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ITALY NEWS
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2003/03/01 



  イタリアの日本人
  GIAPPONESE IN ITALIA  

蓮池槇朗 氏
Makio Hasuike


インダストリアルデザイナー


− 後編 −

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JIBO:インダストリアルデザインの道を選ばれたのは?

蓮池:最初からはっきり何をやろうということは決めていなかったのですが、当 時学校で教えてくれたのが、ドイツの、合理的で、生活向上や生活改善というよ うな社会的な使命を持つインダストリアルデザインの考え方でした。それに非常 に感銘を受けて、この仕事だったら情熱を持ってできそうだと感じたのです。社 会の革新は旗を揚げなくてもデザインでできるのではないか、と。商売というよ りも、そういう面で情熱をもてる仕事をしたかったんですね。

JIBO:デザインをする上で一番基本、または重要となるのはどんな点でしょう か。

蓮池:ごく当たり前なことですが、自分が欲しいなあ、と思うものですね。それ から、欲しいなあといえないものもあるわけですから、こんなものがあったらい いなあ、と思うものです。それともう一つは、モノの場合、パッケージのよう に、わりに早く消耗されてしまうものから、長い間使われるものまでいろいろあ ります。これまで手がけてきたメインのものは長く使うものですが、今、市場は 新製品を求めてどんどん変わることを求めます。その中で何か自分としては、も う少し愛着を持てるものを作りたい。使う人と自分がデザインしたものとの間に 愛着が生まれるようなものを作りたい。そういうことを考えながら仕事をしてい ます。どうやったらそのようにできるかということは言葉で説明しにくいのです が、たとえばあまりにも大げさにお化粧して見せびらかすようなものよりも、も う少し静かでも、とにかく気持ちよく長い間使えるようなものを作る。そういう ことだと思います。

一方、メーカーのほうでは、どんどん買って捨ててもらいたい、という会社もあ るかもしれませんので、こんなことはあまり大きな声では言えないのですが、自 分の気持ちの中ではなるべくそういうように努めています。また結果として、そ のようにやると、それなりに成功している、ということがあるかと思います。

自分はデザイナーでありながら、あまりデザインっぽいものが好きだというわけ ではないのです。デザイナーがモノを買うときに困ってしまうのは、あまりにも デザインが目に付いてしまって、買いたくないモノがたくさんあるのです。そう いうことを考えると、どのようにしたら、あまり形をいじらないで、しかも気持 ちよく、美しく、それなりの価値を感じるものができるか。これも一つ難しい問 題です。そこで、あるときペンタテを作るにあたって、極端に自分がデザインし ないデザインをやってみようという実験をしてみました。石ころを探しにいき、 それを型にし、それにペンを立てるための穴を開けたわけです。つまり、デザイ ンしたというよりも、《ペンタテをこういう風にするように決めた》ということ です。それもある種デザインかな、ということですね。

このようにデザインにもいろいろなやり方があって、人によってもいろいろ違い ます。ヨーロッパ、とくにイタリアの場合はほとんど100%近くデザイナーはフ リーランス、つまり会社に所属しない立場です。そうすると、何か自分の特徴の ある考え方、あるいは感性がないと、お客が来ません。ということで、常に自分 の立場、気持ちを整えながら仕事をすることが大切だと思います。

JIBO:その点、蓮池さんはどのような感性、特徴を持たれていると位置づけられ るのでしょうか。

蓮池:それは外部から見ないとわからない面がありますが、自分としては、現在 の社会的な環境の中で、はたしてどのようなものが的確だろうか、ということを 常に考えます。つまり、価値観ですね。そして、それに付随するというか、それ の継続ですが、その中で表現の仕方を考えます。同時に、現状分析といいます か、いわゆる現在目に付く刺激的なもの、それを観察しながら、では自分だった らどうやるかということを考えます。

JIBO:これまで手がけてきたプロジェクトで一番印象に残っているプロジェクト は?

