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ITALY NEWS
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2007/7/31 




ヴィットリオ・ヴォルピ

第一回 ビジネスはイタリアより日本の方が楽

先週、私は仕事で東京に滞在していましたが、その際、朝日新聞社会面トップページの写真をみて強い印象を受けました。それはJR新幹線の新型車両の出発式の写真でした。上着に大きなリボン胸賞をつけ、改まった姿の年配男性が3名、新しい新幹線車両の出発を祝うテープを切っている写真です。記事のタイトルは「5分短縮。新しい顔」。

この新型車両では東京・新大阪駅の間を従来より実に5分短縮しわずか2時間25分で到着するのです。想像してみてください。我々イタリア人にとっては夢のまた夢の話です。ミラノ・ローマの間が2時間強で到着可能となるとは。記録への挑戦やたゆまぬ進歩改善を愛する日本の人たちの誇り。この新車両は従来の車両に比べて5分も短縮するにもかかわらず、列車操行や旅客コンフォートの質にはまったく影響はないというのです・・・・

残念なことにこの種の日本からのニュースはイタリアの新聞ではとりあげられません。本来ならこのようなニュースを通じて、イタリアの人々も、日進月歩の進歩を続ける鉄道を持つ国日本とイタリア国鉄も努力をしているとはいえ進歩停滞気味の国との違いを具体的に理解することができるはずだからです。あいにく、私の国イタリアと進歩を続ける国々との格差は大きくその溝は埋めようがありません。日本の鉄道のクオリティの高さ、それはタイムスケジュールやスピードの面だけではなく、旅客の快適性、安全性、車両清掃、さらに乗務員の態度などあらゆる面で我がイタリアの鉄道とは比較しようもありません。
◆◆◆

上記のことを述べた上で、私はイタリアの難しい環境の中で仕事をし、出張をしなければならない気の毒なイタリア人にこれまで以上の敬意を払わねばならないと言わざるをえません。同時に、日本のビジネスマンがイタリア人より仕事をうまくこなせるのは結局のところ高い競争力を持つ日本のシステムのメリットを享受しているからだともいわざるをえません。なぜなら、日本では政治も経済もインフラもあらゆるものが、仕事をする人のサポートという唯一の共通目的をもって形成・組織されていますが、イタリア社会は逆に、いわば「アンチ・ビジネス」カルチャーの「人質」になっているようで、ビジネスマンの生活を困らせ難しくするように形成されているかのように思えるからです。

人生の30年近くを日本で暮らしてきた私自身の仕事経験をもとに確実に言えることは、仕事でイタリア人が日本の人と同じ成果を達するためには日本人よりも多くの努力をせざるを得ないということです。私は皮肉まじりに日本人の同僚たちによく言ったものです。「君たちの人生は楽なものだ。日本の社会は効率よく働けるように出来上がっているし、列車はパーフェクト、郵便はまったく落ち度がない、税制も非のうちどころがない。役所も効率がいい。結局のところ、君たちにとっては仕事をする意欲とアイデアさえあれば十分だ。後はシステムに身を委ねればいいのだから。君たちの生活は楽なものだ」

そしてさらに付け加えたものです。「イタリアで仕事をしてみてご覧なさい。朝、自宅を出る。すると予想しなかったストが待ち受けているかもしれない。列車が遅刻するかもしれない。飛行機も曲者で何をしでかすかわからない。役所は非効率きわまりない。にもかかわらずイタリアもなんとか前に進んでいる。フラストレーションがたまる。最後にはなんとかやりたいことを実現することができるが苦労が多くストレスがたまってしまう」 
◆◆◆

ところでイタリア人は特別の資質として「フレキシビリティ」つまり「柔軟性」に富むといわれています。これは他の国の人々と比べて、イタリア人が特別な知性「フレキシビリティ」を持つということでしょうか。私はそんなことはまったくないと思います。イタリア特有の表現である「アッランジャルシArrangiarsi」、つまり柔軟に「なんとか切り抜ける」「適当にやりくりする」ように必死にならないと生き残れないからに他なりません。

