田中ちひろ
京都生まれ 大阪外国語大学イタリア語科卒業、88年イタリアのシエナに留学。91年よりミラノ在住。
著書「普段着のミラノ案内」(晶文社)をはじめ、新聞、雑誌、インターネットサイト等に執筆。三井住友海上ミラノオフィス勤務。
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週末に友達のカントリーハウスに招待されて行った時のこと。
アペニン山脈のなだらかな山間を、小高い丘の上から眺める感じのその家には、
とても大きな庭があった。
いろんな果物の木や、花々が咲き乱れるその庭には、小さな池があって、その横には、ギリシャ風の小さな柱と池を眺めるカエルの彫刻、石のベンチ、そして石膏で出来た白雪姫と7人のこびとの像があった。
ゆっくり眺めた夕日が沈むと、肌寒くなってくるので家の中へ入る。
デッキチェアをかたづけていると、友人は、7人のこびとの像をひとつひとつ家の中に運び込んだ。なぜそんなことをするのかと、理由を尋ねると、庭においておくと 夜の間に盗まれるからだという。人里はなれたそんな田舎の家までやってきて、その上よりによっても、こびとの像を盗んでいくなんてと私が笑うと、ちゃんと意味があって、こびとを盗む組織があるんだと説明してくれた。
こびとを解放する会。
聞くところによると、97年にフランスで生まれたという、そのムーブメントは、今やヨーロッパ中にひろがって、実際にドイツやオランダでは、大量に盗まれたこびとの像が森の中で見つかったそうだ。その会によると、こびとはその自由な魂を石膏の中に固めて閉じ込められ、人間の慰めものにさせられて、本来の知恵や恵みを世の中に贈れなくなっているという。したがってこの会の目的は、そんなこびとの魂を救い出すことにある。
こびとの起源は北欧神話だといわれているが、かつてこびとは民間の間で親しまれ、その存在を信じられていた。今年大ヒットした「The Lord of the Rings」のホービットのように 人間と協力して何かを成し遂げたり、人間が眠っている間に台所をかたづけてくれたり、人間にとって比較的友好的なこびとが多いが、いずれにしても、それぞれがしっかりとしたキャラクターをもった存在として受け止められていた。
それを証拠に、「白雪姫と7人のこびと」のこびとも、日本では一人目のこびと、二人目のこびとと言うのに対して、イタリアでは、一人一人きちんと名前がある。
いつもくしゃみばかりしているのがEOLO、半分寝ぼけているのがPISOLO、文句ばっかり言っているBRONTOLO、感激屋のGONGOLO
めがねをかけている物知りはDOTTOで本ばかり読んでいて、甘えん坊はCUCCIOLO、そしてお人よしのMAMMOLO......
こびとを解放する会のひとたちがどこまで真剣にこびとやこびとの魂を信じているかはしらないが、また、そしてそれが人の庭のこびとを盗む行動を正当化するとは決して思えないが、いまの時代に、そういうことに一生懸命になれる人々がまだたくさんいるかと思うと、夢があって微笑ましい。
こびとを解放する会のスローガンにはこんなことが書いてあった。
石膏のなかに閉じ込められたこびとの魂、
本当は自由で明るくていたずら好きなこびとの魂は、
開放されて、思いっきり幸せになる権利がある。
”こびと”の部分を”人間”におきかえてみたらどうだろうか?