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2000/4/1

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イタリア地域経済通信



ボローニャの包装機械産業


尚美学園大学 総合政策学部 専任講師
稲垣 京輔


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1. 産業と地域発展の立役者

ボローニャはイタリア中北部の内陸に位置し、エミリア・ロマーニャ州の中心都市である。この地域は後背地として豊かな農村に囲まれていることから、古くから農業を基盤として繁栄し、工業はその周辺産業として発展してきたという歴史を持っている。国家による政策的な重化学工業化によって拡大発展したトリノやミラノ、あるいは南部の大都市とは異なっている。ボローニャの産業を世界的に際立たせているのが包装や梱包をおこなう自動機械で、それはカリフォルニアのサンタ・クララをシリコン・バレーと呼ぶのに対抗してパッケージング・バレーとまで言わしめるほどである。現在、ボローニャ県に立地する包装機械関連の企業は規模の大小を含めて約200社を数える。

包装機械産業の発展は戦前にまで遡るが、地域に集積する企業の数が爆発的に増えるのは戦後のことである。イタリアの産地の多くがそうであるように、地域産業の発展にはそれをプロモートする立役者が存在したというのが初期段階における大きな特徴の一つである。ボローニャではACMA社がこれにあたる。

この企業は1924年に発足し、主にチョコレートの包装機械を手がける。この企業が地域産業発展の立役者たる所以は、産業の屋台骨を支える企業家技術者を何人も輩出してきたことにある。戦前にはブルート・カルピジャーニという優秀な機械設計者が社内の技術室を統括し、彼のもとで研鑚をつんだ設計技師や組立工が戦後相次いで独立し、新しい企業を興すことによって包装機械メーカーの集積が始まったのである。

1950年代から60年代にかけて、チョコレート包装機のGD社、FIMA社、箱詰機のCAM社、紙製品を包装するラップマティック社、チーズ包装機のコラッツァ社、ティーバッグ包装機のIMA社など、後のスター・プレイヤーとなる企業がここから誕生する。ボローニャに集積したこれらの企業は相互に取引関係を持っていたわけではないが、どの企業がどの分野の市場で活躍しているのか、また優秀な技術者や下請加工業者の評判などといった情報は、元ACMA社の技術者ということで各企業の経営者の間でインフォーマルな形で流通したのである。その意味でACMA社の存在意義は、単にボローニャの包装機械メーカーの一番手としてではなく、そこから独立する数多くの企業家を養成することによって、企業間の競争や協調のルールや情報ネットワークの確立に大きく貢献したと言える。

2. 80年代から90年代にかけての動向

近年におけるボローニャの包装機械産業の発展は、中小企業の横並び的な形態ではなく、むしろスター・プレイヤーの誕生によって大きく特徴付けられている。これらの企業が世界市場において販売拠点を確立し、地域内部に需要や顧客の情報を引き寄せるという役割が重要になり、それが地域を活性化させる鍵となった。欧州の市場統合以降、さらにその傾向は顕著に表れるようになる。一方で小規模な企業は製造にのみ特化してきたものが多く、市場探索や資金調達の能力に乏しいため、世界市場を舞台にした競争の激化に対応することが難しくなってきている。また家族企業で後継者がいない場合には、世代交代をどうするべきかという問題に直面することにもなった。

このような背景から、ボローニャという地域内部でのM&Aや多国籍企業の傘下に入るグループ化の動きが急速に広まったのである。しかしながら特徴的な点は、後継者が不在の場合を除いて、企業は売却されてもほとんど以前と同じやり方、同じメンバーで製品の設計と製造を続けているということである。

CAM社は、箱詰という幅広い市場での取引を強みとしてその前後の工程の機械を製造する企業を次々に買収している。ブリスター・マシンに特化したパルマのパルテーナ社やヒートシール集積機のSM社、瓶詰め期の3emme社などはそれぞれCAMグループに所属することによって各市場に対応した機械を引き続き同じ工場で生産し、各社の経営者は工場長としての地位を維持している。この場合、社名も買収前のもの(多くは創業者の姓名やその頭文字である)をそのまま引き継ぐこととなるが、CAMグループというブランドを同時に掲げることになる。CAMグループの販売拠点はヨーロッパを中心に世界市場に代理店を置く形で進出しているため、小規模な起業はグループの傘下にとりこまれることによって、販路を拡大することが可能になるのである。

トイレットペーパーなどのサニタリー紙製品の包装機に特化するカッソリ社の場合は、1992年にドイツに拠点を持つKorberグループに経営権を譲渡し、製紙技術事業部のメンバーに組み込まれることとなる。1995年に、カスマティック社に社名変更し、同グループからの資金調達によって、コンポーネントの在庫をコンピューターとロボットで管理する近代的な新工場を建設した。これらの事例のように、ボローニャで見られる企業買収は決して敵対的なものではなく、相互の利害が一致した結果生じたものである。すなわち、買収側にとっては商品構成の多様化であり、売却側から見ると銀行に依存しない資金調達が可能になり、しかも販路が飛躍的に拡大するという利点が得られたのである。

3. 進化し続けるネットワーク型フォーメーション

スター・プレイヤーの台頭によって傘下に多くの企業を抱えるグループ化がトレンドとなってもなお、企業間の取引関係はネットワーク型を維持し、グループの壁にはほとんど拘束されていない。これがボローニャをパッケージング・バレーとしての競争優位を保っている大きな要素となっている。スター・プレイヤーの能力は、世界市場を持つ有力なユーザーを一方に抱え、もう一方で地域を越えた優秀なサプライヤーや協力企業を確保しているというゲートキーパーとしての役割にある。外部との関係を巧みに活用しながら、一つ一つのプロジェクトや受発注を管理しているところに最大の強みがある。そこでは親や子といった所有関係に縛られない。グループの頂点となる企業同士が取引を行い、あたかも一方が他方の企業グループの下請であるかのように みえる取引展開もみられるが、これはプロジェクトに限定された設計段階からの協力関係である。つまり、プロジェクトごとに相互の立場は変化し、ユーザーのニーズに最適な編成が組まれるのである。

例えば、マルケジーニ・グループは、カートニング・マシンの設計と製造を中核能力(コア・コンピタンス)にしながら、CAM社と同様に周辺領域を担う企業を買収することによって拡大してきた企業であるが、たばこ包装機械部門を専門にしているメーカーであるサシブ社からの受注によって、シガレット・マシンの次に接続するカートニングの専用機を納入している。この取引では、プロジェクトの管理とライン全体の設計はサシブ社がおこなっているが、箱詰専用の機械単体はマルケジーニ社が設計と製造を担当している。マルケジーニ社と協力関係、下請関係にある企業の工場で生産される全ての製品は、マルケジーニのプレートをつけているわけではなく、このように他社グループの製品を供給する場合もある。

21世紀にむけて、ボローニャの包装機械メーカーは、企業間のネットワークをますます多様化し、顧客のニーズや特別な仕様に合わせて複雑な取引が地域を越えて行われるような体制へと変貌を遂げていくことが予想される。それは、地域内部の地盤沈下ではなく、むしろネットワークを戦略的に活用することによる地域産業の競争優位の再構築と考えられる。


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