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1999/12/1

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イタリア地域経済通信



イタリア眼鏡産業界の動向


−危機に瀕した産地の現状と関係者の取組み−

ジェトロミラノセンター
福井県駐在員 山川満寛


photo イタリアが極めて高い国際競争力を有している分野の一つに眼鏡産業がある。1980年代、ドイツやフランスの委託先であったイタリアが、90年代に入り急速に力をつけ始め、今や世界の眼鏡業界の動向を大きく左右するまでに成長した。70年代を風靡し、アメリカを代表するサングラスだったレイバン(Ray Ban)も、今年5月にイタリア企業が買収したところである。このイタリアで唯一の眼鏡産地が、イタリア北東部の山岳地帯に位置するベッルーノである。全国1510社の内930社が集中し、生産額では約90%にあたる2兆6000億リラ(約1600億円)を占めている。一方日本においては、福井県が国内眼鏡生産額の90%をしめる一大産地となっており、企業数ではベッルーノを上回る1100社、販売額も1360億円とほぼ肩を並べる。

経済のグローバル化が進む中、福井県内の眼鏡企業も世界の動向を常に注視している必要がある。こうした県内企業のサポートのため、97年4月にジェトロミラノセンターに福井県駐在員として着任した。今回は、11月中旬に実施した現地調査結果をもとに、イタリア眼鏡産地ベッルーノで今何が起こっているか、皆さんにご紹介したい。


1.はじめに

現在、イタリアの眼鏡産地では二極分化が進行中である。ブランドとマーケティング戦略を展開し業績を伸ばし続けている大企業に対して、中小零細企業は存亡の危機に瀕している。こうした経済危機の事態を重く見たイタリア中央政府は、省庁が連携して対策会議を設けると共に、それに呼応して地方レベルでも対策が検討されはじめた。では具体的に、現在ベッルーノはどのような経済危機に陥っているのか、その原因は何か、それに対してどのような対策が取られているのか、産地の中小零細企業の将来はあるのか。こうした点について行政や眼鏡関連団体、中小零細企業、労働組合、地元大学へのインタビューをもとに、次のとおりまとめてみた。


2.危機の状況

今回の調査で面談した眼鏡関係者が口を揃えて言うのが「構造的不況」である。季節的な要因による経済危機ではなく、産地構造に起因しているという。イタリア眼鏡メーカー1510社のうち、従業員15人以下が1395社(92.4%)、16-50人が70社(%)、51-150人が35社(%)、151-300人が6社(%)、301人以上が4社(%)となっているが、イタリア労働総同盟ベッルーノ県支部のジュゼッペ・パット書記長は、「従業員数151人以上の企業が10社(0.7%)でしかないのに、従業員数では70%を占めている。これは裏を返せば、零細企業がひしめいているということだ」と、産地の企業構成の問題点を指摘する。現在、産地内の再編・整理が進行中であり、来年末には完了するとパット書記長は見ている。また、ベネト州政府社会経済企画秘書官のアドリアーノ・ラージ・カルドーニョ氏は、産地の再編はやむを得ないことであり、淘汰されていく企業を無理に助けることは不可能である。これは誰にも止められない動きである」とし、「今年末までに数十件の企業倒産と、約500名の失業者が出る」と見ている。また、ベッルーノ県経済企画部長のレンツォ・ファント氏は小企業・零細企業の売上は対前年比20%減、ベッルーノ眼鏡工業会事務局長のアントニオ・ザンデジャコモ・コペティン氏は、同40-50%減少していると推測する。


3.危機の原因

産地の危機的現象は、いろいろな要因が複雑に絡み合って生じている。関係者の話をまとめると、ポイントは4点に集約できそうである。

まず1点目は、前段で触れた「構造的要因」である。つまり、従業員15人以下の企業が全体の92.4%(1395社)を占めている点である。テキスタイル産業においては、フレキシブル・スペシャライゼーションということで、中小零細企業がアパレルやテキスタイル産業を支えていると言われているが、眼鏡部門においては、零細企業の抱える問題点、すなわち資金力や販売力に欠け、消費者とのコンタクトもなく、組織的、財政的に脆弱な基盤――というマイナス面ばかりが際立つ結果となっている。

