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2000/1/1

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イタリア地域経済通信



ボローニャ通信


金沢大学 経済学部 教授
佐々木雅幸


photo ボローニャ周辺は特定の消費財(生活財)の生産を特徴とするイタリアの他の「産業地区」とは異なって、食料品・飲料・タバコ・薬品等の自動包装(パッケージング)機械からフェラーリやデュカティに代表される自動車・オートバイ等の幅広い分野のエンジニアリング産業とそれを支える高品質の部品生産を担う多数の小・零細企業からなるダイナミックな「産業地区」を形成している。1970年代から80年代にかけて、ベンチャー企業が次々とスピンオフを繰り返し、その発展ぶりは世界的に注目を集め、シリコンバレーと比較されて「パッケージングバレー」と呼ばれるほどである。近年は、データロジックに代表されるハイテク企業やマルチメディア・コンテンツのマイクロ企業が成長して「マルチメディア産業地区」をめざしている。

このようなボローニャの経済状況を、先に、拙著『創造都市の経済学』(勁草書房)で取り上げたこともあり、昨秋は日本からの視察団がボローニャに殺到したので、その準備に追われつつも、一緒に調査に同行したりして見聞を広めた。その中で新たに気がついた点を覚書風に取りまとめておこう。

@「パッケージングバレー」の変貌とネットワーク企業化

Becattini教授(フィレンツェ大学)とBrusco教授(モデナ大学)が明らかにした中小企業の「競争と協調」に基づく「産業地区」のダイナミズムは、1970−80年代の牧歌的な姿から大きく変化しており、90年代には国際競争が激化し、M&Aやグループ化が進行している。Bianchi教授(フェラーラ大学)によれば、「産業地区」の特徴であった中小企業によるフレキシブルな分業システムは、変化の激しい不安定な需要(市場)の元では適していたが、EURO導入によって需要(市場)が大きく拡大した場合に、合併や企業グループ化に向かう傾向が強まるのは当然で、例えば、ボローニャの隣のタイル産地、サッスオーロでは3つの大きなグループの形成が進んでおり、ボローニャでもパッケージング企業の間でM&Aが盛んであり、EURO導入はこうした傾向に拍車を掛けるだろうと言う訳である。

そこで、グループ化の内実を探るべく、代表的なケースを調べてみた。

中核企業であるIMA社の場合、1961年にティーバッグの包装機械メーカーとして設立され、76年からは薬品包装機械の分野にも進出し、85年から次々と関連技術を持つメーカーをM&Aによりグループ化し(最近10年間で従業員が1,000人増加して、1,700人となった)、急成長を続けている。ティーバッグで世界1位、薬品包装で世界2位のシェアを誇る同社は、「小さな」世界企業から名実ともにパッケージング・バレーを代表する世界企業になったと言えるだろう。創業者の息子で、重役のD.Vacchi氏によると、グループ企業はそれぞれ経営の独自性を保持しており、そのことが、効率的なプロダクション・システムに繋がっているという。また、部品供給業者(サプライヤー)との関係は、有力なコーディネーター企業に任せ、「信頼関係に基づく生産ネットワーク」を形成して、生産計画・品質・納期を一緒に考えるようにしており、全体の70%を外部から調達して結果的にコストダウンに繋がり下請業者にもメリットが出ているということである。

一方、IMA社のような中核企業を中心とするグループ化とは異なって、同等レベルの小企業がグループを形成しているケースがあり、その一例がPulsar社(従業員24人)とそれが属するβグループ(合計7社、従業員114人)である。Pulsar社はコンベヤシステムやオートメーションの設計を専門とするエンジニアリング・デザイン事務所を開業していたM.Franzaroli氏が1990年に設立した若い企業で、フレキシブル・コンベヤシステムを得意としている。Franzaroli氏は自社と技術的関連の深いコンベヤ部品の専門メーカーであるBett-Sistemi社(従業員35人)のT.Bettati氏とパートナーを組み、1995年にやはり関係の深い他の専門メーカー1社と部品メーカー3社、販売会社1社からなるβグループを設立した。7社はそれぞれ独自の経営者による有限会社で、資金を出し合って株式会社を設立したが、その大きな理由は、零細企業では資金調達が困難であるということであり、グループ化によってその障害が取り除かれると、95年以来、売上高が4倍に増加したと言う。 こうしたケースは他にも見られ、ロボットによる自動荷造り包装機械のROBOPAC社(従業員200人)とPETボトルのパッケージングを得意とするDIMAC社(従業員63人)、さらに充填機械メーカーであるWEITEK社(従業員44人)とがAETNAグループ(海外子会社を含めて従業員356人)形成したが、この場合には資金調達と海外市場への進出のためにグループ化を選択したので、経営権は各社のオーナー達に残されたままである。

