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2000/3/1

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イタリア地域経済通信



ガーヴィ
ワイン産地としての取り組み


アレッサンドリア在住 片野道郎


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ガーヴィ(Gavi)は、ピエモンテ州南東部、リグーリア州に接する丘陵地帯 に位置する人口4.000人ほどの小さな町。特に大きな観光資源や地場産業を持 つわけでもないこの町の名前が広く知られているのは、イタリアワインの格付 け上最上位にあるDOCG(Denominazione Origine controllata Garantita:統 制保証原産地呼称)を持つ辛口白ワイン「ガーヴィGavi」の産地としてであ る。 <注:町の名称とワインの名称が同じで紛らわしいため、以下、ワインについ てはローマ字表記でGaviと記述する>

イタリアワインと聞いて多くの方の頭に浮かぶのは、キアンティやブルネッ ロ・ディ・モンタルチーノ(トスカーナ州)、あるいはバローロ、バルバレス コ(ピエモンテ州)といった赤ワインかもしれない。しかしこのGaviは、DOCG に認定(1998年)されたことからもわかるとおり、イタリアを代表する辛口白 ワインのひとつであり、国際的にも高い知名度を誇っている。

Gaviの原料となっているのは、コルテーゼ種という白ぶどう。ピエモンテ州 南東部に昔から伝わる土着系品種であり、現在も栽培地域は、アレッサンドリ ア県とアスティ県にまたがるモンフェッラート丘陵南部(アルト・モンフェッ ラートと呼ばれる)、そしてお隣りロンバルディア州南部のオルトレポー・パ ヴェーゼ地区(パヴィーア県)に限られている。

その中で特にこのぶどうに適した土壌を持っているとされているのが、ガー ヴィを中心として11のコムーネにまたがる地区。この地区で生産・瓶詰めされ たワインだけが、コルテーゼ種を使った他のワインとは区別してGaviという名 称を名乗ることを許されている。鉱物性の酸味を特徴とするきりっとした味わ いを持ったフレッシュな辛口白ワインである。年間産出量は700万本前後。ソ アーヴェ(ヴェネト州)、ヴェルディッキオ(マルケ州)、フラスカーティ (ラツィオ州)といった大量消費型白ワインに比べると半分かそれ以下の規模 だが、品質的にはそれらよりも1ランク上の評価を得ており、価格帯もやや高 めである。



◆過去

GaviがDOC(統制原産地呼称:前述のDOCGよりひとつ下の格付け)に認定さ れたのは1974年と比較的早い。しかし、このワインの知名度が一気に高まった のは、地元の生産者の中でリーダー的な存在だったLa Scolca社に負うところ が大きい。

同社は、GaviがDOCを獲得した70年代半ばから、それまでピエモンテのいち 地酒として知られていたに過ぎなかったこのワインを、魚介類に合う高級白ワ インと位置づけ、特に海外市場(ドイツ、アメリカなど)に向けて積極的なプ ロモーションを展開した。

ワインをどちらかといえば国内市場向けの「農産物」として捉えるメンタリ ティが強かった当時、海外市場の開拓に積極的に取り組む生産者は、イタリア でもまだそれほど多くはなかった。あえて高めの価格帯を設定し、高級ワイン いうひとつの「商品」としてイメージ的な付加価値を高めるという、マーケ ティングの視点をも取り込んだこの試みは、少なくともこの地域では画期的な ものだったといえる。この戦略は見事に成功をおさめ、同社のワインのみなら ずGaviそのものが、イタリアを代表する高級白ワインとしての知名度とイメー ジ、そして質に対する評価を獲得するに至る。

おかげでGaviに対する需要は急速に拡大。生産者もこれに積極的に応え、 1977年には17.000Hlに過ぎなかった生産量は、80年に24.000Hl、90年には 46.000Hlと、うなぎのぼりに増加した。



◆現在

当時は珍しかったLa Scolca社のような取り組みは、80年代後半以降、イタ リア全土のワイン生産者にとって一般的なものになっている。個々の生産者の レベルだけではなく、産地全体で振興に取り組む例も目立ってきた。特にこの 10年、イタリアワインの質的向上には目覚ましいものがあるといわれており、 その中でGaviも必然的に、より厳しい競争にさらされるようになった。

しかし、これまで築き上げてきた知名度とイメージは、その競争においても 大きな財産となっているようだ。前述した通り、Gaviは、近年の赤ワインブー ムによる白ワイン市場縮小の影響もあまり受けることなく、安定した実績を 保っている。もちろんその前提には、DOCからDOCGへの昇格(98年:詳しくは 後述)に加え、価格を据え置きワインの質的向上を図るといった個々の生産者 のたゆまぬ努力があることはつけ加えるまでもない。

98年のGaviの産出量は約57.000Hl。そのうちおよそ60%が海外に輸出されて いる。輸出先は70%がドイツ。これに続くのがアメリカ(10%)と日本(5%) で、残りの15%はその他の国々に輸出されている。 ちなみに、イタリア国内での州別販売比率は、地元ピエモンテが35%、リ グーリア25%、ロンバルディア20%、エミーリア・ロマーニャ10%、その他10%と なっており、近隣の州がほとんどを占めている。

産地全体で振興に取り組んでいるという点では、もちろんGaviも例外ではな い。その中心となっているのが、1993年に設立された生産者団体「Gavi品質保 護協会」(Consorzio tutela di Gavi)。99年現在の会員数は68社で、この地 域のぶどう生産量の6割強、ワイン生産量の7割強をカバーしている。協会に 加盟していないワイン生産者の多くは、この地域の外に本拠を置き、Gaviだけ をこの地域内で瓶詰めしている生産者であり、地元の生産者だけに限ればその 比率はさらに高くなる。