蓮池:考え抜いた結果、試みて、その結果が明らかに出てきたもの、そういうも のが印象に残ります。一方、こんなことがやれたらいいなあと思っているうち に、それがバッときて、それほど長い分析をせずに割に直感的にできてしまうこ ともあります。ですが、後であらためて考えてみると、なるほどいろいろな条件 にあっているなあ、ということで、いい結果が出ることがあるのです。 
ですが、後であらためて考えてみると、なるほどいろいろな条件にあっているなあ、ということで、いい結果が出ることがあるのです。
そういうことを繰り返すうちに、自分はこんなことができて、こんなことはでき ない、というような自分の形が見えてきます。デザイナーによっては、自分はこ うだ、という風に決めて、自分の形を繰り返す人もいますが、僕の場合はあまり 自分はこうだと人に見てもらいたくない、不意をつこう、というようなところが 少しあって、なるべく同じことを繰り返したくないという気持ちがあります。と はいうものの、不意をつこう、自分を壊して他の自分を作り上げよう、と思いな がらも、後になってずっと追ってみると、やはり同じようなことを繰り返してい るような(笑)、そういうことも感じるわけです。

JIBO:インダストリアル・デザインの醍醐味とは、また逆に難しい点とはどのよ うなところにあるのでしょうか。

蓮池:ひとつは、信用したお客さんは来てくれるということ。《信用》という人 間関係が非常に素晴らしいと思います。また、結果が出るまでの大変な時期をへ て、実際にいい結果が出たときには、それは非常に嬉しいです。 また、インダストリアルデザインとは、ある意味では組織とともにある、非常に 大掛かりな仕事です。しかし、大掛かりな仕事でありながら、個人性があるとい いますか、デザイナーの自己の表現の場でもあるわけです。その、デザイナーと しての自分が消えてしまわない、自分の存在がある仕事というところが、おそら く一番、満足感につながってくる部分だと思います。

難しい点というと、全部難しいのですが(笑)、とくに商品作りというのは経済 活動につながる仕事ですが、それと同時にデザインである限り、やはり意味のあ る、経済以外の面での文化的、あるいは社会的な意味を何らかの形で持たせた い、と思うのです。有意義でありたいと思うのです。僕にとって、最初のデザイ ンの発見、デザインに惹かれた条件が、その社会的な有意義性だったわけです が、それを否定したくない。そのような、デザインにおける経済活動としての面 と社会的な有意義性のかねあいがもっとも大切であり、同時に難しい点かもしれ ません。デザイナーが経済的に直接かかわりがあるのはクライアントである企業 ですが、実際には企業のためであると同時に、自分と同じように商品を使う人た ちのための仕事です。究極的にはスポンサーはユーザーであるということです ね。

JIBO:今後力を入れていきたいことは?

蓮池:今というのはいろいろな意味で問題のある時期です。環境の問題から、社 会の問題、経済の問題と、いろいろあります。それら非常に複雑な問題の中で、 的確なものづくりのあり方ということを考えると、今までどおりではありえない と思っています。材料の使い方、モノの作り方、どのように商品がユーザーの手 に渡り、また使った後どうなるかというような問題、または、モノが存在する期 間。モノは人間と同じように生まれて死んでいきます。皆、世界中で一生懸命も のづくりをして、非常にたくさんのモノが世の中に出るわけですが、その中で も、いいモノは多くの人に認められ、しかも長い間使ってもらえるのではないか と思います。


一方、役目を終えた あとは、うまく自然に消却されるような、そういう状態を理想と考えたいので す。それは非常に難しい課題で、デザイナーだけで解決できる問題ではなく、い ろいろな要素が関わってきます。しかしながら、ある一面はデザイナーもそのよ うな方向に持っていくように努力しなくてはいけないと思います。ただ存在感を 作るだけのためにやってはいけないことをやるのはまずいということです。

JIBO:社会的意義を感じられてインダストリアルデザインの道を選ばれたとのこ とですが、その点から見て、蓮池さんがデザインを始められて約40年、社会とデ ザインの関係はどのような変遷を遂げたのでしょうか。

