0
ITALY NEWS
0
2008/12/30 




ヴィットリオ・ヴォルピ

第9回 イタリア式「英雄」:賞賛すべきか、軽蔑すべきか

親愛なる読者の皆様、今回はイタリア社会および日本社会にとって興味深いテーマである「クリエイティビティ」(創造性)」について論じてみたいと思います。一般的な認識では、残念ながら、イタリア人は「創造性」の分野では日本人よりも「優れている」と見なされているようです。確かにイタリア人は発想の豊かさで知られており、「クリエイティブ」というカテゴリーに属しているといえましょう。一方、日本人は集団的イメージとして「真似がうまい」すなわち、学校でも自分で努力して回答を導き出すのではなく、優秀な級友の回答を「真似する」カテゴリーにみられているところがあります。

でもこれは本当でしょうか。私は常にこれは事実に反すると主張しています。もしも日本人がこのような真似のうまいだけの人であったとしたら、日本企業が、多分野において品質、技術革新そして創造性の上で世界的首位を占める卓越性を持つことができる理由を説明するのは難しくなるでしょう。
一方、イタリア人が注目に値する創造性を持つこと自体は容易に確認することができます。ただしイタリア人の創造性というのはほっておくとマイナス方向に逸脱する傾向があるにしても。この点についてはあとで論することにしましょう。
◆◆◆

何年も前のことですが、「創造性」についてフィレンツエで大掛かりなシンポジウムを開催したことがあります。タイトルはまさに「日本人の創造性」。この大会には様々な分野の学者や専門家が参加し本テーマについてまさに日・欧の比較論を試みたのです。中でも上智大学教授で大変な才能と個人的魅力をあわせもつ、社会学者の鶴見和子氏の報告には特別な感銘を受けました。

鶴見和子氏は、日本人の創造性は、実質的には「融合主義」的なものと結論付けました。要するに、あるアイデアをもとにそれについて熟考・吟味し具体的なものに完成させる上で優れた能力を持つということです。その場合、もととなる「アイデア」は日本人の考案でも外国からきたものでもかまいません。それはどうでもいいのです。日本人は、西洋諸国の人々と違ってNIH(not invented here)シンドロームというような悩みを持ちません。たとえば「半導体チップ」は日本人が発明したものではありませんが、チップのコンセプトを開発させ、半導体分野で世界的リーダーとなったのは日本人なのです。

このように、欧米で発明されても、母国では応用分野での具体的適用がされず、日本で見事に製品化されたという事例は非常に沢山あります。要するに「融合主義」とは日本特有の「創造性」のモデルといえましょう。もちろん、ユダヤ・ギリシャ的思索の世界では、日本の文化基盤ともなっている儒教的な原型を持つ実用的な世界に比べると、形而学的能力には優れているでしょうが。周知のように日本では歴史的に、中国を経由して入ってきた様々な文化、仏教、儒教などすべてを日本流に変容させました。西洋技術への接近、すなわち「和魂洋才」が始まったのはわずか19世紀以降のことであることを思い起こしてください。日本人はつねに、何かを全面的にそのまま「輸入する」ということはなく、いつでもあらゆるものを日本のニーズにあわせ日本風に取り入れるという類稀な能力を持っていたことを認識すべきでしょう。欧米から来た事柄はそれが何であろうと日本にいったん入るとその原型やオリジナルとは異なるものになっているのです。

◆◆◆

一方、イタリア人はどうなのでしょうか。強い個人主義に根ざし、さらに社会システムが混乱しているイタリアという国においては、結果として誰もが大変創造性に富むこととなります。創造性とはまさに何とかうまく切り抜ける技であり、それなくしてはイタリアでは生き延びることができないのです。その結果、望むものを入手するために新しいアイデアの生まれやすい環境、新しい道をさがしやすい状況となっているのです。すべて生き残るための必要性から生まれているのです。大変な特質です。とはいえ、ああ、原理原則に基づかない「創造性』は道を逸脱してしまうこともあるのです。以下の3つの最近のエピソードからイタリアの否定的でフォークロアな「創造性」がどのようなものか理解していただけるでしょう。
◆◆◆

最近のことですが、シチリアで信じられないような詐欺事件が発覚されました。「偽フェラーリ」を販売している人がいたのです。いったいどうしてそんなことが可能だったのでしょうか。イタリアでは何もかも可能なのです。アグリジェントの北の町、リカータの自動車工場でフェラーリ車体のコピーをつくり、モーターや他のパーツは様々な自動車会社のものや中古品を購入して収集してわずかのコストでつくったのです。この「フェラーリ」を日本円にして2百万円程度で販売していました。一見では本物のように見える真っ赤で美しいフェラーリ。とはいえ性能は悪くまた大変危険な車でしたが。
もう一つ、最近の出来事ですが、私には大変ショッキングだったエピソードです。先月、パレルモで過去20年の間にすでに逝去しているにもかかわらず50万人もの人が医療サービスを活用し続け、医者は薬を「処方」し続け、病院で『分析』などをさせていただのでした。特にある医者の場合は3年前に亡くなった患者一人に「6人分」もの薬を処方していました。

