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ITALY NEWS
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2001/10/01 
 
  イタリアの日本人 
  GIAPPONESE IN ITALIA  

山下ひろみさん
Hiromi Yamashita


伊藤忠ファッションシステム株式会社
ミラノ事務所マネージャー

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JIBO:これまでのプロフィールを教えてください

山下:東京生まれです。大学は女子美術大学で、産業デザイン科で工芸を専攻しました。卒業後、アパレルメーカー、ニコルに入社し、テキスタイルデザインの企画の仕事に従事しました。当時はDCブランドが全盛の頃です。同社でもパリコレクションに進出していましたし、カタログの写真も海外で撮影したり、ファッション情報も海外から積極的に収集するといったように、海外部門が積極的な活動を展開していました。私自身はテキスタイルのデザインということで社内での仕事が中心でしたが、社内の動きに刺激され、次第に自分自身も海外に出て、グローバルな仕事がしたいと思うようになりました。

といっても、私はそれまで欧米への旅行経験もありませんでした。それで、同社に3年余り勤めた後退社し、イギリスにいって英語の勉強を始めました。海外と仕事をするには言葉が基本と考えたからです。そしてロンドンと後半短期間パリで約2年間語学や色々な勉強をしながら、テキスタイル企画やファッション関係の買い付けの仕事などをフリーで続けました。いったん、日本に帰国し、今度はインテリアテキスタイルメーカーに勤務し、商品開発に取り組みました。

その後、93年に、ロンドン時代に知合った現在の夫と結婚のためにイタリアにきました。そして、夫の実家のあるローマから70KM程のリエーテで、イタリアでの生活を始めました。ここでもテキスタイルやアパレル関連の仕事をし、97年、夫の転勤でミラノに移ったのを機会に、伊藤忠ファッションシステムのミラノ事務所に勤務することとなりました。

ミラノ事務所マネージャーという職務です。今年でちょうど4年になります。

JIBO:御社の仕事の内容を教えてください

山下:伊藤忠ファッションシステムは、1971年に、伊藤忠商事の繊維部門繊維開発室の一部を分離独立して別会社とする形で発足しました。今年で30周年となります。東京と大阪に本社をおいています。正社員は約100名です。

弊社の業務内容は、一言でいうと、「ファッション・マーケティングカンパニー」。私どものいうファッションとは服や流行といった狭い意味でのファッションではなく、いわば「時代の価値観」で、その時代にあった価値観を切り口に、クライアントのニーズにあわせて、ソリューションの提供を行っています。また、時代とともに、クライアントの業種や仕事内容も変わって来ています。

現在の仕事領域は、5のエリアに分類されています。一つ目は、ファッショントレンド、市場・消費動向の分析やマーケティングデータベースの構築、セミナー、出版活動など情報収集・分析の仕事。第二は、クライアント企業の事業コンセプト、マーケティング戦略の立案、第三は、ソリューション設計といって、企業間のコラボレーション開発、国内外ブランド提携・展開、ライセンスコーディネートなどを行う業務。第四は、販売促進や広報活動などコミュニケーション設計。第五は、新規業態や商品開発コンサルティングなどです。

海外拠点としては、ミラノ、パリ、ニューヨークの3ヵ所に駐在員事務所、ロンドン、ソウルに現地人によるオフィスを置いています。ミラノ事務所は1983年に設立されました。現在は私とイタリア人スタッフ一人できりまわしています。

海外事務所の役割は、今、申し上げた本社のあらゆる業務活動とリンクしており、個別のクライアント企業ごとに、本社からのリクエストによって、海外事務所としてできるソリューションの提案は情報収集を行います。たとえば、新しいブランドをつくりあげたいというクライアントに対しては、クリエータ起用の提案をしたり、ライセンス契約を扱ったり、参考になる情報収集やトレンド分析をおこなったりするわけです。その他、バイイングオフィスの機能、そして新規事業や新ブランド開発のための「ネタ」を提供することも重要な仕事の一つです。さらに、イタリアに進出しようとしている日本企業に対し、市場調査や進出のコンサルティングも行っています。