この他、Marchesiniグループなども「水平的グループ化」の代表と評価されており、IMA社とは異なるタイプの企業グループ化が進行しているのだと言えよう。Franzaroli氏の言葉を借りれば、このような中小企業間の協調的ネットワークの背後にあるのは「相互信頼に基づく人間的ネットワークである」ということになるが、この地域の経営者・職人の大多数がAldini-Valeriani工業専門学校の出身者であり、その先輩後輩の繋がりが経営にも生かされているとも考えられる。

日本的常識で考えれば、小企業が国際競争で淘汰され、敗者が勝者に買収されて、大企業化が進むということになるが、「第3のイタリア」では以上のような新しい中小企業のネットワーク化が進行している。ボローニャの研究者や経済政策担当者の口からM&Aや企業グループ化の傾向は従来の「産業地区」の良さを損なうものではないと言う意見をしばしば聞いたが、こうした「協調的水平的グループ化」がより一般的に普及していくものかどうか、今後も注目していきたいと思う。

Aサッスオーロ産業地区と環境問題

ボローニャの隣のモデナ郡にある世界的なタイルの産地であるサッスオーロSassuoloでは「産業地区の環境問題」が話題になっている。この地域では19世紀からタイルの生産が始まり、工業化されたのは第2次大戦後のことで、1945年には僅かに5企業に過ぎなかったのが、現在は200企業にのぼり、60年から70年代にはもっと企業数が多かったと言う。 この産地が発展した理由としては@原材料の存在(資源地立地)A資本力のある豊かな農村B旺盛な企業化精神C行政による支援D需要の拡大―インテリア・台所・風呂―などが挙がり、60年代には内需で発展し、70年代に輸出をはじめ、現在、産地全体では生産額50億ドル、生産量6億平方メートル、国内生産の80%を占め、世界市場の42−43%を占め、輸出が70%、国内向けが30%であり、約30,000人が働いている。タイルの生産だけでなく、製造機械の生産を行っているところにイタリアの強みがあり、州内のイモラ、サックルミにその工場があるとのこと。産地の構造としては、同種類の製品を作っているので産地内での価格競争が激しいという。タイル業界の協会である。Assopiastrelleは1963年に設立され、@広報A企業サービスB見本市開催などの業務で40人が働いている他に、輸送会社を経営しており、業界の21世紀戦略として@品質A技術BデザインCイノベーションを重視している。現在は大理石に似た新製品が好調とのこと。

同時にこの地域では生産拡大とともに環境問題が発生したので、業界は行政と手を組んで70年代は大気汚染問題に、80年代には廃棄物・水の問題に取り組み、この25年間で環境改善の成果が上がったと言う。最初は個別企業のレベルで空気清浄装置を取り付ける(3年間、州の補助金が支給される)などして、ドイツ製であったこの装置も、イタリアで生産可能となった。すでに、個別企業の問題から、産地全体の問題になっており、「ローカル・アジェンデ21」に従い、タイル業界・州・コムーネが協力して「持続的発展計画」を作成して具体的な実践をはじめている。これまで産業廃棄物は埋め立てていたが6−7年前から再利用を進めるようにし、すでに40箇所で埋め立て箇所をもとにもどしているが、まだ20ヶ所ほど残っているので、今後計画的に進める予定である。また、業界も省エネルギーや環境問題への取り組みのため、売上高の5%を研究に向けている。

友人のカペッキ教授(ボローニャ大学)によるとエミリア・ロマーニャ州の環境管理計画は新産業育成の観点からも積極的に取り組まれており、EUからの補助金によって、地元企業が開発した大気の汚染状態を測定するシステムや農業用の地域的降雨情報システムなどがすでに効果を上げている。

以上、クリエイティブでサステナブルな地域に向けて、新しい課題に挑戦しているのが最近のボローニャ地域である。


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