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ITALY NEWS
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2003/05/01 



  イタリアの日本人
  GIAPPONESE IN ITALIA  

イケダリツコ
Ritsuko Ikeda


料理研究家

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JIBO:どのようなきっかけで現在のお仕事をされるようになったのでしょうか。

イケダ:今思えば、小さい頃の環境が非常に大きかったように思います。食べることがとても好きな父と、料理をすることに関しては決して手抜きをしない母の元に育ちまして…実は小学校時代は給食がどうしても食べられずに、おなかをすかせ、母が作ってくれるおやつを楽しみに家にまっしぐらに帰るという日々を送っていました(笑)。
中学に入るとお弁当は自分で作らないと気がすまないようになり、高校では宿題そっちのけでケーキ教室に通い、その後もホテルの料理教室や個人のお宅でフレンチ、中華、和食を習ったりしました。

大学卒業後は日本航空に就職し、大阪空港支店で地上勤務に就きました。ちょうどバブルの時期で非常に多忙な毎日だったのですが、休暇時に世界各地を旅行することができ、さまざまな食文化に接することができました。入社して8年が過ぎた頃、関西空港ができることになったのですが、通勤に二時間半かかることがわかり、日本航空を退社し、かねてから大好きであった料理の道に進もうと決心しました。当時はまだイタリア料理が今ほど一般的でない時代でしたが、ヘルシーな地中海料理にとくに魅力を感じ、地中海料理のケータリングを始めようと思い立ったのです。そこでまずは本場を見てからと、イタリア、南仏、スペインをまわる計画で、まずはイタリアに行き、国立ペルージャ大学外国人学部に入学しました。

ところが、在学中にひょんなことからF1のミナルディというチームからプレスの仕事のオファーを受けました。実はF1のチームというのはレース地の先々でスタッフやお客様の料理を作るチーム専用のケータラーを抱えており、ミナルディは食道楽の町ボローニャに本拠地があるせいもあったのでしょうか、抜群に美 しいケータラーを抱えていることで知られていました。そこで、休日にはチームのケータラーの元で修行してもよいという許可もいただいて、喜んでプレスのお仕事をお引き受けすることにしました。ところが、ペルージャから仕事先である ミラノに転居した矢先に、日本のバブル崩壊の余波を受け、プレスの仕事が立ち消えになってしまったのです。
この先どうしようかと悩んでいたところ、幸運にも日本の家具メーカーの駐在プレスの仕事に就くことができました。そこで、プレス業務の傍ら、「地中海式ダイエット」で知られるミラノの料理教室や、サドラーなどの有名シェフの料理教室に通ったり、日本航空のクルーに自宅で料理を教え始めるようになり、じきにミラノの駐在員の奥様向けの料理教室もスタートすることになりました。そして、やがてその関係から雑誌の取材や執筆、食品の商品開発やイベントプロデュース、講演などの依頼をいただくようになったのです。

JIBO:南欧を廻られて日本に帰られる予定だったのに、最初の訪問地であるイタリアにそのままハマッテしまったわけですね。そのイタリア料理の一番の魅力とは?

イケダ:まず第一に素材ありきの料理であること。次に、無駄がないこと。たとえば固くなってしまったパンをリサイクル利用する料理だけでも何通りもあります。そして、それがまた何よりも美味しいのです。三つ目に、「食」が家族の生活の基本にあること。あるいは、人生のベースに食があるといってもいいかもしれません。今日でもイタリア人一人一人が、それぞれの「マンマの味」を一番だ と思い、お母さんが腕によりをかけて愛情込めてつくってくれる料理を楽しみに、毎週末家族が集うという、そんなライフスタイルがまだ当たり前のこととしてあります。小さい頃、「おうちのご飯が食べたい!」と急ぎ足で家に帰った自分の経験とも重なるところがあるのかもしれませんが、そういうイタリアの、日々の暮らしのあり方も含めた「食」にとても惹かれます。