私どもの事務所から投げたボールは、本社の各担当部門が受け入れて、日本側のニーズとつきあわせて料理をしてもらうということになります。

JIBO:最近の傾向について教えてください

山下:クライアントの業種、業態も、当初はアパレルや狭い意味でのファッション関係が中心でしたが、現在は、アパレル・テキスタイルメーカーに加えて、化粧品、自動車メーカー諸々の製造業、小売流通業、飲食業、その他サービス業にまで広がっています。また、求められるものも衣食住などライフスタイル全般に拡大してきています。衣食住のトータル生活ブランドへのコンサルティングや、フランチャイズの外食産業のコンセプトを開発したり。

ライセンスビジネスについても変化してきており、これだけ横文字ブランドが氾濫している日本でブランド名だけでは消費者もモノを買わなくなってきている。イタリア側も名前だけのライセンスは敬遠する動きがあります。結局は、日本企業とイタリア側の本当の意味のパートナシップを組むことが必要で、より深くかかわった仕事の仕方が求められてきています。たとえば、日本のクライアント企業のために、戦略コンセプトをつくり、それにあうイタリアのクリエータを起用し、新しいブランドを創造するとか。そして、ショップ展開まで一環してつくっていくというように。私どもでは、これをストラテジック・ブランドと呼んでいます。

JIBO: 日本からイタリア進出する企業の仕事も始められたようですね

山下:今までは、ミラノの情報を日本に紹介する、日本サイドに向いていた仕事が中心でしたが、この2、3年の傾向としては、日本のアパレル繊維メーカーで、海外進出したいという企業が増え、私どもがお手伝いするという逆方向の仕事が増えつつあります。日本市場が飽和し、新しい販路を開拓しなければならないというのも一つの理由だと思います。そして、欧州市場にむいているファッション系企業は、やはり、パリとミラノが重要市場となりますので、私どもでも、パリ事務所と協力して仕事を進めています。したがって、クライアントの目的もこちらの市場に進出したい、商品を売りたいということですから、私どもに求められる仕事の質もかわってきていると思います。

たとえば、服飾資材のメーカーの場合ですが、これまでは、別のブランドや流通網を通じて海外に製品を供給してきましたが、独自に自社ブランドで直に進出したいということで、パリ、ミラノ、ニューヨークについて、各市場の分析や特色、進出方法などをリサーチしています。次のフェーズでは、本社の方と共同で具体的な市場進出のためのコンサルティングに入るわけですが、必要に応じて、各市場にあった具体的な商品企画のコンサルティングまでもさせていただくという体制です。

JIBO:力をいれておられる仕事はどのようなことですか

山下:弊社が、独自プロジェクトとして進めている海外進出プロジェクトとしては、JFK(JAPANESE FABRICS KIKAKU)というものがあります。日本には、各地に優れたテキスタイルをつくる企業が少なくありませんが、それを海外に売り込むというのは、一社単位ではなかなかむつかしい。弊社では、メインの仕事として以前からヨーロッパのファッショントレンドを、パリやミラノのトレンド・セッターのオフィスともコラボレーションし、時系列的に分析する仕事をおこなってきました。したがって、ヨーロッパ市場に対するこうした蓄積と分析をもとに、今度は、ヨーロッパにあった日本のファブリックをセレクトし、編集し「マップ」にして、こちらでイタリア、フランス、イギリス等のファッションブランドなどにプレゼンをしています。

日本の素材自体は質も高く、特にハイテク素材は素晴らしいものが多いので反応は悪くありません。元々の価格が高いこと、為替の変動、輸入コストもかかるので価格的には非常にむつかしいのですが、ヨーロッパの高級ブランドを中心に需要は確実にあります。高級品の限られた市場ではありますが。といっても、日本側は、海外にだしたい、売りたいという希望はあるのですが、海外に製品を供給する体制のできていないところが多く、イタリアのテキスタイルメーカーに比べると実際の反応の遅いのが問題です。

「JF企画」をPRし、イタリア市場に浸透されるためにイタリアでも、コモやプラートで日本の素材トレンドに関するセミナーを開設したりしています。また、パリでは、日本の市場・消費動向等のセミナーを行っています。それは、また、弊社としてヨーロッパ企業への個別コンサルティング業務開拓に少しずつ繋がっております。

