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2008/11/30

HOTなエスプレッソITALY WEB SITE編集BACK NUMBER

HOTなエスプレッソ 



田中ちひろ

京都生まれ、91年よりミラノ在住。三井住友保険会社ミラノ支店勤務の一方で、日本、イタリア、フランス等各国で 異文化間マネージジメント、コミュニケーション、NLPセミナー・トレーニングを行っている(www.global-excell.com)。執筆は「普段着のミラノ案内(晶文社)」をはじめ各種新聞雑誌コラム等多数。

 

2008/9/30

54. 「闇の中の対話」

光ひとつ差さない真っ暗な闇の世界、都会にいればどんなに暗いと思っても目が慣れてくると多少の明暗や、何かの影がうっすらと見えるものだが、それすら許されない本当の闇、そんな世界を先日体験した。170年の伝統を誇るミラノの盲人学校で「闇の中の会話-dialogue in the dark」のツアーに参加したのだ。
ツアーは約1時間半、荷物をロッカーに入れてカーテンをくぐると、薄暗い入り口で白い杖を渡される。杖の使い方の簡単な説明をうけたあと次第に光が遠くなっていく廊下を進むと、まもなく本当に何も見えない闇の世界に到達した。あまりのインパクトの強さに身動きが出来なくなってしまった私たちを明るく迎えてくれたのはガイドのジュリアーノ。彼自身、目が見えない。自己紹介する私たち一人ひとりの肩や腕に触れながら力強い声で冗談を連発しては私たちの気持ちをほぐしてくれる。

「さぁ、僕に続いて」といわれ、その声の方向に恐る恐る足を踏み出す。白い杖で足の前方をしつこいくらいチェックして、もう一方の手は壁に沿わせる。他の人とぶつかっては謝り、声を確認しながら、一歩一歩が大仕事。皆が口々にジュリアーノを呼びながら大変な時間をかけてようやく庭にたどり着いた。
まず、床がじゃりになった。壁がなくなり、空をさぐった手が木の固い感触にぶつかった。ほのかな空気の動きが頬に感じられ、鳥のさえずりと水の流れる音が聞こえた。ジュリアーノが手をとって導いてくれる。「これが花、これが椰子の木の幹、ここからが木の橋....」
視覚が全く使えない分、他の感覚が必死で情報収集をする。普段使っていない感覚が目覚め始めたのか、一緒に参加した6人の声はすぐに聞き分けられるようになった。
じゃりが細かい砂になるのが靴を履いていても分かる。そばに誰かがいる気配、その人の服の肌触りでそれが誰なのかも分かるようになってくる。
そんな驚きに感動しながらも坂道が怖くて降りられない。ボートの乗りうつるといわれて杖の先が触れた水の音に一人の女性が叫び声をあげた。

感動よりも恐れが大きくなり始めるたびにジュリアーノが気づくのは偶然なのだろうか?大きな手でしっかりと肩を抱いてくれるだけで限りない安心感がひろがった。
漁師の家をおとずれ、市場に行く。市場の屋台にあるものを 手で触れてにおいをかぐ。「これはジャガイモ、これはレモン、でもこのレモンは少し古い!姿が見えなくてもそんなことまで分かる!」
すこし闇に慣れたのか、みんなの声も心持ち明るくなったと思ったら、今度はいきなり都会の真ん中に到達した。
こんなにたくさんの騒音があったなんて......
車の音、人の足音、クラクション、ざわざわとした雑踏など耳を覆いたくなるような無数の音とその情報の多さに圧倒され、歩道と車道の段差や無造作に駐車してある自転車やバイクがいかにおそろしいものかを実感し、次第にみんな無口になっていく......

やがて、そんなみんなを励ますようにジュリアーノが私たちをバールに案内した。
表のドアを閉めると、店内のピアノの音が私たちのこころを包んだ。
杖と手の両方でテーブルと椅子を確認し、腰を下ろす。これまた盲人のウエーターが暗闇の中でひとりひとりに触れながら挨拶をし、その手にグラスを持たせてくれた。

ジュリアーノは生まれたときから目が見えなかった。
色やもののかたちを一度も見たことがない彼にとって、それでも色や形を表す言葉は世界をよりゆたかに彩る(!)大切な要素だという。
目の見える女性と結婚をし、7歳の子供がいる彼は日常生活を私たちと同じように過ごしている。
PCや携帯電話のメッセージも文字を音に変換するソフトで私たちと同じように使う。
地下鉄に乗って移動するし、マーケットで買い物もする。
日常生活でよく困ることは?という質問に 部屋の電気を消すのを忘れることと答えた。
冗談だと思って笑った私たちに、「ボクにとっては変わらないが、翌月の請求書は変わるんだよ」とはじめてまじめな声をだした。