最後の三番目のエピソードは、「イタリア式成功を果たした抜け目のない男」の話です。抜け目のない男ですが最後は破綻しています。今年の6月25日にニューヨークでラファエッロ・フォリエリが逮捕されました。フォリエリは一般には知名度はありませんが、フィアンセは映画界大スターとなった美しく魅力的な女優アン・ハサウェイ(「プラダを着た悪魔」の主役)です。フォリエリはイタリア南部を後にし、無一文で、英語もロクに話せないままにニューヨークに渡りました。まるで小説にあるように苦労せずに幸運を得るために米国に旅立ったのです。彼もまた「アメリカン・ドリーム」を夢見た一人なのでした。

ハンサムで、起業家精神に満ち、人付き合いのいいフォリエリは米国の「ジェット・ソサエティ」の中にうまく入り込むことに成功しました。おしゃれで着こなしもよく、犠牲を払わずに成功したいという欲望を持つ彼はベスト・ポジションをでっち上げました。バチカン密使という役割を回りの人々に信じ込ませたのです。金を必要とするアメリカの教会のため、教会所有の不動産を売却する任務をバチカンから与えられた密使として振舞ったのでした。事務所には階級の高い聖職者だけが着る法服を置いていました。バチカンの有名な枢機卿の甥と親友になりこの甥と一緒に実業家達から何百万ドルもの資金を出資させることに成功したのです。権力の集まっている財政界のサークルに入り込み、「大物」として立ち振る舞いました。アルマーニのスーツ、ヨット、プライベート・ジェット、そしてアン・ハサウェイとの超ゴージャスなバカンス。米国の共和党大統領候補であったジョン・マケインを、アン・ハサウェイと一緒に自分のヨットに向い入れる際の写真が週刊誌に掲載されたほどです。

しかし、ある日破局が来ました。有り金すべてを使い果たし莫大な負債を払うことができなくなったのです。脱税容疑で調査をしていた警察は彼を捕らえ、逮捕し、告発しました。誰かが高額の保釈金を払ってくれたおかげで刑務所からは出所することは出来ましたが、司法の手からは逃れることができませんでした。結局、彼に対しては、これから法廷で弁護しなければならないのですが、なんと刑期が45年におよぶ起訴状がつきつけられています。

◆◆◆

ここで質問です。皆さんは「やり手で起業科精神に富むこの若者」が日本社会およびイタリア社会でどのように評価されるとお考えでしょうか。日本での評価については、私はあまり確信は持てませんが、「正直でない行為」と見なさるのではないでしょうか。一方、イタリアでは? ミックスした感情といえましょう。すなわち、多くの人々が軽蔑ではなく、賞賛に近い思いで彼をみるに違いないといえましょう。何を憧れるというのでしょうか? それは汗を流さずに一刻千金を実現したこと、アン・ハサウェイのような美人女優をものにしたこと、そして羨望に値するゴージャスな生活をしたこと、米国のような複雑な社会で超エリートと緊密な交友関係を築いたことなどに対する賞賛の感情です。イタリア片田舎出身の貧しい若者が「ニューヨーク」に身を投じ、道徳面はまったく無視して、闘う能力、人をかき分け這い上がる能力を示したことに対する「羨望」なのです。

両国での評価について私の判断は間違っているかもしれません。読者の皆さんはどうように思われるでしょうか。
さてそれではよい新年をお迎えください。「サブプライム問題」や戦争などのない、言葉のいい意味での「創造性」に富む2009年となることを祈っています。

(翻訳:JIBO 編集部)



◆執筆者プロフィール
ヴィットリオ・ヴォルピ Vittorio Volpi
Chairman Parallels Consulting

ミラノカトリック大学経済・商学部卒業。その後、世界的に事業展開する大手銀行数社に勤務し、日本滞在歴は30年に及ぶ。日本滞在中は日刊全国紙「コリエレ・デッラ・セーラ」に日本の政治、社会、経済についての多くの記事を寄稿した。
世界有数の規模をもつ金融グループUBSに勤務し、UBSイタリアをChairmanとして統括した後、2008年4月Parallels Consulting SAをルガーノに創立しChairmanとなる。一方でイタリア有数の日本研究家という顔も持つ。
主な著書に「日本よ敵か見方か − イタリア人の見たニッポン」(日本経済評論社)「日本がいま、やるべきこと」(新潮社)、「賢者の営業力」(PHP研究所)などがある。

ヴォルピ氏の最新刊のご紹介
賢者の「営業力」
日本進出の成功例、宣教師ヴァリニャーノの教え

(イタリア語原題 「Marketing Mission」)
ヴィットリオ・ヴォルピ著 
大上順一 訳
発行:PHP研究所
定価:1400円 プラス消費税
至難のミッションである日本へのキリスト教の布教は、いかにして成し遂げられたのか。
16世紀の偉業と現代企業の成功例・失敗例から学ぶ、国際マーケットを制するための絶対法則。

内容
1.日本、中国、インドが欧米を上回る日   2.アレッサンドロ・ヴァリニューノ   3.修道士たちはいかにして成功したか   4.ビジネスパートナーとしての日本人   5.アジア市場を研究し、理解する   6.アジアで働く   7.「グロカリゼーション」の実現   8.アジアでの成功は世界での成功を保証する


トップへ  

www.japanitaly.com