田中ちひろ
京都生まれ 大阪外国語大学イタリア語科卒業、88年イタリアのシエナに留学。91年よりミラノ在住。
著書「普段着のミラノ案内」(晶文社)をはじめ、新聞、雑誌、インターネットサイト等に執筆。三井住友海上ミラノオフィス勤務。
2003年の経済政策の一環として condono tombale(コンドーノ・トンバーレ)が行われることになった。
コンドーノとは大恩赦、そこへ今回はトンバーレ、お墓の、という形容詞が特別について、要するに「今回いくらか政府にお金を払えば、墓石にふたをするように過去の税金に関するあらゆる不正や誤りを赦して今後一切それについては問いませんよ」という特別の決まりである。
さすがは脱税の国イタリアだと初めて聞いたときには笑ったが、今回のコンドーノで、政府は約80億ユーロの収入を見込んでいる(財務専門家の推定では100億ユーロ)と聞いてその凄さに驚いた。
今回対象となるのは97年から2001年までの5年間の所得税、法人税、付加価値税、資産税などで 納税者は個人や小さい商店と法人、自由業などのカテゴリーに分けられ、それぞれの納税額に応じてその8% ,6%, 4%を国に収めることになる。今回のコンドーノは前回に比べてその最低額もかなり抑えられていて、たとえば個人の場合だと100ユーロx5年で500ユーロ今回収めれば、過去にどんな税金逃れや税制上の不正をしていても 今後一切責任は問われないことになる。
ところでイタリアでのこの納税者と政府の知恵比べにはなかなか興味深いものがある。
平均的なイタリア人には脱税をすることは良くないことという認識は一応あるが、それと同時に「まともに税金を納めるなんてまぬけだ」という発想もある。
業者を呼んで家の中のちょっとした修理をしてもらったり、何か大きな買い物をしたりするときに、「領収書なしでよければ安くしてあげる」という言葉に良く出会う。
こちらは負けてもらえる分と得だし、売るほうも申告しないで付加価値税を払わないという魂胆である。
イタリアは日本と違って過去何世紀にもわたり外国人に侵略され、支配された歴史を持つからか、そもそも政府というものを信用していない。信用していないから、自分のことは自分で守り、自分で自分と家族の利益を守るという考えが当然のこととして人々に染み付いている。
国家のGNPや諸々の数字なんてどうでもいい。
だからこそ、いつも財政赤字で、一時はEUに入れるかどうかさえも危ぶまれたはずの国の人々の生活を見ると、セカンドハウスを持っていたり、夏は優雅に1ヶ月のヴァカンスを楽しんだりと、その生活水準は経済大国の日本よりずっと豊かだったりするのである。
地下経済がGNPの1/5ともいわれるイタリアだが、そういえばこんな笑い話のような本当の話がある。
リラからユーロに変わるとき、ローマの不動産は大ブームとなった。数ヶ月のうちに価格もどんどんあがったが、それでも買う人が後をたたなかった。
なぜかというと、家のどこかに隠してあった、つまり銀行にもっていけない、ユーロに変えられないリラをひとびとは何とかして使わなければならなかったからだ。
一方、政府は政府でそんなことは百も承知である。
ところがそのあたりは見てみないふりをする。
時々見せしめのために、たまたま運悪くみつかった脱税者に多大な追徴金を課すこともあるが、国民のひとりひとりをチェックするなんて気が遠くなるような作業は大の苦手である。
だったら、脱税のチェックをひとつひとつ行うのにかかる時間とコストを省き、「今回コンドーノに参加しなかった人には徹底的にチェックをする」と脅かし、わずか数ヶ月で莫大なお金を国庫に収めてしまおうというその発想、その要領のよさ。
そしてもちろん納税者にしても過去の脱税がチャラになるから得なので、文句もいわずに払うことになる。
(第一、やましいところが泣ければ払わなくてもいいはずだから、そこは表立って文句をいうことができないようになっている)
脱税とコンドーノ、納税者と政府、イタリアの場合、それらは共犯者の関係なのかもしれない。