由にいられるためです。日本でこのような状況が起こることはないでしょう。日本でも、裁判にかかる時間がかなり長いことは事実ですが、犯罪への戦いはもっとももっと正当かつ厳しく行われていますから。

◆◆◆

第二の問題は「組織的犯罪」の持つ経済的役割の深刻さです。日本ではマフィアは一括、ヤクザと呼ばれていますがイタリアではいくつも名称があります。カンパーニア州では「カモッラ」、シチリアでは「マフィア」、そしてカラブリア州では「ンドラゲッタ」と呼ばれています。これらの犯罪組織は、驚くことに、イタリア最大のビジネスを形成しているのです。したがって、マフィアこそが、イタリアのNO1企業であり、年間売上高は900億ユーロにのぼりFIATやENEL、ENIより大きく、プロフィット額はわかりませんが、税金を払わないので非常に高額に違いありません。彼らのビジネ領域は、高利貸し(売上げの30%)、恐喝、盗み・強盗、麻薬、賭け事など多岐にわたっています。
要するに、多角経営による裏ビジネスの売上高であり、イタリア経済に大変深刻な影響を与えています。恐喝は「ピッツォ」と呼ばれる「拠出金」を請求することで行われています。もちろん、税金を払いません。そのため、商店や企業は自らの正当で合法的な経済活動を行うためにこの金を払うことを余儀なくされています。上記3州において、携帯電話網のカバーされている地域が10%しかないのは、電話会社がこの「拠出金」の支払いを拒否したため、回線網を建設できないためと、ラジオでいっていました。イタリアの真の「悩みの種」です。近年、多勢が逮捕され投獄されているにもかかわらず、いかなる司法もこの組織的犯罪を没滅することがかなわないのです。これらのマフィア組織は「沢山の頭を持つ竜」のようでいくつかの頭を叩くと即時に、他の頭が生まれてくるのです。

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そして、3つ目が、「ずる休み」という「悩みの種」です。これは何よりも国家公務員に見られる現象であり、誰も告発したり、罰する勇気がないため、解決することのない「大災害」なのです。「怠け者」退治の戦いを宣言したブルネッタ大臣が苦労しながらもこの大問題に挑戦しており、具体的な成果もあげはじめています。データをあげましょう。たとえばローマでは2006年に有給バカンスの日数を除いた、年間平均欠勤(病欠その他)日数が39.6日もありました。信じられないデータではありませんか? これが、ブルネッタ大臣が病欠の内容調査を開始したとたんに「欠勤」は数週間のうちに30-40%も減少したのです。北イタリアが仕事をしている間に、南イタリアでは何もしない、といういつもの話には当てはまらないのです。
そうではないのです。事実、ローマで国家公務員が年間平均40日間も欠勤という記録がある反面、南イタリアのシラクーサでは平均欠勤日数はわずか8.6日にすぎないのです。一方、欠勤日数が多いかどうか別にして、それでは国家公務員のサービス内容が優れているかという問いかけをする必要がありましょう。
サービスのレベルは最低なのです。国家が市民に提供するサービスは日本やスイスで私が経験したものと比較すると最悪であり、比較しようもないレベルなのです。

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このような状況を前に、もし、イタリアで住まなければならないとしたら、日本の人々はどのように行動するでしょうか。さらに、アメリカの人はイタリアのこのような信じられないほどの構造的問題を前に、どのように反応するでしょうか。イタリアに対する外国からの直接投資の低い水準から判断するに、この国に適応するのは大きな困難があるに違いないと思います。しかし、少なくとも、活発に抗議しようとするのではないでしょうか。

ところが、イタリア人は「公け事」に対してはまったく関心がなく、興味もないのです。偉大な政治学者であり歴史学者であったマキアヴェッリがいみじくも定義したように、イタリア人は自分の特別な関心事、自分のことにのみ関心があり、他人におきている災いからは自分だけはなんとか切り抜けようとするのです。イタリア人にはいわゆる市民的意識はないのです。このような状況に抗議し戦おうとするパワーはないのです。なんという災難でしょうか。日本の友人の皆さん、私は日本の社会構造の多くにうらやましさを感じています。日本の構造も完全ではないことを知っていますが、イタリアに比べると、市民により近い制度であることは間違いありません。どうか今後も、イタリア人のような「忍耐力」を持たないでいてください。

(翻訳:JIBO 編集部)



◆執筆者プロフィール
ヴィットリオ・ヴォルピ Vittorio Volpi
Chairman Parallels Consulting

ミラノカトリック大学経済・商学部卒業。その後、世界的に事業展開する大手銀行数社に勤務し、日本滞在歴は30年に及ぶ。日本滞在中は日刊全国紙「コリエレ・デッラ・セーラ」に日本の政治、社会、経済についての多くの記事を寄稿した。
世界有数の規模をもつ金融グループUBSに勤務し、UBSイタリアをChairmanとして統括した後、2008年4月Parallels Consulting SAをルガーノに創立しChairmanとなる。一方でイタリア有数の日本研究家という顔も持つ。
主な著書に「日本よ敵か見方か − イタリア人の見たニッポン」(日本経済評論社)「日本がいま、やるべきこと」(新潮社)、「賢者の営業力」(PHP研究所)などがある。

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