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2008/9/30

HOTなエスプレッソITALY WEB SITE編集BACK NUMBER

HOTなエスプレッソ 



田中ちひろ

京都生まれ、91年よりミラノ在住。三井住友保険会社ミラノ支店勤務の一方で、日本、イタリア、フランス等各国で 異文化間マネージジメント、コミュニケーション、NLPセミナー・トレーニングを行っている(www.global-excell.com)。執筆は「普段着のミラノ案内(晶文社)」をはじめ各種新聞雑誌コラム等多数。

 

2008/9/30

54. 「闇の中の対話」

光ひとつ差さない真っ暗な闇の世界、都会にいればどんなに暗いと思っても目が慣れてくると多少の明暗や、何かの影がうっすらと見えるものだが、それすら許されない本当の闇、そんな世界を先日体験した。170年の伝統を誇るミラノの盲人学校で「闇の中の会話-dialogue in the dark」のツアーに参加したのだ。
ツアーは約1時間半、荷物をロッカーに入れてカーテンをくぐると、薄暗い入り口で白い杖を渡される。杖の使い方の簡単な説明をうけたあと次第に光が遠くなっていく廊下を進むと、まもなく本当に何も見えない闇の世界に到達した。あまりのインパクトの強さに身動きが出来なくなってしまった私たちを明るく迎えてくれたのはガイドのジュリアーノ。彼自身、目が見えない。自己紹介する私たち一人ひとりの肩や腕に触れながら力強い声で冗談を連発しては私たちの気持ちをほぐしてくれる。

「さぁ、僕に続いて」といわれ、その声の方向に恐る恐る足を踏み出す。白い杖で足の前方をしつこいくらいチェックして、もう一方の手は壁に沿わせる。他の人とぶつかっては謝り、声を確認しながら、一歩一歩が大仕事。皆が口々にジュリアーノを呼びながら大変な時間をかけてようやく庭にたどり着いた。
まず、床がじゃりになった。壁がなくなり、空をさぐった手が木の固い感触にぶつかった。ほのかな空気の動きが頬に感じられ、鳥のさえずりと水の流れる音が聞こえた。ジュリアーノが手をとって導いてくれる。「これが花、これが椰子の木の幹、ここからが木の橋....」
視覚が全く使えない分、他の感覚が必死で情報収集をする。普段使っていない感覚が目覚め始めたのか、一緒に参加した6人の声はすぐに聞き分けられるようになった。
じゃりが細かい砂になるのが靴を履いていても分かる。そばに誰かがいる気配、その人の服の肌触りでそれが誰なのかも分かるようになってくる。
そんな驚きに感動しながらも坂道が怖くて降りられない。ボートの乗りうつるといわれて杖の先が触れた水の音に一人の女性が叫び声をあげた。

感動よりも恐れが大きくなり始めるたびにジュリアーノが気づくのは偶然なのだろうか?大きな手でしっかりと肩を抱いてくれるだけで限りない安心感がひろがった。
漁師の家をおとずれ、市場に行く。市場の屋台にあるものを 手で触れてにおいをかぐ。「これはジャガイモ、これはレモン、でもこのレモンは少し古い!姿が見えなくてもそんなことまで分かる!」
すこし闇に慣れたのか、みんなの声も心持ち明るくなったと思ったら、今度はいきなり都会の真ん中に到達した。
こんなにたくさんの騒音があったなんて......
車の音、人の足音、クラクション、ざわざわとした雑踏など耳を覆いたくなるような無数の音とその情報の多さに圧倒され、歩道と車道の段差や無造作に駐車してある自転車やバイクがいかにおそろしいものかを実感し、次第にみんな無口になっていく......

やがて、そんなみんなを励ますようにジュリアーノが私たちをバールに案内した。
表のドアを閉めると、店内のピアノの音が私たちのこころを包んだ。
杖と手の両方でテーブルと椅子を確認し、腰を下ろす。これまた盲人のウエーターが暗闇の中でひとりひとりに触れながら挨拶をし、その手にグラスを持たせてくれた。

ジュリアーノは生まれたときから目が見えなかった。
色やもののかたちを一度も見たことがない彼にとって、それでも色や形を表す言葉は世界をよりゆたかに彩る(!)大切な要素だという。
目の見える女性と結婚をし、7歳の子供がいる彼は日常生活を私たちと同じように過ごしている。
PCや携帯電話のメッセージも文字を音に変換するソフトで私たちと同じように使う。
地下鉄に乗って移動するし、マーケットで買い物もする。
日常生活でよく困ることは?という質問に 部屋の電気を消すのを忘れることと答えた。
冗談だと思って笑った私たちに、「ボクにとっては変わらないが、翌月の請求書は変わるんだよ」とはじめてまじめな声をだした。

盲人学校の仕事だけでなく、最近はラジオの仕事も始めたという。
暗闇のバールで、ハンディーキャップのある人はかわいそうとどこかで思っていた私たちは、その明るさと意志の強さに魅せられ続けた。
ジュリアーノの言葉がいまでも頭の中をこだまする。
大切なのは常に恐れに打ち勝つこと、常に自分を超えること。
あの力強い手と声は同時に限りなく優しかった。

 