蓮池:デザインは社会的な面から個人的な面に変わってきたと思います。どうい うことかと言いますと、最初は《いいものは誰にでもよいものである》と思われ ていたわけです。ところが、実はそうではなくて、何がいいものかは、人によっ て違う。そういうことの発見が意外に遅かったといいますか、そういう時期が来 たのが75年以降、80年くらいです。
誰にでもいいデザインはありえないということは、デザインの世界において非常 に大きな変換でした。合理的で、経済的にうまいものを作れば誰にでもいいとい うドイツ的な考え方から、満足感、あるいは何かを欲しいという気持ちが生じる のは、それまでの考え方とはもう一つレベルの違ったところにある。不合理なも のでも素晴らしいものが一杯あるというわけです。あるいは違った意味での合理 性があるのかもしれません。一概にこれというような、決め手になるものがあり えない複数の世界、プルーラリズムがそれ以降のデザインのあり方です。それぞ れのカルチャー、それぞれの頭の構造によって欲しいものが違ってくる。それに 合わせてやるとなると、デザイナーは何でもやるということではなく、やはり自 分に似た人たちのための仕事にならざるをえない。それでよしとするより仕様が ない。そこは大きな違いだと思います。ある意味では、昔は《こんなひとりよが りなものをやって》と見られていたデザイナーたちが、それなりの立場、価値を また取り戻した時期でもあります。
ですので、われわれの仕事というのは、一面合理性がありながら、また同時に 偏った面もある、そういう仕事です。自分がデザインするかばんは、誰にでも 使ってもらえるということは決して考えずに、こんな人に使ってもらいたいな あ、ということを考えながらデザインするのです。

クライアントと仕事をする場合にも、その会社の客層を想定し、その過去を見、 現在を見、この次はこういう感じのモノを、ということでつくりあげていきま す。モノを作る前の段階の問題設定が非常に大事になります。家電、冷蔵庫など の場合は自然、その客層がひろがります。といっても全体のマーケットの10、 20%程度ですが、それはモノによって広がったりつぼまったりするわけです。

JIBO:イタリアでの生活はいかがでしょうか。

蓮池:まあ、好きなんでしょうね(笑)。自分は純粋な日本人だと思っています が、それでもイタリアに住むのが好き。自分にとって住みやすかったのでしょう ね。大きな問題に直面したようなことは、あまりなかったような気がするわけで す。悪いことは忘れてしまう性分だということもあるかもしれませんが(笑)。 あとは寒いところは苦手なので、ヨーロッパでもアルプスの南側であるというこ とがよかったのでしょう。
人間的な面でも、概して、外国人として自分を意識するようなこともありません でした。わりに普通に暮らせたのです。さらにイタリアといえば、皆さんもご存 知の通り、いわゆる美の歴史、過去の豊かな遺産、そしてそれにまつわるさまざ まなものに恵まれています。 
食べること自体、自然と歴史の結果ですね。それら のことを総合して、イタリアに住むということに非常に満足しています。もちろ ん仕事ができたということが大きな条件だったとは思いますが。後悔なし、とい うところでしょうか。
食べ物でも、来た頃は嫌いだったものも今は好きになってしまいました。最初は ポレンタなんて全然食べられなかったのですが、今は好きになりましたから、変 わりましたね。

(終)

写真(上から)
1. 石ころをかたどったペン立て -MH WAY
2. TOPSTAR: なべ - WMF、1992
Design Innovationen受賞(1995)
Design Plus受賞(1995)
Design Auswahl受賞(1995)
3. BACIONE:パッケージング - Perugina、1998
容器のふた、および容器をひっくり返して重ねると突然入れものに様変わ りする、商品であるチョコレートの形をかたどった容器にさらにひとひねり加え た楽しいパッケージ
4. Studio Makio Hasuike & Co、1995

蓮池槇朗(はすいけまきお) プロフィール

62年東京芸術大学卒。デザイナーとしてのスタートはセイコーで、東京オリン ピックのために20種の時計をデザイン。64年に渡伊、68年にミラノでも初期のイ ンダストリアルデザイン事務所の一つに数えられるMakio Hasuike Designを設 立。プロダクトにとどまらず、グラフィック、パッケージ、ショップ、展示ス ペース、建物など、幅広い領域のデザインを手がける。数々の作品がコンパッ ソ・ドーロ賞、デザイン・プラス賞、BIO賞などを受賞、またMOMA、ミラノ・ト リエンナーレのデザイン美術館に永久収蔵されるなど、国際的に高い評価を受け る。30年以上に及ぶ幅広い経験を基に、会社の経営戦略を視野に入れたデザイン を行うことでも定評があり、ミラノ工科大学のマスター課程、ストラテジック・ デザインの設立メンバーでもある。現在、同大学のインダストリアル・デザイン 学部で教鞭もとる。

社会を広く、そして深く見つめる中でデザインを追求する蓮池氏の今後のさらな る活躍が楽しみです。おりしも今月、イタリアでAbitare Segesta社から蓮池氏 のデザインの本が出版されます(残念ながらイタリア語のみ!)。(聞き手: JIBO編集部 大橋由紀)

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