この疑問を解決するヒントは、イタリア光学製品認証協会(CERTOTTICA)事務局長のルイジーノ・ボイト氏から得られた。イタリア眼鏡業界は、90年代前半、特に95-96年のブームに乗って、次々と小企業が生まれていった。パット書記長は「91年以降に設立された企業が全体の50%を占めている」と分析する。こうしたブームに乗って生まれた企業はR&D(研究開発)に投資をしないまま、単に“Made in Itay"というブランドと、リラ安という追い風に支えられた中低価格だけを武器に現在まで来てしまった。

2つ目の原因は、大企業が内製化もしくは海外生産を進めていること。

3つ目はアジア諸国から中低級品が流れ込んでくること。

4つ目は、大企業によるブランド戦略や販売ルートの直接コントロール。

本題からはややそれるが、ボイト氏は今回ベッルーノに起きている現象にユニークな分析を加えている。彼によると、90年代、イタリアはドイツやフランスに輸出攻勢をかけて、彼らのマーケットを次々に獲得していったが、彼らとしても国内市場を防衛することなく、イタリアに対して「禅譲」していった。その一方で、彼らは彼らなりにニッチ市場を確立し、自らのポジショニングを確立していったのである。さて今回は、アジアがイタリアに対して輸出攻勢をかけている。今度はイタリアが自らのポジショニングを確立すべき時期に来ているだけであると分析する。


4.関係者による取組み、対策、産地内に見られる動き

いろいろな関係者にインタビューを行ったが、いずれの方も、「目指すべき方向性」と「それを実現するための事業・ツール」を混同しているように感じられた。例えば、「流通・販売力の強化」を危機解決策と言う人がいたが、「流通・販売力の強化」を図るということは「目指すべき方向性」に過ぎない。大切なのは、それを実現するためのツール、すなわち具体的事業である。「多角化、業種転換」についても同様で、その方向に進むためには何が必要かを考える必要がある。次の表は、私なりに彼らから出た意見を整理したものである。

(1) 販売力、流通力の強化

中小企業の組織化  中小企業がグループを結成することにより、資金力をつけ、大企業のようなブランド戦略やマーケティング戦略を展開しようというもの。フランスの部品メーカー9社により構成されたCOMOTECをイメージ。しかし、これまで何度も試されながらも成功したことがなく、否定的な意見も多い。カ・フォスカリ大学のルッラーニ教授は、「メーカーから消費者へのアプローチ、消費者からメーカーへのアプローチが容易になるような仕組みを考えるべき」とし、そのためには例えば、中小企業がグループを作り、共同で大都市に店をオープンしたり、広告宣伝を行ったり、インターネットを利用したりすることを強く勧めている。

商標・品質保証マークづくり  価格競争では、もはやアジア勢には対抗不可能である。イタリア製品は高い品質だと言ってはみても、アジア勢は急速に品質を向上させてきている。CERTOTTICAのボイト事務局長は、単なる価格や製品そのものの品質ではなく、アフターサービス、安全性、デザイン性など全体を含めた上での商品全体の「質」を高めていくことが必要と力説する。品質保証マークとして既に「CE」があるが、これは技術面の最低基準を示すものに過ぎない。ドイツの「Din Plus」はCE基準値の+50%を保証する商標であるが、「規格のみならず、デザイン、安全性、アフターサービスなど全てを含めた『質』を追求すべき」とボイト氏は言う。こうした点は、“Made in Italy"という原産地表示ルールの制度化とからみ、産地全体で議論されているところである。

(2) ニッチ市場開拓、差別化した商品の開発

中小企業の組織化  市場開拓や商品開発を行うためには、まず「メーカーが消費者と直接コンタクトを取ること」が必要とルッラーニ教授は言う。ただ、中小零細企業には単独でこうしたことを行う力がないために、前述の「中小企業の組織化」が叫ばれている。

商品企画と制度づくり  登山、モータースポーツ、マリンレジャー、スキー、産業用など、ニッチとなる分野は数多くあり、消費ニーズの多様化により、ますます市場は大きくなっていくと予想される。用途が異なることにより求められる機能性やレベルも異なってくる。こうした特殊用途の製品の規格を作るには、まず国内の業界が意思統一した上で、世界各国の同意を取り付けることが必要である。商品企画自体は各企業が単独で行うことになろうが、世界展開を行うためには、企業単独ではなく業界全体の協力が必要である。