JIBO:現在のお仕事についてお聞かせ下さい。

イケダ:料理を教えるということでは、ミラノの自宅、西宮、広尾で少人数グループのレッスン、また、芦屋、西麻布、横浜元町、宝塚でオープンクラスのイタリア料理教室を主宰しています。宝塚の料理教室はお子さん向けの教室も夏から併設します。
また、これまで朝日新聞の「asa」、看護出版協会の「ナーシングトゥデイ」そして「フィガロジャポン」に取材をベースにしたコラムを連載しました。「ナーシングトゥデイ」には地中海式ダイエットをテーマに、たとえばこしょうや唐辛子をうまく利用すると味がしまって、塩分を少なくしてもおいしくいただけるとか、パルメザンチーズは熟成期間に比例してカルシウム分が増えるので、同じカロリーを摂取するのでも、熟成モノを食べるとより多くのカルシウムがとれるとか、いかに食材や調味料の特徴を活かしてヘルシーでおいしく食べるかというようなことについて書かせていただきました。一方、「フィガロジャポン」には“イタリアにご馳走様”という題名で、まだイタリアでも《スローフード》などと騒がれ始める前の98年から、イタリア各地の伝統的な食材について取材、執筆しています。現在は3つ目のシリーズを連載中で、オステリアを中心に取材しています。この間、生産者からは食材についてのみならず、その背景にある地域の文化まで、また有名シェフからは厨房でじきじきに、実にいろいろなことを学ばせていただきました。
取材・執筆の他には、主に百貨店が行うイタリア展や料理イベントのプロデュース、商品開発などに携わっています。
ミラノから、春、夏、秋、冬と、各シーズン少なくとも1回は帰国し、日本とイ タリアには大体半々の割合で滞在してます。

JIBO:イタリア料理にもいろいろとありますが、イケダさんがもっともお好きな、または得意とされるのは

イケダ:私はとくに野菜、果物、そしてドルチェ(デザート)が好きなのですが、幸いイタリアは、野菜も、果物も、味が濃くて、美味しいのです。料理には野菜を頻繁に使います。
一方で、こちらに実際住んでみると、つくづくイタリアというのはお肉の文化であるということを感じます。お肉を余すところなく使う方法を知っているのです。ただ、お肉の場合は、例えば内蔵などもそうですが、素材自身の味がかなり強いことがあります。この強いお肉の風味は、イタリア人には好まれても、日本人の口には必ずしも馴染むわけではありません。このように、お教えする際にはイタリア人の好きな味と、日本人が好きな味とは常に同じではないということを頭の片隅に置きながらメニューを組み立てるようにしています。
一方、魚文化に関しては概してイタリアは遅れているように思います。新鮮な魚を常食とするような海岸沿いの一部の地域以外は、魚を売る人の知識すらも一般的に低いと思います。

JIBO:日本でイタリア料理を作る場合に、どうしても手に入らない素材、または手に入っても非常に高かったりすることがあると思うのですが、いつもどうされていらっしゃるのでしょうか。

イケダ:日本で手に入りにくかったり、手に入ってもイタリアのものと比べると味がどうしても劣ってしまうような材料については、無理には使わないようにしています。
例えば、以前、やはり日本では手に入りにくいリコッタチーズに、「日本にある素材で何が一番近いだろう?」と考えた結果、「あっ、あのおぼろ豆腐の柔らかくてぼろぼろとした食感、なおかつ大豆のクリーミーな感じは、リコッタチーズのそれに近いかもしれない!」と思いつき、代用したことがありました。もちろん「イタリアではこういう素材を使うのですが」とお断りした上で、このような応用をするのですが。
料理を教えるにあたっては、皆さんが家に帰られてから、ご家庭の料理に取り入れていただけなければ、意味がないと思っています。ですので、イタリアと日本の素材のそれぞれの持ち味を考え、日本の素材を使ってもっとも美味しく召し上がっていただけるように工夫するようにしています。

ただ、毎回イタリアから帰国するときには、必ず何かイタリアの食材を持ち帰り、教室の皆さんに「本場の味」を味わっていただくようにしているんです。その食材の歴史的背景や取材裏話、ジャストナウな今のイタリアンの流行をお話ししたりしながら… 例えば、絶滅の危機にあった食材のラルド(豚の背脂のブロックを塩と香辛料をすりこんで熟成させたもの)がSLOW FOODのお蔭で息を吹 き返し、今流行中だというお話をして、それをパテにしたものをバゲットにカナッペして、トーストしたものを味わっていただいたり…。

