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1999/11/1

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イタリア地域経済通信



プラート繊維産地の人材教育


photo プラートは、トスカーナ州に位置し、昔も今も毛織物の街として知られる。毛織物生産は14世紀に始まり、第二次大戦のはじめには繊維の一大中心地に。現在は企業数8000社。従事者数44000人で構成されるイタリア最大の繊維産地の一つとなり、小企業中心の生産分散化による生産方式で知られている。

かつては再生毛の冬物生地が主流であったが、85年代後半から深刻な危機をむかえた。企業リストラと産地の再編成で危機を乗り越え、多品種少量のファッション性に富むテキスタイルを生産する産地に変貌している。90年代中頃に大きな危機を乗り越えた繊維産地プラートでは、21世紀を前に、最優先課題の一つとして、人材教育をあげており、積極的な取り組みを展開している。

イタリアの各繊維産地は、国際競争激化の中で、より付加価値の高い製品への生産集中が不可欠となっている。そのため、産地内の企画開発力、生産の核となる部分の強化と、それをになう人材確保の重要性を産業人が強く意識しているためだ。


1.産地の人材を育成してきた国立高専

プラートの繊維教育で、歴史的に最も重要な役割を果たしてきたのが国立工業専門高校ブッツイだ。前身はプラートで設立された「繊維・染色産業学校」で、1891年に技術高等学校となる。創立後100年を越える活動を通して、常にプラート産業人の技術者、企業の管理職、経営者層を育成し、地域の産業の着実な発達に大きな貢献をしてきた。現在、プラートで活躍している経営者の半分以上は同校卒業だ。

現在、繊維科、染色科があり、30年前までは、全員男子生徒であったが、現在は男子7割女子3割となり女生徒の割合が上昇している。

デザイン企画開発力の強化

上述したようにファッション性の高い繊維、技術的に革新性にと富む繊維を得意とする多品種少量生産の産地と変貌してきた今、同産地にとって、テキスタイル・デザインの企画開発力はこれまで以上に重要な戦略的ファクターとなってきており、本校の教育内容も変化をしてきている。技術面主体から、技術面を基盤にしつつ、繊維の企画デザイン面での資質にもみがきをかけようというものである。 現在、繊維科に進学してくる学生の優秀な者はすべてテキスタイルデザイナーを志望しているといても過言でない。

産地のリソースを活用した物作りを学ぶ

繊維科では、あらゆる素材の研究、すべての機械設備の研究、染色、仕上げ加工技術を学習した上で、織物のアイデア・企画デザイン(素材の選択、カラーバリエーション、織の構造の設計)から始まり織、染色、仕上げ加工までを、トータルに運営管理し、新しい織物をつくりあげる力を育成している。学校の中に織機械の設備は整っているが、染色や加工仕上げには非常に専門的な設備が必要なため、外部の工場を使っている。外部工場に対し、すべての技術仕様書を書き、仕事を依頼し、出来具合をチェックし、完成品をつくりあげていく。言葉を変えれば、プラートのテキスタイルメーカーの役割と同じであり、産地内のあらゆるリソースを最大限に活用して、新しい商品をつくりあげる。これがプラートにおける実際の仕事のしかたであり、この全体像を把握してこそ、実際にいかなる種類の企業に入社して、どのパーツを担当することになってもすぐに具体的な仕事の流れがわかるといわれている。

こうした教育を通して、技術面だけでなく、生まれつきのクリエイティブな資質のあるものは、テキスタイル・デザイナーの道を進む。その他のものは、生産技術分野での専門職・管理職のキャリアを進む。

入学者の減少傾向

ところで、本校卒業生は卒業前から企業への就職がほぼ決まるというほど、人気があり、卒業生の資質には高い信頼と評価がある。しかし、現在は同校への入学者が減少傾向にあり、産業界が求める人数を提供できていないという問題がある。豊さの普及、進路選択の幅の広がりの中で、若者の繊維に対する関心にかげりがでてきているといえよう。


2.地域のニーズにそった地域人材教育機関〜F.I.L.