ですから、イタリアでビジネスをするために持たねばならない主要な資質の一つは、まさに「アッランジャルシ」(なんとか切り抜ける)才能なのです。すなわち、何事も始める際にも「常に何もかも機能しない」という前提の上でスタートすることが肝心です。そして、いつでも予想しない状況が起こっても対応できるように備え、健全な忍耐力を持つことが必至です。多くのイタリア人の持つ偉大な才能はまさにこのフレキシビリティであり、「不確かなもの」に対応し切り抜ける力なのです。とはいえ、これにも「メダルの裏側」があります。すなわち、物事をなんとか切り抜けること、フレキシブルに対応することを続けていくとその結果として、長期的視点での計画性に欠け、仕事の質も低くしてしまう危険もはらんでいるのです。

そのため、この「フレキシビリティ」や「なんとか切り抜ける」という「技」は最終的に時間や労力の消耗につながり、日本人は直面する必要のない「非能率」という結果に陥ることも多いのです。

◆◆◆

先週、私は勤務先の銀行の用事で、東京発7時50分の新幹線で大阪に向かうという一日をスタートしました。午前10時半には大阪で最初のアポイントを問題なく実現できました。正午には再び新大阪駅に戻り、構内の小さな店で天ぷらソバを食べることができました。そして12時半には、次の仕事のアポのある横浜に向かって出発し、その後18時には東京に戻り、仕事の会食に向かうことができました。まったくストレスがなくすべてスムーズに運び、私は終日「バラの花ようにフレッシュ」でした。

新幹線の車窓から美しく整備された緑輝く水田等、日本の農村風景を見ながら、私は自問自答しました。もしミラノを早朝に出発したとしたら、一日で何ができただろうかと。ローマの中心地での仕事を終えて、フィレンツエで次の所用をこなして、18時にはミラノに戻って、夕食にも間に合う・・・・・。

イタリアに仕事でやってくる日本の友人たちに対しては、この国で直面するに違いない困難さに共感の感情を覚えます。わが国では何事も「Vediamo様子をみよう」「Arrangiarsi何とか切り抜けよう」ということでまわっています。これは健全なこととはいえませんが、逆に外国で働くイタリアのビジネスマンにとっては、他国の人にはない秀でた資質ともなるのです。なぜなら、イタリアでは「何とか切り抜けよう」や「フレキシビリティ」は生き残るための自己防衛の武器に過ぎませんが、整然とした秩序やシステムがある国においては、大きな付加価値となり、成功のための強力なツールともなるのです。すなわちリスクや危険に対し常に柔軟に対応しつつ、思考し、行動する能力となりえるのです。

イタリア式モデルに「順応」せざるを得ない日本の友人たちに「Buon Lavoroブオン・ラヴォーロ」!! 

日本語でも我慢を勧める際に言うではありませんか「Ningen Shinbou da ….」

(翻訳:JIBO 編集部)



◆執筆者プロフィール
ヴィットリオ・ヴォルピ Vittorio Volpi
Chairman, UBS Wealth Management Italy 

ミラノカトリック大学経済・商学部卒業。その後、世界的に事業展開する大手銀行数社に勤務し、日本滞在歴は30年に及ぶ。日本滞在中は日刊全国紙「コリエレ・デッラ・セーラ」に日本の政治、社会、経済についての多くの記事を寄稿した。
現在、世界有数の規模をもつ金融グループUBSに勤務し、UBSイタリアを統括している。一方でイタリア有数の日本研究家という顔も持つ。
主な著書に「日本よ敵か見方か − イタリア人の見たニッポン」(日本経済評論社)「日本がいま、やるべきこと」(新潮社)、「賢者の営業力」(PHP研究所)などがある。

ヴォルピ氏の最新刊のご紹介
賢者の「営業力」
日本進出の成功例、宣教師ヴァリニャーノの教え

(イタリア語原題 「Marketing Mission」)
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大上順一 訳
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