2008/9/30

ITALY WEB SITE 
英語で楽しめるイタリアの注目WEBサイトの紹介


トロ・スシ・レストラン
Il Toro Sushi Restaurant
http://www.torosushi.it/


高級ビジネス誌『クラス(Class)』9月号で発表された「ホテル・レストランなど商業建築物」ベストテンの「エスニック・レストラン部門」でイタリア第2位に選ばれたイタリア人経営の日本食レストラン。ジェノバにあるレンゾ・ピアノ監修のポルト・アンティコ(旧港)再開発地域内にオープン。
名前の「Toro」は「まぐろの『トロ』からきているとか。



2008/9/30
編集後記
ああ「アリタリア」
―流れを変えた一枚の写真―

8月末から約1ケ月、ほぼ毎日、新聞の一面を賑せてきた「アリタリア危機」問題が9月末に解決をみた。

経営破綻の寸前に追い込まれ燃料費を払う資金も9月末までもたないという「末期症状」の中、ベルルスコーニ政権が最後の解決案を披露したのは多くの人がまだ夏休み気分に浸っていたころ。一言でいうとアリタリアをグッド・カンパニー(採算部門とその要員)とバッドカンパニー(不採算部門と余剰人員)に分割し、グッドカンパニーは16名のイタリア人経営者の出資する新会社CAIが買収し、バッドカンパニーは国が引き受け清算するとうもの。ベルルスコーニ首相が選挙で公約した「イタリア人による経営」という純血主義を守りかつ全面倒産を避けるにはこれしかないというわけだ。これには長年の放漫経営の結果の累積赤字を市民の血税で負担することになると野党が厳しく非難し、エア・フランスに買収してもらっていればこの赤字も引き受けてくれたのにと抗議するものの「野党の反対ゆえに倒産した」といわれても困るので論調はあいまいになる。政府側は「政府は救済したくてもEUのルールに反するので救済できない。CAIによる買収案しか解決先はない。それがダメなら倒産」の一点張り。

新会社がかかげる「既存の労働条件を大幅に見直し労働生産性をアップさせる」方針に対し、5つある主要労働組合は警戒姿勢をみせつつも一応は交渉テーブルについた。一方、パイロット組合や客室乗務員組合などの4組合は別途「新会社反対」を主張し「条件悪化」を認めぬ体制だ。

労使間での徹夜の交渉の続く会合の後、いよいよ合意書に署名するか否かという日、最大の労働組合CGILが署名拒否を発表し、労使間の合意は決裂に。その翌朝9月18日CAIはアリタリア買収案の取り下げを発表。新聞記者からそれを知らされた首相は真っ青になり激怒したといわれる。「燃料代が数日しかもたない」「経営不安のままでは運行許可も数日内に取り消される」「3万2千名の全職員が路頭に迷う」というニュースがとびかう中、翌日の朝刊トップを冒頭の写真が飾ることになる。「撤退発表」を知った時に「喜びの歓声をあげた」スチュワーデスの写真だ。

経済危機にも政治危機にも慣れているはずのイタリアっ子もこの写真にはたまげた。本人も含め3万人以上の「同僚」の勤める会社が倒産し、職場自体がなくなるかもしれないのに「敵を追い払って、自分たちの既得権、労働条件を守った」と喜ぶ姿。今まで幾度も訪れた「アリタリアの危機」は「これが最後」といいながら政府が救済してきた歴史の中で、「つぶれるはずがない」という安心感の中で露呈した現実認識の甘さに国民も関係者もさすがに絶句した。組合側も「この写真は遺憾。とんでもない認識」と公式に発言し組合側の見解とは異なることを強調した。

思うに、アリタリアもこれで本当の終わりだと、一般市民も含め誰もが肌で感じたのはCAIの「撤退表明」よりこの写真を見たときではないだろうか。実際、いつ飛行機が止まるかわからないと翌日から国内移動の足は「列車」に殺到し、国鉄も臨時列車をだすほどとなった。

その後数日「膠着状況」の続いた後、野党党首がCAI会長とCGIL委員長を自宅にお茶に招き両者に歩み寄りを要請するなどの調整もあり、労使間の話し合いが再会するはこびとなった。CAI側が労働組合の要請を一部認めて顔をたてた形で、9月25日CGILが合意の署名を行った。続いて強硬姿勢をとっていたパイロット組合が署名。ついに9月29日、客室乗務員組合が最後の合意署名をすることで9つの労働組合との正式合意が成立。CAI新会社が正式発足のはこびとなった。解雇される余剰人員は3110名だが7年間にわたって現給与の8割が保証されるという手厚い待遇を受ける。11月初旬には旧アリタリアから新会社への移行が予定されている。次ぎの最大の課題は新会社への出資参加(マイナー参加)となる外国航空会社がルフトハンザになるかエアー・フランスになるか。

合意が決まると今度は与野党間で合意の手柄は誰のものかと論争がおこっている。でももしかしたら、皮肉なことに一番の貢献者はあの写真のスデュワーデスではなかったかと思えてくる。与野党や労使が立場を超えて、解決策に取り込まなければ本当に終わりと教えてくれたのは、いみじくもあの写真のおかげではないかと。


2008年9月30日
JIBO編集室
大島悦子 (Etsuko Oshima)



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