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2007/11/30

HOTなエスプレッソITALY WEB SITE編集BACK NUMBER

HOTなエスプレッソ 



田中ちひろ

京都生まれ 大阪外国語大学イタリア語科卒業、88年イタリアのシエナに留学。91年よりミラノ在住。 著書「普段着のミラノ案内」(晶文社)をはじめ、新聞、雑誌、インターネットサイト等に執筆。三井住友海上ミラノオフィス勤務。 

 

2007/9/25

51. 「近くなったオペラ」

9月のはじめ、世界3大テノールの一人といわれたルチアーノ・パヴァロッティが71歳でなくなった。
すい臓がんの手術を去年受けて、一時はかなり元気になっていたのが、夏の後半くらいから、また体調を崩してしまったのだそうだ。
かなり容態が悪いという段階から、そのニュースは世界中に報道され、なくなったときには日本や西洋諸国だけでなく、中国やアラブ、アフリカの国々でもトップ記事となった。世界中からお悔やみの言葉が届き、お葬式には イタリアの大統領、首相をはじめ、世界のそうそうたるメンバーが参列した。もちろん何千人という一般の人、オペラファン、音楽ファンも 最後のお別れをするため、はるばる彼の住んでいた町のモデナの聖堂につめかけた。
その幅広い人気は、音楽が政治思想を超え人々の心に何かを伝える証だといえるかもしれない。

パヴァロッティを送る催しとしては 彼が1961年にデビューした「ボエム」が そのデビューの場所であるモデナの私立シアターで上演された。
61年デビューということは 46年間歌い続けたということになる。

長いオペラ歌手の年月は、世界のテノールにも山あり谷ありで、その人生は安泰の人生というより、波乱の人生だった。
世界中を回り、輝かしい名声と成功を手に入れつつも イタリアが世界に誇るミラノのスカラ座で 観客に口笛を吹かれて、「もうスカラ座では歌わない」とパヴァロッティが怒ったというエピソードも残っている。
確かに耳が肥えているからか、イタリアの観客は本当に厳しい。自国が世界に誇るテノールでもだめなときはだめ、下手だという文句の口笛を容赦なく吹く。
デビューしてまもないころならともかく、1983年のことというから デビューして22年目、もうベテランの域に入っていた彼にとって これほどの屈辱はなかったであろう。
もっともそれは、いいかえると、どんなに有名になっても彼はいつも真剣勝負を強いられていたということで、そしておそらくだからこそ、46年間も歌い続けられたのかもしれなかった。

その一方で、60歳になってから、当時26歳の、アシスタントをしていた女性と再婚した。それまでずっと36年間そばで支えてきてくれた奥さんを捨てて、若い女性に走った典型みたいに思われて、イタリア中の女性を敵に回したのはそのころである。
脱税が問題になったことや、年中ダイエットと戦っていたが、どうしても好きな食べ物は我慢できなかったとか、非常に人間くさい一面も披露した。
2003年には67歳にして新しい奥さんとの間に赤ちゃんが生まれたが、双子のうち一人を生まれた直後に亡くしてしまう、そんな人生の光と影を経験したのも一般市民と変わりはない。

その人間くささの故か、或いは音楽を限りなく愛したためか、パヴァロッティはオペラを一般のひとに近づけるという 大変なことを成し遂げた人でもある。
オペラというと、どうしてもポップスやロックに比べて高尚な音楽で、なかなか素人には難しいと思っている人が多い。
オペラ歌手はきちんと声楽を勉強した優等生で、同じ歌手でもロック歌手とはレベルが違うというわけだ。
オペラを見に行くときはきちんとおしゃれしなければならないとか、チケットも高いとか、オペラを一般の人から遠ざける理由はいくつもみつかる。
実際私もミラノに来るまではそう思っていた。

ところがイタリアに来て、別にオペラに限らず たとえばちょっといいレストランに行くときとか、或いはただ夜ちょっと町へ出掛けるだけでも、家に帰って着替える、夜は普段よりちょっとおしゃれして出掛けることをごく普通にやっている人たちを見て、まず着替えることに気持ちがそれほど大げさでなくなった。オペラに行く人がジャケットにネクタイをするのは、場にあった服装をすると言う意味では ハードロックのコンサートに出掛けるのに、会社帰りの人がネクタイをはずし、皮のジャケットや破れたジーンズに着替えるのとよく考えてみれば同じなのかもしれない。
オペラのストーリーはもちろん分かったほうが楽しいが、事前に勉強できなければパンフレットを買ってよんでもいい。
難しいオペラがあることは否定しないが、たとえばカルメンなどは有名な曲が次々と流れて楽しいし、マダム・バタフライの西洋の演出家が考えた日本のイメージ、或いは衣装も興味深い。
歌詞の字幕は手元のスクリーンで数ヶ国語ででるし、年齢や通う層も想像していた以上に幅広い。つまり少なくともミラノでは スカラ座に行った若者が 翌日にはサンシーロスタジアムでACミランやインテルを応援していても全く不思議ではないのである。
チケットは確かに普通のコンサートより高いかもしれないが、それとて天井桟敷や階の高いところへ行けばグーンと安くなる。