盲人学校の仕事だけでなく、最近はラジオの仕事も始めたという。
暗闇のバールで、ハンディーキャップのある人はかわいそうとどこかで思っていた私たちは、その明るさと意志の強さに魅せられ続けた。
ジュリアーノの言葉がいまでも頭の中をこだまする。
大切なのは常に恐れに打ち勝つこと、常に自分を超えること。
あの力強い手と声は同時に限りなく優しかった。

 


2008/11/30

ITALY WEB SITE 
英語で楽しめるイタリアの注目WEBサイトの紹介


ミラノのドゥオーモ公式サイト
DUOMO DI MILANO
http://www.duomomilano.it/


ミラノのシンボルDuomoのすべてを紹介するサイト。歴史から大聖堂内部の紹介ビデオ、バーチャルツアーとマルチメディアを駆使。クリスマス音楽も視聴できるのでミラノのクリスマス気分を味わいたい方にはおすすめ。



2008/11/30
編集後記
アルナルド・ポモドーロと日本企業

久しぶりの雪と冷たい雨の続くミラノの11月下旬。つい家の中に引きこもってしまいたくなる天候の毎日。そんな折、11月最後の日曜日にトリノの友達アンジェリカがミラノに来るというので、がぜん元気がでた。現在ミラノで特別公開中の「カラヴァッジョ」の作品を見にくるというのだ。いつも彼女にはトリノやその周辺を案内してもらっているので、今回ミラノではカラヴァッジョの後どこに連れていこうか頭をひねりいくつかプランを考えた。雪の場合、少々の雨の場合、お天気の場合と天候別に。

幸いこの日は朝から晴れ。気温は低いが雨も雪も降らないなら上出来ということで「晴れの日」コースを実現することにした。
チェントロから市電に乗ってナヴィーリオ(運河地域)に。毎月最終日曜に開催される骨董市をみるためだ。この寒さで出展数やビジターの出足はやや少ないがミラノ名物の霧もあってやはり雰囲気はある。しばらく骨董店をのぞいて楽しんだ後早めにお昼にする。
そして徒歩で午後の目的地である「アルナルド・ポモドーロ財団ミュージアムFondazione Arnaldo Pomodoro 」へ。以前から一度は行きたいと思いながら行きそびれていた場所だ。

ポモドーロは1926年生まれ、エミリア・ロマーナ州のモルチャーノ生まれで、はじめは建築を学び、舞台美術の仕事を手がけ独学で彫刻に取り組み、1954年からミラノに定住し工房を開いた。ヴェネツイア・ビエンナーレほかで数々の賞を受賞しており、日本でも「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞しているほか何度も展覧会が開かれている。球体や円盤、円柱のフォルムのポモドーロの彫刻やモニュメントは世界各地の公共空間やミュージアムに設置されている。

元タービン工場を改造した巨大な空間の中では現在「ポモドーロの大作展1972-2008」が開催中で、ポモドーロのこれもまた大作が20点ほど展示されていて圧倒される。同館の説明によると、通常ポモドーロは本作品をつくる前に「まったく同じ試し作品」を同じ素材、同じサイズでつくっており、今回の展示作品も半分はその「オリジナルの分身」といえる作品のようだ。1階から4階まで吹き抜け状態になっており、所々に中間階を設けることで背の高い作品を異なる高さからみたり、上からみたりと大空間うまく使った見せ方をしている。どの作品も素材は鉄かブロンズ。それでいながら強さだけでなく暖かさを伝えてくれる独特の作品だ。

あれ、どこかで見たことがあると思って巨大な「回転儀(ジャイロスコープ)」Giroscopoを眺めていると、作品説明パネルを近くで見てきたアンジェリカが「日本企業の依頼でつくったんですって」という。私も近づいて読むと、1986年―1987年の作品で「日本のサンヨー証券の委嘱で制作し、東京証券取引所に設置されていたが、2000年にイタリア外務省が購入し、東京のイタリア大使館に寄贈した」とありハットした。80年代後半、日本のバブル最盛期に、東京で昼も夜もいとわず仕事をしていた当時の自分を思い出したからだ。そして、その頃、企画に携わったあるセミナーでこの会社がスポンサー協賛企業の1社に入ってくれたことも。「東洋一」というガラス張りのディーリングルームでも話題をふりまいたあの会社がこの「回転儀」の依頼主だったのだ。バブルがはじけてこの会社も消滅した後、経過は知らないが、おそらく当作品の行方を案じてイタリア外務省が引き取ったのだろう。 バブル景気のおかげで世に出て数奇な運命をたどる直径3.8メートルもある回転儀。20年以上たった今、また世界は巨大な金融危機に直面していることを知っているだろうか。


2008年11月30日
JIBO編集室
大島悦子 (Etsuko Oshima)



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