JIBO:今後の方向性などありましたらお聞かせ下さい。

イケダ:一つ、現在とても関心を持っているのは、「食育」ということです。とくにキッズ向けの教室をやりたいのです。遊びから入っていって、「実は作ることや食べることって、楽しくて、体のために大事なんだ!」ということを自然と体得できるような。
小さい頃に味覚を育てるというのはとても大事なことだと思います。わたしが今でもマクドナルドのハンバーガーを食べれなかったり、食品にソルビン酸などの強い添加物が入っているのを感じとることができるのは、やはり小さい頃の食生活がベースにあるからだと思うのです。
食育に関してはフランスがとても進んでいて、政府がお金を出して、シェフを小学校に招いて食育するなど、学校の年間カリキュラムの中にきちんと組み込まれています。外食やできあいの食材を口にすることの多くなった日本でも、今、食育の必要性がこれまでになく高まっていると思います。
現在キッズ向けの食育以外にも、大人向けの食育イベントを展開できないかと、百貨店にもご協力いただきながら企画しているところです。

先日、日本からある地方の経済連の方々がミラノに視察に来られた際に、イタリアの食材について講演させていただく機会があったのですが、その際に、3年モノの熟成パルメザンチーズにバルサミコ酢を添えて、実際に召し上がっていただきました。すると、「ええ、パルメザンチーズって、こんなに美味しいものだったのか!」と結構お歳を召されたおじ様方が感動されて、早速日本へのお土産に熟成パルメザンチーズを購入されて帰られました。実際に本物のおいしい食材を口にしてみるということほど、説得力のある「食育」の機会はないということを改めて実感しました。

もう一つ今後積極的に取り組んでいきたいのは、私がたまたま、こうしてイタリアのいろいろな地域に行って、いろいろ食べさせてもらって、教えてもらったことを、様々な形で、少しでも多くの関心のある方々にお伝えしていくことです。
わたしだけが食べたことがあったり、知っていてももったいない(笑)。

JIBO: イタリアでの生活はいかがでしょうか。

イケダ:こちらで非常に楽しめるのは、近所に買い物に行くと、「これをください」、「はいどうぞ」ではすまずに、たとえば髪の毛を切ったあとなどに買い物に行くと「あら、髪の毛切ったのね」と、即反応が返ってくるような、またはちょっとしたことから客と店主・店員のあいだで四方山話がはずむような、そういう人のふれあいがあるところです。「大都会でクール」と言われるミラノでさえそうなのです。私が小さかった頃の日本のような感じがして、懐かしい気がします。
また、歴史があり、「食」を始めとする地域文化の懐が深く、旅をすればするほどもっと知りたいと思うことがどんどん出てきて、飽きがこなくて魅力的な国です。
イタリアで学び、日本にフィードバックしていきたいこともまだまだ多いですし、もうしばらくは今のように日本とイタリアを渡り鳥のように行き来する生活が続けられればと思っています。 
最近日本に帰って感じることは、電車の中に乗っているヒトがみなつまらなそうな表情をしていて、元気がないこと。「皆と同じでなければいけない、個性がマイナスである」社会に、一人一人が疲れてしまっているのかもしれないナ、などと思ったりします。逆にイタリアは、「人と違うことがよい」とされる社会です。そういうところに、自分は合っているのかもしれません。

(終)

インタビュー中、パルメザンチーズにバルサミコ酢をかけて食べたことがないことを白状すると、「それは食べて見なきゃ!」と取材先の醸造所秘蔵という40年もののバルサミコ酢を数滴パルメザンチーズに添えたお皿をサッと出してくださいました。バルサミコはスーパーに売っているさらさらとしたものではなく、熟成された、まるでソースのようにとろみのあるもの。わくわくして口の中に入れてみると、これが絶品!バルサミコの奥行きのある甘みと、パルメザンチーズ独特の風味とまろやかな塩味が、なんともいえないハーモニーを生み出し、これは、もうやめられない!
これからも、どんなイタリア料理・素材の真髄をご紹介いただけるのか、楽しみです。ちなみに98年から「フィガロジャポン」に連載された“イタリアにご馳走様!”が、本になりTBSブリタニカより7月に出版されるそうです。(JIBO編集部:大橋由紀)

※ ミラノ&日本で開催されるイケダさん主宰の料理教室に関心のある方は、
rizikeda@attglobal.netまでメールをお送り下さい。

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