田中ちひろ
京都生まれ 大阪外国語大学イタリア語科卒業、88年イタリアのシエナに留学。91年よりミラノ在住。
著書「普段着のミラノ案内」(晶文社)をはじめ、新聞、雑誌、インターネットサイト等に執筆。三井住友海上ミラノオフィス勤務。
春分の後の最初の日曜日がイースター(復活祭)で、そのイースターの前の40日間が四旬節。キリストが荒野をさまよって、悪魔の誘惑に耐えた試練の40日間にちなんで、キリスト教徒は肉を絶ち、心静かに時を過ごす。だた、その四旬節の前に、思いっきり羽目をはずそうと始まったお祭り、それがカーニバル(謝肉祭)である。
果たして、四旬節をきちっと実行しているイタリア人が、どのくらいいるのか、は知らないが、カーニバルの方は、イタリアの各地で、町中の大変なお祭りになる。
そんなカーニバルが今年も始まった。
イタリアでカーニバルといえば、ヴェネツィアとヴィアレッジョ(ピサの近くの町)が有名である。
ヴェネツィアの方は、とにかく美しい。
中世の映画の世界に迷い込んだような、クラシックな衣装をつけて、カサノバが通ったバールで、コーヒーを飲む人々や、贅沢の限りを尽くして作られたドレスに、これまた華やかな仮面をつけて、優雅に運河沿いを歩く人々。或いは、ヴェネツィア独特の黒いマントに、鼻がとがった真っ白なお面の男性たちを、広場で見かけるたびに、あちこちでため息が漏れる。
芸術的で絢爛豪華。世界的に有名なヴェネツィアのカーニバルに参加する人は、スポンサーつきで、何ヶ月もかけて衣装や仮面の準備をするという。
一方、ヴィアレッジョのカーニバルは楽しい。
ユーモアいっぱいの衣装や人形、政治家をからかった仮面や社会風刺の出し物が、大きな山車にのって、町中をパレードする。
ヴェネツィアが美で競うとすれば、こちらはアイデア、風刺、ユーモアで人々の評価が決まる。
ところで、ミラノはと言うと、一週間遅れてカーニバルが行われるが、残念ながら 子供たちが仮装するくらいで、大人たちは特別なことをあまりしないようになってしまった。
もっとも、カーニバルにちなんだ催しやお菓子は、町中にあふれているが。
ところで、このカーニバルの時期、通りを歩くのは十分気をつけたほうがよい。泡の出るスプレーや、紙ふぶきの入ったクラッカーをだれかれかまわず、通りで吹っかけてもいいからだ。地下鉄の中や町の広場では、いたずらっぽい目を輝かせた少年や、スーツを台無しにされて慌てている紳士の姿があちこちで見かけられる。
念のため、汚れてもいい服を着て外出するか、いっそのこと、仕返し用にスプレーを仕入れるか、たまには遊び心を思い出すのもいいかもしれない。