(3) 多角化、業種転換

産地の再編がこのまま進めば、99年年には数十件の企業が倒産し、500名の労働者が失業するとベネト州政府では見ている。その対策という意味合いと、「眼鏡一辺倒」というモノカルチャーの弊害をなくすため、経営の多角化や業種転換が考えられている。ベネト州政府でも、今年FS調査を行ったところである。だた、現地で関係者の話を聞くと「昔から眼鏡だけを作ってきた者が、業種転換するのは無理だ」というのが本音の気がする。

(4) 技術革新

研究機関から企業への情報提供  これまで企業と研究機関との関係が希薄で、研究成果が企業活動に反映・還元されていなかった。このため、研究機関と企業の距離を縮めることにより、企業が研究成果に触れるチャンスを拡大するとともに、企業からのイノベーションに対する要求を増やすため、ベネト・インノバツィオーネでは地域内の11機関と4大学の連絡網を整備するとともに、各国の法律、規則、特許情報に関するデータベースを構築し、インターネット上で公開している。

人材育成  人材育成の重要性は誰もが感じているところだが、企業が単独で社内で対応するには限界がある。CERTOTTICAでは、EUや州政府の資金を活用し、ANFAOや大学、企業、行政と協力し、新卒者から企業幹部まで、それぞれの技術レベルや職種に応じた研修コースを設けている。特に今年から、1年間1200時間にわたる特殊技術コースを開設した。履修者が大学進学する際には、単位として認定されるシステムになっている。

(5) 経営基盤の強化

ファイナンシング  問題解決のための抜本対策にはならないが、州政府や県庁が中央政府を巻き込み、失業者への援助金や企業の社会保険料負担金の猶予、輸出保険掛金の一部負担、返済期限の延期、低利融資など、ファイナンス面の対策が検討されている(一部は既に実施されている)

中小零細企業の組織化  (前述)

人材育成  (前述)

(6) 規格外商品の排除、原産地表示

アジアから“Made in Italy"と表示された完成品がイタリアだけでなく欧州全体に流入してきている。特定のデザイナーズブランドを持たない中小零細企業にとって、“Made in Italy"が唯一のブランドとなっていることから、原産地表示の制度化は彼らの悲願と言える。しかしその一方で、大企業サイドはルールづくりに消極的である。業界内で不協和音がありながらも、「商標、品質表示マーク」づくりとともに産地全体で議論されているところである。CERTOTTICAは税関と協力して、来年1月から半年間、中国や台湾などアジアからの輸入品をチェックすることになった。中小零細企業の期待は大きい。


5.イタリア眼鏡産業の将来性

どのような対策が取られようと、今後もますます二極化が進行していくことは明らかだろう。しかしながら、たとえ二極化が進んでいったとしても、イタリア眼鏡界全体としてみれば、生産額、輸出入額、従業員数(失業率)とも、たいして悪化はしないだろう。なぜなら、中小零細企業の悪化分をごく一部の大企業が吸収してしまうからである。レイバンを買収したルクソッティカが、ここ半年内にイタリアで500名を採用するとしている。

こうした形が進んでいくと、最終的には「産地」という形態はなくなるだろう。問題なのは、「産地システム」が壊れても、一部の大企業が成長を続けていけるのかどうかである。この点については、多くの人は「モノカルチャー」は地域経済にとって好ましいことではないとしながらも、産地システムが壊れた中でも大企業は存続していくと楽観視している。「モノカルチャー」のお手本であるトレビーゾ市のベネトンが近く存在する。ベネトンは、雇用や法人税の面で地域経済に大きく貢献しているばかりでなく、文化活動へも投資していると言う。そんなベネトンのような役割を4大企業にも期待する声はあったが、「モノカルチャー」への非難は聞かれなかった。

今回の訪問を通じて感じたのは、経済危機を乗り越えるための数々の対策を行政や関係機関が講じてはいるが、肝心の中小零細企業側が問題の重要性を十分に認識していないように感じられた。むしろ、経済危機の大きさを感じてはいても、どうすることもできず手をこまねいているだけと言った方が、より正確かもしれない。


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