プラート県、プラート市、商工会議所、プラート産業連合、労働組合、プラート手工業組合、プラート商業者団体などが発起人とし1995年には、F.I.L.( Formazione Innovazione Lavoro)という人材開発センターが創設された。第三セクター的な組織であり、株式会社の形態をとってフレキシブルに対応することを意図している。既存の教育機関、特に上述のブッジ国立高専だけでは、カバーしきれない対象や領域をカバーすることを目的としている。

綿密なニーズ分析をもとに講座を設計

トスカーナ州が予算枠を県に委託し、県では、産業界、労働組合、教育界の代表者からなる役員会で、産業界や労働組合から、具体的にこういう職能が不足している、この種の教育を行ってほしいという提案などをもとに、具体的な人材教育プランが立案される。基本プランが決定後、実際の運営管理はFILに委託されるという形である。

繊維関連の主たるコースとは工員レベルの教育に始まり、外国からの移民むけの入門講座、繊維品質管理要員、マーケティングや営業マネージャ養成、在庫管理者、さらには、下請け生産工程管理者まで多岐にわたっている。すべて、地域企業を対象とした緻密なニーズ分析をもとに設計された講座である。多くの講座が、ヨーロッパ社会基金(FSE)の助成を受けている。なお、すべての講座に、総時間数の30%以上の時間が産地内の企業でのインターン研修が組み込まれているのも特色である。

FILでは、さらに、職業選択オリエーテンション窓口業務、他県との共同研究事業、企業や団体から委託をうけての個別の教育研修事業なども実施している。

テキスタイル企画デザイナー講座

98年秋からは新たに、上記のブッジ校の全面的協力を得て、テキスタイル企画デザイナー講座も開催されている。主として、アート系の高等学校の卒業生を対象としており、クリエティブな資質と基礎的教育のあるものに対して、繊維の技術面、生産面の特性を徹底教育することで、工業用織物デザイナーの育成を意図している。


3.子供への積極的アプローチ

繊維危機後、産業界は落ち着きを取り戻したものの、この危機がプラートに住む人々に深い傷を与えたことも否定できない。多くの企業の倒産や失業をみて繊維に対する否定的な反応が生まれた。また汚い、重い仕事という印象もあり、若者が繊維産業で働くことに関心を示さなくなってきたのだ。工場は工業地帯に移り街中から繊維の匂いが消えて子供たちに繊維が遠い存在になっているのも事実だ。

若手経営者が体験を伝える

危機意識をもった産業界は、プラート工業連合の若手経営者を中心に、地域の中学校を訪れ、自らの体験を直接語りかける活動を実施している。また、進路を決める段階にいる高校生に対しては、地元TV局と協力で9回シリーズのオリエンテーション番組を作成。プラート産地での仕事のキャリアプラン、選択の可能性など具体的な事例で紹介するのが目的だ。

イラスト入り繊維読本の発行

さらに、産業界が中心となり地方自治体の協力を得て、1-12歳の子供に向けた「プラート繊維絵本」が製作された。豪州で育った羊とプラート生まれの少年の出会いという形で、プラートに輸入された羊毛がどのようにして糸や生地などの素材に加工し付加価値を高められ美しいファッションにつくられていくか、その仕事の楽しさと奥の深さをイラスト入りでわかりやすく語りかけたものだ。

絵本の冒頭には、「繊維の世界を君に知ってもらいたい。身近に感じてもらいたいと思ってこの本は生まれた。君の選ぶ道がどのような道でも、我々の住むこの地域ではなんらかの形で繊維と接点がでてくるに違いない。なぜなら、プラートは繊維が歴史であり、文化であり、労働であり、そして我々多くの未来であるから」と記されている。

地道ながら地域のニーズにそった広範囲な試みがプラートの次世代を担う人材育成の基礎となるにちがいない。


(大島悦子)


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