93年という設立は、有名ワイン産地の生産者団体としてはかなり遅い部類に 入る。その理由について、同協会の役員を務めるこの地域でもトップクラスの 生産者「カステッラーリ・ベルガーリオCastellari Bergaglio」のマルコ・ベ ルガーリオ氏はこう語っている。

「ワインの名声と評価が比較的早い時期から市場の中で確立されていたこと もあり、拡大する需要に対応することだけで手一杯だったGaviの産出業者の多 くは、横の連携の必要性をあまり感じていませんでした。協調よりは競争、と いう空気があったのです。しかし、他の産地との競争が激しくなってきたこ と、またワインの生産に限らず、観光なども含めて、地域として総合的な振興 を図っていかなければならないという認識が生まれてきたことなどから、特に 若い世代の生産者の間で、お互いに協力し合ってGaviの発展を目指そうという 機運が盛り上がってきました。協会の設立は、その第一歩だったのです」

そう語るベルガーリオ氏もまだ31歳。しかし15歳の時からワインづくりに携 わってきた彼は、Gaviでも最も高い評価を受けている気鋭の醸造家にして、 「若い世代の生産者」のリーダー的な存在である。

設立後、同協会が最初に取り組んだのは、GaviのDOCからDOCGへの昇格。ワ インの格付けを上げるためには、単位面積当たりの生産量の縮小、より厳しい 醸造方法に関する規定を満たさなければならないなど、高いハードルをクリア する必要がある。どの条件も、ワインの量よりも質を高めることを目的として いるだけに、生産者にとっては新たな投資も必要になる。中には、現状に満足 しておりこれ以上の投資を望まない生産者もいたため、地域全体で意思統一を 図ることが最初の仕事になった。それから4年越しの努力が実り、協会は97年 にDOCGへの昇格申請を農業省に提出。審査を経た後の98年7月、GaviはDOCG昇 格を勝ち取り、名実共にイタリアを代表する白ワインとしての地位を確立する に至っている。

同協会の取り組み内容は、
1) Gaviワインの質的向上と市場拡大
2) Gavi生産地域の「産地」としての総合的振興という2つの目的別に分けることができ る。

以下、具体的に列挙すると―

1) Gaviワインの質的向上と市場拡大
・DOCG昇格プロモーション(前述)
・コルテーゼ種のクローン分析(土壌に最適の系統亜品種の選択)
・イタリア国内市場におけるGaviのイメージ調査(大手調査会社に依頼)
・Vinitaly(毎年春にヴェローナで開催される最大のイタリアワイン見本市) を初めとする各種見本市への参加
・良質のコルク栓使用を推奨する会員セミナー
・全会員の生産するワインを一堂に集めての相互試飲・品評・意見交換会

2) Gavi生産地域の「産地」としての総合的振興
・地域観光資源の開発と活用に関するコンヴェンションの開催
・ワインツーリズム・ガイドブック「Le vie di Gavi(Gaviワイン街道)」の 企画・出版(スロー・フード・アルチゴーラ出版社およびアレッサンドリア商 工会議所との共同事業)



◆未来

地域経済という視点から見ると、有名なワインの産地であることは、農業 (ぶどう栽培、ワイン生産)のみならず、観光を初めとする第三次産業にとっ ても大きな資源となりうる潜在力を持っている。しかし、国際的な名声を誇る ワイン、ぶどう畑が連なる風光明媚な丘陵地帯、美味しい地元料理、豊かな自 然といった絶好の「素材」があっても、それらを有機的に結びつけ、ひとつの 観光資源として効果的に活用することができなければ、地域全体として大きな 発展は望めない。

キアンティを初めとするトスカーナ中央部、バローロ、バルバレスコを擁す るピエモンテ州南西部のランゲ丘陵地区などは、それに成功した典型的な事例 といえるだろう。

この観点から見れば、ガーヴィを中心とするGavi生産地域、もっと広く言え ばピエモンテ州南東部(アレッサンドリア県)の取り組みは、まだ端緒につい たばかり。ホテルやアグリツーリズモ、レストランなど、観光客の受け皿も十 分ではなく、またキアンティやランゲのような「ワイン街道」としてのイメー ジづくりやプロモーションもこれからという段階である。

協会は商業行為が認められないノン・プロフィット団体であり、会員からの 年会費(年間約2億5000万リラ=約1400万円)が唯一の財源であるため、マス メディアを活用したプロモーション活動などは予算的に難しいのが実情。ガー ヴィを初めとする地元のコムーネもいまのところ積極的な協力の姿勢は見せて いないため、主に、アレッサンドリア商工会議所、ピエモンテ州、アレッサン ドリア県などの支援が頼りである。

確かに、この地域の観光的なポテンシャルは、キアンティやランゲには及ば ないかもしれない。しかし、先にあげたワイン産地共通の「素材」に加えて、 ミラノ、トリノから東リヴィエラに抜ける2本の高速道路(A26、A7)のイン ターに近いという地理的条件、丘陵地帯に点在する中世の城や城塞、カパン ネ・ディ・マルカーロ自然公園といった観光資源など、知恵と工夫次第で活用 の余地がある材料は決して少なくない。

ピエモンテ州南東部は、工業の停滞によって経済的にやや活気を失っている のが現状。その中で、ワインとしてのGaviが、イタリアワインというパノラマ の中で確固たる地位を築き上げ、順調な発展の道をたどっているという事実 は、地域経済の再活性化に向けたひとつの「契機」として、もっと注目されて もいいように思われる。今後の取り組みに注目したい。

取材協力:Laura Casali (Consorzio tutela di Gavi) 、 Marco Bergaglio (Azienda Vitivinicola Castellari Bergaglio)


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