JIBO:イタリア人と日本人の仕事の違いについてはどのように感じられますか

山下: 常々感じているのは、日本人は、何かをはじめると完璧主義で、実行までのプロセスをとても重視します。物事を確実に準備して、すっかり準備が整ってから実行に移す。一方、イタリア人は、よりフレキシブルというか、100%完璧でなくても実行してしまう。実行していく中でより完璧なものに近づける。もちろんイタリア式はデメリットもある訳ですが、決定までのルートが短く決断も早いので、特に、スピードを要求されることに対しては、抜群にたけています。

たとえば、日本の場合はこちらにいい内容の企画展があって、「今すぐにやりたい」、「今ならやる意味がある」という時でも、日本では決定するのに時間がかかる。「旬」でないと意味がないこともそれでは時期を逸してしまう。別の言葉でいうと、日本人は、「詰め」をしないと納得しないけれど、イタリアはあまり詰めないでやってしまう。アバウトですが、要所は感覚的におさえている。イタリア側にいると、その人のやり方を現実にみているので、「これはやれる」という確信を私も持てるのですが、それを、日本側に理詰めで伝えて、納得させるのは至難の業です。仕事の進め方のメンタリティの違い。それをすり合わせて前に進めていくのがむつかしいですね。距離もありますから、イタリア側の感覚的な部分を我々がいかにうまく日本サイドにトランスファーできるかです。それをするのがまさに、ミラノ側の仕事なのですが。

JIBO: 情報収集はどのようになさっているのでしょうか

山下: 常日頃、努力しているのは、自分のネットワーク、情報源をいかに広めるか、深めるかということです。最大の情報源は見本市・展示会、人との交流だと思います。私どもの会社ではカバーしている領域が広いので、レディスファッションだけでなく、紳士もの、子供、テキスタイル、インテリア関係ほか、直接関係ない分野でもありとあらゆる展示会に出来るだけ顔をだし、これはと思う企業とはその場で親交を深めてコンタクトをつくっておくようにしています。ともかく、自分の引き出しを豊かにしておくこと。そのネットワークを使って、知合いの方からまた専門分野の方を紹介していただくことも多々あります。本社からどのようなリクエストがきても、最も適切なソリューションを投げ返られるように準備しておく必要があります。それと、最近はイタリア企業もインターネットでの企業紹介が整備されてきて、企業情報の収集も随分と楽になりました。

基本的には業務のリクエストは日本からきます。ただ、最近は、市場の動きがすごく速いので、客先もクリヤーなアイデアがないと、リクエストもぶれてしまい、こちらの投げかけたボールも受け止めてもらえないということもママあります。ですから、どのようなリサーチをするにも日本の顧客の欲しいもの、知りたいこととしっかりとピントをあわせないとダメです。そこが仕事のむつかしいところだと思います。そのため、私としては、日本の状況をよくつかんでいないとこちらの仕事ができません。キャッチボールがぶれてしまいますので。幸い、会社としては、日々更新され、蓄積している情報が社内共有化されていますので、インタネット等を活用してミラノにいても触れていられるので助かりますが、ともかく勉強しなければならないことが沢山あります。

JIBO:仕事をしていて嬉しいのはどんなことでしょうか

山下:仕事を通じて、クリエータでも、企業でもトップクラスやオーナーの方々と直接お仕事をすることができることでしょうか。最先端の方々との仕事をできることはとてもありがたいことで、この仕事だからこそと思います。自分を高めていくことができるかと思います。私自身もデザイナー出身ですので、クリエータを見る目はあるつもりです。ただ、いいクリエータでも、こちらではよくても、日本市場にあっているかどうかみきわけなければなりません。

JIBO:プライベートな生活はいかがでしょうか。

山下:主人と2人暮らしです。このところ、あまりにも仕事に追われていて、週日は仕事中心になってしまっています。土日はジムにいったり、近場にでかけたりしていますが、パソコンを家に持ってかえることも少なくありません。 この夏は、9月に入ってからサルディニアの海にいってきました。趣味は, 旅行でしょうか。イタリアは国内に小さないい町が沢山ありますから。 (聞き手 大島悦子)



伊藤忠ファッションシステム株式会社サイト:www.ifs.co.jp


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