そしてこの上さらに パヴァロッティは、オペラを一般の人に近づけたために、ポップスやロックの歌手たちと一緒にコンサートを開いたのである。
パバロッティ&フレンドと題した 1年に一回のチャリティーコンサートでには 毎年人気のあるロック歌手を招待し、彼らは一緒にデュエットをしたのである。
エルトン・ジョンや、セリーヌ・ディオン、あとイタリアでは人気のある、ズッケロとかジョバノッティらと一緒にポップスを歌うパヴァロッティの歌声に感動した人は多いはずだ。
世界3大テノールとしての彼の功績はたしかに輝かしいものに違いないが、音楽は皆同じ、音楽はジャンルが違ってもまずは楽しむためのものというメッセージを自ら実証して広めたことを ぜひ記憶に残したい。

スカラ座も夏休みを終えて9月からまたオペラを再開した。
これを機会にちょっとおしゃれをして一度オペラを鑑賞に行くというのはどうだろうか?
オペラが似合うのは秋、そして冬、まさにこれからです。

 


2007/11/30

ITALY WEB SITE 
英語で楽しめるイタリアの注目WEBサイトの紹介


「最後の晩餐」高画質サイト
http://www.haltadefinizione.com

ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラッツィエ教会に残るレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作『最後の晩餐』。この有名な壁画を、パソコン上で160億画素という高画質で見ることのできるサイト。イタリア文化財省等のイニシアティブで実現した。


2007/11/30
編集後記
- トレントの石切り場 -

11月半ば、在イタリア日本商工会議所主催の産業視察ツアー「プント・ディ・インコントロ」に参加してイタリア最北部にあるトレントに行った。
ミラノから車で北へ3時間余、オーストリア国境に近い人口10万に満たないトレントの町はアディジェ川沿いにあるさわやかで感じのいい都市だ。
歴史的市街地(チェントロ・ストリコ)は15分も歩けば一通りまわれるほど小さいが、高校時代の世界史授業で習った「トレント公会議」の舞台となった大聖堂、13世紀のプレトリオ宮殿、ドウーモ広場、そして1803年までトレントを納めた領主の住居だったブオンコンシリオ城もあり、見どころは少なくない。目抜き通りには壁面に美しいフレスコ画が描かれた建物も数多くあり好奇心が沸いてくる。そして何よりも隅々まで修復され手入れの行き届き、暖かみのある街空間に魅惑される。

1日半と短い日程ながら中身の濃い視察プログラムの中で特に印象に残ったのはトレント近郊アルビアーノにある石切り場の見学であった。石の名前は「ポルフィードPorfidi」。初めて聞く名前だが、日本名は「斑岩」といい中国やアルゼンチンが主生産地でイタリアではこの地域に集積しているようだ。

高台から石切り場を見ると険しい表情の鉱山になぜか圧倒される。一見では灰色の石山だが、説明を聞いてよくみると、同じ鉱山でも層により様々な色の石があることがわかる。グレー、薄茶、薄桃、そしてパープルが主流で各色とも様々な濃淡がある。大きなかたまりを採掘し、層ごとに分け、さらに小さい敷石の形態に割った後に多少磨くと本来石の持つカラーが鮮明になり、独特のミックスカラーが美しい石畳をつくる。グレーと赤の混色、味のある表面で素朴ながらしゃれた雰囲気を作り出す。石の見事な「大変身」に見とれながら、ショールームでこの石の活用事例のスライドを見ていると、早朝に見てきたトレントの中心、ドウーモ広場の写真があった。ああそうか、あの暖かみのある街づくりにこの石が大きく貢献していたのか、と合点する。ついつい上物の建築物に目を奪われていたが、個々の素晴らしい歴史的建物をつないでいるのは足元の道路であり広場である。その材質や組み方によりこんなに街の表情が変わるものかと驚いた。

さらにミラノでもサンバビラ広場の舗装に使われていることを知り、急に石畳に関心が高くなってきて、道を歩いていてもつい足元の舗装に目がいってしまう。そして私の仕事場近くの広場や通りもこの「ポルフィード」が使われていることに気がついた。トレントと急に距離が近くなったような嬉しい発見だった。それにしてもミラノでもこの寒さ。視察時にも強風の吹き付けていた山腹の石切り場、どんなに寒いだろうか。

参考サイト www.porfido.it


2007年11月30日
JIBO編集室
大島悦子


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