田中ちひろ
京都生まれ 大阪外国語大学イタリア語科卒業、88年イタリアのシエナに留学。91年よりミラノ在住。
著書「普段着のミラノ案内」(晶文社)をはじめ、新聞、雑誌、インターネットサイト等に執筆。三井海上ミラノオフィス勤務。
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9月11日のニューヨークとワシントンDCへのテロリストによる破壊はあまりにも大きな衝撃だった。
特に民間人被害者の数が3万人ともいわれているWorld Trade Centerへの旅客機の追突場面の映像は
ここイタリアでも何千回と報道され、人々の心に果てしない怒りと悲しみと恐怖を刻み込んだ。
なぜ、こんなことが起きるのか?できるのか?
そしてこれからどうなるのか?
放映される救助作業を見つめながら
人々は問う
政治外交レベルではNATOのメンバーであるイタリアは
その第5条 - NATO加盟国の一国が外部から攻撃を受けた場合
その攻撃はNATO参加国すべてに与えられたものとみなし、攻撃を受けた国の支援、援助、
必要ならば武力を用いての協力を行う - を今非常に重く受け止めている。
テロリストの行為を野放しにすることはできないという決意の一方で
テロリストと同じように民間人を犠牲にする戦争はするべきではない.....
人々は街角や職場で、政治家やあらゆる分野の専門家はTVや紙面の上で討論を重ねる。
事故のあったその日から、空港をはじめあらゆるセキュリティーの取り締まりが非常に厳しくなった
テロリズムに関与する組織がいくつもあるといわれるイタリアをはじめヨーロッパの町では
すでに不審な人物が逮捕されている。
事件があって2日後にイタリアではもう既に移民法の見直しまで行われている。
社会文化レベルでも今回の出来事は人々の心を深く傷つけた。
そんな中でイタリアでとくに細心の注意が払われていることが2つある。
ひとつはアラブ人或いはイスラム教徒=テロリストではないということ。
テロリストへの憎しみ、怒りが、ひとつの宗教、ひとつの人種、ひとつの文化に結びついて
歴史上かつて行われたような宗教戦争、人種間戦争の芽を生まないように。
ヨーロッパの中東に最も近く、日常生活の中でアラブ人と出会わない日はないイタリアで
人種間の憎しみ、偏見は絶対に避けなければならないものなのだ。
TVのニュースは毎晩被害にあったアメリカ人のためにモスクで祈るイスラム教徒たちの姿を放映し
テロリズムを非難するアラブ人にインタビューする。
もうひとつは未来を担う子供たちに今度のことをどのように説明すればいいのかということ。
SF映画の1シーンと区別がつかない映像が事実だと悟ったときのこどもたちのショック、そして質問
「パパ、なぜ、人を傷つけたがるひとがいるの?」
大人でも答えられないこの質問にどう対処すればいいのか
小中学校、高校、大学、それぞれのレベルで教師たちは緊急会議を開き、新聞は紙面を割いて
インターネットでは数多くの専門化が、教会では祈りを通して、人々がその問題について話し合っている。
残念ながら「悪は存在すること」、そしてその悪に傷つけられたとき、泣いたり怒ったりすることは
人間としてごく自然なことであること、でも、最も暗い闇はその周りにまぶしいほどの光があるからこそ
見えるということをわすれないようにと
いろんな人が言葉を変え 形を変え、告げようとしている。
World Trade Centerの瓦礫の上にたてられたアメリカの国旗を見ながら、多くのイタリア人が涙した。
あれはアメリカではなく、自由を平和を愛するすべての人のシンボルだと。
事件の3日後、イタリアはもとよりヨーロッパ中で正午から3分間、
職場や商店は照明が落とされ、すべての交通機関、そして町を行く人が立ち止まった。
時間にしてはわずかであっても、すべての人がその活動を止め、はるかアメリカを思いながら 静かに祈った。